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第6話 X-71性能試験3


「試製事象蓋然性演算装置X-PC17、通称ワンセブンと言います。ゆえあって『試製』とついていますがそこは今となってはあまり意味はありません。

 ワンセブン、艦長に自己紹介を」


『村田中佐艦長、初めまして。先ほど山田博士、いえ、山田技術大尉から紹介にあずかりましたワンセブンです』


「こりゃあどうも、艦の中央演算装置なのに話せるのか? こいつは驚いた。まさかエセAIってことは無いよな? しかも俺には理解できないような名前だ。字面じづらから判断すると、出来事の起こる確率を計算するってことだろうが、それじゃあ漠然とし過ぎてるか。ということは、未来を予測するってことか?」


『はい。未来を予測するだけでなく、予測に基づきよりよい未来を作り上げる提案を行うことが私の役目です。言い方を変えれば「望む未来を実現するためにいかに世界に対して効率的に干渉していくのか」を示すことが私の役目です。さらに言えば、示すだけではなく、私自身も情報を操ることで世界がいぶに対して干渉していくことが可能です』


「未来を作るとか干渉する話はおいおい聞かせてもらうとして、今は先程の射撃と短距離ジャンプだ」


『未来予測に比べれば、物理法則にのっとった物体の挙動はモデルそのものが単純ですので非常に簡単です。例えば敵艦に対し実体弾を発射し、敵艦に砲弾を命中させること。いいかえれば、敵艦と発射した実体弾の各々の未来位置をある時刻において合致させることは、砲の精度が正確に測定でき、砲弾の飛翔経路に障害がなければ、簡単なことです。先程の射撃は砲弾の飛翔経路上に障害はありませんでしたが、小惑星帯の中から同じく小惑星帯の中に存在するてきかんに砲弾を命中させることも可能です。

 これは障害となりうる小惑星の自転速度や公転速度、公転軌道を一度観測しておけば、後は計算するだけですので、小惑星を縫うように砲弾を発射すればいいだけなので簡単ですし、てきかんは小惑星が邪魔で反撃できませんから有効な攻撃手段になります。

 ジャンプ関連はタダの繰り返し計算ですし、照準関連を含め私の機能をほんのすこし使った余技のような物です』


「それが、余技なのか?」


『はい、ただの余技です。この世界の未来を予測することができる私にとって単純な物理現象を予測することは簡単なことです』


「簡単なことか。言うな」


『村田艦長に信じていただくために燃料は多少消費しますが、この艦の性能向上の極めつけともいえる、連続短距離ジャンプを行いましょうか?』


「できるのならやってくれ。燃料については気にしなくていい。

 吉田少尉、聞いていたか? これより本艦は短距離ジャンプを行う」


「了解しました。可能とは思えませんが連続ジャンプに備えます」


『それでは、外惑星、SS-72-b、SS-72-c各近傍に順にジャンプしたのちSS-72-a乙姫おとひめ近傍に跳びます。

 ジャンプ30秒前、27、26、25、……3、2、1、ジャンプ』


 ジャンプ特有の意識が一瞬切り替わったような感覚の後、オペレーティングデスク上のモニターに、ガス巨星SS-72-bが映し出されていた。隣のモニターに映る3次元星系マップ上にSS-72-bを表す灰色の球の近くにX-71を示す白い紡錘型のマークが見えている。艦内から外部を直接視認することは出来ないが、ちゃんと短距離ジャンプが実行されたようだ。とはいえ1度目のジャンプは、事前に準備していれば可能だ。2度目はそうはいかないはずなのだが、


『30秒前、……15、14、……、3、2、1、ジャンプ』


 再度ジャンプ特有の感覚を味わったあと、先ほどと同じように、SS-72-bとは形の明らかに異なるSS-72-cがスクリーン上に現れた。


『30秒前、……、3、2、1、ジャンプ』


 そして、青く輝く惑星SS-72-a乙姫おとひめがスクリーンに映し出された。


「ひゅー」


 吉田少尉が、自席で妙な口笛を吹いた。


 やめんか、こら。ここは一応軍艦の中なんだぞ。とはいえ気持ちは分かる。


『いかがでしたか? なお、この艦の性能を航宙軍に対して(・・・・・・・)秘匿するため、今回の一連のジャンプに関するデータは航宙軍の広域探査システムからリアルタイムで消去したうえ、整合性を持ったダミーデータを与えていますので、航宙軍にこの艦の動きが察知されることは有りません』


「秘匿できれば、報告書を書かなくて済むしありがたいが、そんなことまでできるのか!」

『デジタルデーの改ざんなど「朝飯前」です』


『朝飯前』だろうと航宙軍のデータベースに細工したことがばれたら軍法会議ものではあるが、やってしまった以上今さらではある。

 何か取引材料があれば軍法会議での手札になるんだが。


「ワンセブン、おまえがすごいということは十分理解した。おまえの能力をもつ演算装置の数を揃えることは可能なのか? それが可能なら、皇国航宙軍は無敵になるのだが」


『未来予測能力を持つものが複数存在した場合、予測される未来の揺らぎが干渉しあい増幅されてしまうため、どのようなオペレーション(かんしょう)を行ったとしても収束しません。ようは未来予測が無意味になってしまうということです。そうなってしまわないよう、私のコピーが作成できないようすでに対応しています』


「なるほど。なにをどうしたのか見当もつかんがすごいな」


『しかし、ここには私の生みの親である山田博士がいらっしゃいますので、戦闘関連に特化した、私のダウングレード版なら将来的には製作可能です』


「フッ、ダウングレード版な。

 そこは覚えておこう。それでお前の生みの親の山田大尉がここにいるということは? うーん。確かに経緯は複雑のようだな。それで、あとあと問題が起こるようでは困るがそこらはどうなんだ?」


『私も山田博士も跡を濁さず発っていますので、間違いはありません』


「そこは信じるしか無いか。わかった」


『戦術レベルでのお話が、もう一点』


「なんだ?」


『先ほどの主砲発射はただのお遊びでして、この艦、X-71の主砲の命中精度は、皇国の標準戦闘艦の主砲命中精度の1000倍と考えてください」


「極秘だが、皇国の主力艦の主砲の命中精度は、敵艦が戦闘行動中の場合は1パーセント前後だ。その1000倍とはどういう意味だ?」


『現在の一般的砲戦距離であるといわれています120万キロ程度では、この艦が健在であるなら、どのような状況であれ(・・・・・・・・・・)発射された主砲弾は必ず敵艦に命中します。しかも、射界内なら命中個所を任意に選ぶことができます。先ほどは、でき上りのデブリの発生数を抑えるためわざと着弾個所を散らしましたが、3発同一カ所に命中させることも可能でした。山田大尉が言及した、150万キロの100倍でも的が小惑星や衛星でしたら同様に砲弾を命中させることができます』


「大昔の偉い軍人さんが『百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に勝る』とかいって後で批判を受けたとか受けなかったとかいう話を聞いたことがあるが、おまえさんの言うことが真実なら、一撃で敵を粉砕可能なこの艦の主砲をもってすれば、あながち間違いではないな。どのみち、この艦の主砲のことはおまえも詳しく知ってるんだろ? ワンセブン」



【補足説明】

広域探査網、広域探査システム

広域探査網は、重力探知機と光学観測装置を組み合わせ、超空間ジャンプによる星系内への侵入を監視する。広域探査システムは広域探査網を統括するシステム。光学観測装置は安定領域を中心に星系内に複数設置されている。



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