居場所 2
14畳ほどの広々とした横長な部屋は、ピンクとブルーの壁紙で左右が色分けされてある。
天井も星柄にしており、なんとも子供心をくすぐるかわいらしい子供部屋である。
「うちの子供はね、女の子と男の子2人なの。今はまだ小さいから、一緒の部屋でもいいんだけど、大きくなればそれぞれの部屋が欲しくなるでしょう?だから、将来は間に壁を作ってもらって、2部屋にできるような、フレキシブルな子供部屋にしてもらったのよ」
当時中村さんは、どうしても子供部屋が欲しいと言っていた。
どうやら、子供時代に自身の部屋がない生活だったようだ。
とはいえ、せっかくお子様が2人いるから、小さいうちは1部屋で、将来的にはパーテーションを置いたり、壁を作るなどで仕切り、2部屋に改造するという提案をした。
「ほら見て、もちろん扉も、クローゼットも、ベットも。間に間仕切りを入れても使えるように2つずつ、あるでしょう?」
「本当ですね。よく考えられたお部屋ですね」
トーンの上がった彼女の声から、気持ちの高まりが想像できる。
ただ、ご主人だけは、一人こわばった表情が抜けない。
「中村さん、書斎を見せていただけますか?」
そこで、別の部屋を紹介しようと、中村さんに話を振った。
展示場で彼女から、ご主人が仕事柄、よく本を読むと聞いていた。
どうやら、現代文の教師をしているようだ。
「うんうん!そしたら、書斎はこっちよ!」
子供部屋とちょうど反対側にあたる部屋に、中村さんは案内をしてくれた。
「ここはね、主人の書斎。趣味でよく本を読んでいて、狭くてもいいから集中できる部屋が欲しいって言ってたのよ」
2メートルほどの高い本棚には、本が100冊は並んでいるだろうか。
近くには、小さなデスクがあり、そばにはライトが置いてある。
「ここも、片桐君に相談していたところなんだけど、主人、あまり趣味がなくて、すごくインドアなの。だからこそ、その趣味に没頭できるような、男のロマン?が溢れるような部屋が良いよねって」
中村さんのご主人は、奥さんと真逆なくらい無口だった。打ち合わせの時にも要望は特になく、だからこそ奥さんが、ありとあらゆる意見を出し、ロマンの詰まった部屋をご主人にプレゼントしたのだ。
「これは、すごい」
ようやく今まで口を閉ざしていたご主人が声を出した。
部屋全体をゆっくりと見渡し、軽く頷いた。
本当にその一言だけで、会話は続かなかった。
「よかったら、お茶入れるから、飲んでいって?」
中村さんは、いつもの如く、1階のダイニングテーブルへ案内をしてくれて、お茶とパウンドケーキを出してくれた。