第22話 スラビア、再侵攻
スラビア共和国第二方面第1艦隊と第2艦隊は大華連邦の属国ミコリアナを席巻したのち、一度自国領内に戻って補給を済ませた。巡洋戦艦主体の高速艦隊である第2艦隊はその後大華連邦領域内に侵入しひとわたり大華連邦の星系を巡り宇宙関連施設を破壊し、自国領に撤収していった。完全な挑発行動だった。
戦艦主体の打撃艦隊である第1艦隊は自国領後方に下がり、これまで国内に温存されていた雷撃戦隊主体の第二方面第3艦隊とともに第2艦隊の後詰の位置に付いて、第2艦隊を追って自国領内に侵入する大華連邦の艦隊を迎撃する構えをとっている。
スラビア側のこの動きに対して、大華連邦宇宙軍はスラビア第2艦隊を確実に撃破するため主力である戦艦主体の第1艦隊を送ったものの高速艦で構成された第2艦隊を捕捉することが出来ず、ただ翻弄されるだけだった。本国内に撤収したスラビア艦隊を追ってスラビア領への侵入することも政府内で議論されたが、現時点でのスラビアとの本格的戦争は勝利が望めないと断念し、第1艦隊もいったん後方に下げた。
こういった一連のスラビア共和国側の動きにより、大華連邦の人類宇宙でのプレゼンスがさらに低下していき、大華連邦発行の共通通貨単位(注1)の市場レートが悪化していくとともに、領域周辺部での治安は悪化の一途をたどった。
活発に活動するスラビア共和国第二方面軍は、境界領域における大華連邦からの圧力低下をうけ、その矛先を、皇国との境界領域に向けた。
スラビア共和国第二方面軍のこれまでの活発な動きを警戒していた皇国航宙軍は、スラビア共和国との境界領域の警戒をさらに厳とするため、従来より当方面で警戒を続ける主力の第7艦隊(戦艦主体)に加え、皇国中心星域より第1艦隊(巡洋戦艦主体)を派遣した。もちろん主力艦隊の軍事派遣であるため皇王の裁可を得ての派遣である。
皇国には主力艦隊として、この第7、第1艦隊の他、皇国中心星域に将来の外征を見越して創設された第3艦隊が控えている。
現在皇国は、戦艦6、巡洋戦艦6、攻撃機母艦4の6×6×4艦隊を実現しており、皇国史上最強の戦力を誇った陣容になっている。皇国はこれらを第7艦隊、第1艦隊、将来の外征を見越して創設された第3艦隊の三つの主力艦隊に割り振っている。
第7艦隊(打撃艦隊)
戦艦×6
重巡洋艦×6
軽巡洋艦×6
駆逐艦×36
+各種補給艦など
第1艦隊(高速艦隊)
巡洋戦艦×4
重巡洋艦×8
軽巡洋艦×8
駆逐艦×48
+各種補給艦など
第3艦隊(機動艦隊)
巡洋戦艦×2
攻撃機母艦×4
重巡洋艦×4
軽巡洋艦×6
駆逐艦×36
+専用工作艦を含む各種補給艦など
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わが村田軍はURASIMAでの実験部の出先事務所を引き払い、新たに追加されたシリンダー部分に、本部事務所を構えた。今のところ、本部要員は俺を含めていつもの三名なのだが、うちの人数も増えてきたし、山田少佐には次の仕事があるので、そろそろ本部人員を増やす必要がある。乙姫のコロニーも含めて医療関係も充実させなければならないので、そちらの手配も必要だが、目途は立っているようだ。
それはさておき、新しい事務所内に構えた執務室の中でTUKUBA内のワンセブンと俺は会話をしているところだ。
「スラビアの動きもワンセブンの予測通りだ。なんだか怖くなるな」
『お褒めにあずかり恐縮です』
「そうか。それで、本当に皇国の航宙軍は負けないのだな?」
『甚大な被害を被りますが、かろうじて星系内に居住する民間人に被害が出ることもなく、皇国領を守り切ることができると予測しています』
「甚大な被害というと?」
『主力艦では戦艦4、巡洋戦艦4、重巡以下の補助艦艇は多数を喪失するものと予測しています』
「たしかに甚大だな」
『撤退の許されない、星系防衛型会戦ですから仕方ありません』
「スラビア側の陣容は?」
『スラビア側の会戦前後の陣容は、ご覧の通りです』
モニターの上に数字がゆっくり流れる。
スラビア共和国第二方面第1艦隊
戦艦×6(2隻喪失、2隻大破、2隻中破)
重巡洋艦×12(4隻喪失、4隻大破)
軽巡洋艦×8(6隻喪失)
駆逐艦×48(32隻喪失)
+各種補給艦など
スラビア共和国第二方面第2艦隊
巡洋戦艦×4(2隻喪失、2隻中破)
重巡洋艦×8(2隻喪失)
軽巡洋艦×8(3隻喪失)
大型駆逐艦×16(4隻喪失)
+各種補給艦など
「こっちも大概だな。ここまで被害が大きくなるまでに攻め手側なんだから撤退しても良かったろうに」
『本会戦における総合戦力は皇国が勝っていますが、当初より戦力が分断されるため、全力発揮が出来ません。会戦前半スラビア側が優勢だったためその時点で無傷だった主力艦が戦果拡大のため星系内に深く侵入したことにより離脱が遅れます。
スラビア側は損傷艦を早期に離脱させたため喪失艦の数は少なくなっています。なお、重巡以下の補助艦艇の喪失数にはある程度の誤差を含みます。主力艦についてはほぼこの通りの会戦結果になります』
「……、われわれは介入しなくていいのか?」
『両軍が適度に消耗をすることが必要ですので、介入はお勧めしません。しかも次の作戦のため、現在TUKUBAは改修作業中です』
「そうだったな。われわれは静観しながら、力を蓄えていくんだったな」
『前回、徹底的に敵を叩いていますので、ここ竜宮星系に手出しされることはありません。次の作戦のための高速連絡艇は、作戦担当人員とともにすでに皇都内で待機済みです』
火と鋼の季節が皇都にも訪れようとしていた。
注1:共通通貨単位
共通通貨単とは人類宇宙で国家間の決済に共通に使うことのできる手形で10年程度の期限付きのものが多い。相手国の物品の購入が記載金額内で購入できる。決済期限において残額が5%を下回っていた場合は、金で最終決済される。ちなみに最新鋭大型戦艦の建造費が5千万共通通貨単位と言われている。共通通貨単位には各国通貨での売買レートの相場が存在し、各国市場で取引されている。