第25話 大華連邦、皇国再侵攻2
皇国SS-62、剣星系。
剣星系唯一の惑星、SS-62-a黒磯。人口100万ほどの開拓惑星で、恒星剣と惑星黒磯の作る第2ラグランジュ点L2にも、二重反転シリンダーをもつ人工惑星が建造され、第38艦隊が駐留していた。旧式軽巡1隻と同じく旧式駆逐艦4隻の地方艦隊であり、最新鋭艦からなる艦隊と艦隊戦を行った場合、鎧袖一触で撃破されることは目に見えている。
剣星系も大華連邦の実質属国と化したユーグの領域星系から一度のジャンプで到達可能圏に存在する星系であるため、航宙軍本部は、第38艦隊司令部に対し、厳なる警戒を行うよう指示している。この指示は、今となっては、他国からの侵攻に対して死守命令に変更される前段階の指示と現場では考えられている。
剣星系には、他星系と比べ二倍近い9個の安定宙域があるため、機雷を全安定宙域へ均等に敷設した場合、効果が薄いとされ、安定宙域へ機雷などは敷設していない。その代り第38艦隊は保有するホーミング機雷を全て惑星黒磯が作る恒星剣方向の第1ラグランジュ点L1に敷設した。
機動力の低いホーミング機雷では、近接防御力の高い艦に対してはあまり効果がないが、L1付近に敵をなんとか誘導し、運が良ければ、数隻の敵艦を撃破することもできるかも知れないという程度の物である。
人工惑星内の第38艦隊司令部では、大華連邦の艦隊が現れた場合、消極戦闘により、極力消耗を避け、主力の第3艦隊が救援に現れるまで持久していく方針である。
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改修なったURASIMAから出撃したTUKUBAは、恒星や惑星近傍でない限り星系内のどこからでもジャンプ可能ではあるが、その時URASIMAにもっとも近い安定宙域SS01内で待機状態に入った。竜宮星系を訪れる宇宙船にはジャンプアウトはSS01以外で行うよう星系ジャンプ管制に指示している。
『今回、敵は2隻の攻撃機母艦を繰り出します。攻撃機の発艦を許してしまいますと厄介ですので、攻撃機が発艦する前に母艦を撃破します。母艦を撃破してしまえば後は簡単に敵艦隊を殲滅できます』
「駐留艦隊の動きはどうなんだ?」
『終始消極的な動きに徹すると予想しています。作戦には支障はありません』
「了解した」
『剣星系に侵入することが予想される敵戦力ですが、これまでと全く変わらず、以下のようになります』
大華連邦宇宙軍第3艦隊
巡洋戦艦×2
攻撃機母艦×2
重巡洋艦×8
軽巡洋艦×8
駆逐艦×32
+高速補給艦×3
『侵入した敵艦隊の後方にジャンプアウトし、初撃、第2撃で攻撃機母艦を撃破後順次敵艦を撃破し、最終的に高速補給艦の中の給兵艦一艦を残し殲滅します。今回はTUKUBAに特殊戦隊員を搭乗させますので、この給兵艦を拿捕し、竜宮星系まで回航します。特殊戦隊員たちは艦船の操艦訓練を受けていますので間違いなく拿捕艦を回航できます』
『拿捕した後は、捕虜とした乗員を連絡艇に乗せ、その後の処遇は剣星系駐留艦隊に任せます』
特殊戦指揮官、特殊部隊将校、特殊部隊員、および陸戦隊員を皇国各地からリクルートし、合わせて一個小隊相当50名をすでに確保している。今回その50名の中から、10名を選抜し、敵艦拿捕要員とした。
10名を5名ずつ二基の対艦突入ポッド内に待機させ、突入ポッド用に連絡艇デッキを改修したTUKUBAにポッドごと搭乗させている。拿捕要員は敵艦が降伏し艦を明け渡す意思を示した時は突入ポッドからこの作戦のために用意した連絡艇に移乗して敵艦に向かうことになる。
敵の剣星系への侵入が予測される時刻まで、あと数分。
「ワンセブン、今回も、頼んだぞ」
『了解』
……
『剣星系の広域探査網が複数のジャンプアウト検知しました、大小合わせ総数55。大華連邦艦隊と断定。光学観測急ぎます。……、光学観測結果出ました』
「それじゃあ、TUKUBA、全兵装使用自由」
『1番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……充填完了』
『2番、特殊砲弾装填、反物質充填開始』
『TUKUBA、ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』
一瞬の軽いめまいと同時に、モニター上の周辺宙域を表す宙図が竜宮星系のものから剣星系のものに切り替わった。至近に赤い点がかなりの数モニター上に映し出されており、赤い点群の前面にはアステロイドベルトが迫っている。
『TUKUBA、ジャンプ30秒前、28、27、……』
『2番、反物質充填完了』
『3番、特殊砲弾装填、反物質充填開始』
『1番。目標、敵第1母艦。照準良し。第1射、発射』
『2番。目標、敵第2母艦。……照準良し。第2射、発射』
『……、3、2、1、ジャンプ』
次にTUKUBAの現れた場所は、いつものように、アステロイドベルトの中だ。
『3番。目標、敵第1巡戦。照準良し。第3射、発射』
『第1射、着弾。質量拡散確認。敵第1母艦、撃破しました』
『第2射、着弾。質量拡散確認。敵第2母艦、撃破しました』
……
『1番、弾種、徹甲。装填。目標、敵第3輸送艦』
『敵第3輸送艦に対し、降伏勧告を行います』
『第54射、着弾。質量拡散確認。敵第2補給艦、撃破しました』
『敵第3輸送艦、降伏勧告を受諾しました。機関を停止した模様です。TUKUBA、敵第3輸送艦に接近します』
『敵艦は降伏したため、突入隊員は、突入ポッドより連絡艇に移乗して、敵艦の接収を急ぐように』
【補足説明】
給兵艦:
ここでは、砲弾などを運搬する艦種として取り扱っています。
対艦突入ポッド:
5名程度の人員を乗せた砲弾型のカプセル。先端に衝角と呼ばれる硬質の突起を備えている。母艦より射出後、自走加速し対象の敵艦船の非装甲部分ないし装甲板の継ぎ目などに目がけ高速で突入する。突入時の破口より斬り込み隊員が敵艦内に進入する。これと似たもので揚陸艦は、惑星降下用突入ポッドを装備されているが惑星降下用突入ポッドは対艦突入ポッドと異なり衝角を備えていない。