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仮 3月の冷たい雨  作者: 春咲桜
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居場所

5月とはいえ、太陽が出た日の暑さはしっかりと身体に来ている。


「広瀬さん、お久しぶりです。ご連絡下さって、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。突然のご連絡なのに対応いただいて、ありがとうございます」

丁寧にお辞儀をした彼女の隣には、少しシワのついたシャツに薄いオレンジのパンツを合わせた男性が一人、物静かに立っている。


「ご主人様でしょうか?」

突然の声がけにハッとしたように、男性は口を開いた。

「はい、誠です。はじめまして」

「はじめまして。今日はよろしくお願いします」

挨拶と同時に名刺を差し出し、ついでにチラリと靴を見る。


皮製の高級な靴だろう。

よく磨かれていて、大切にしているのがわかった。

「では、早速、中をご案内頂きましょうか」


うちのメーカーでは、実際に住んでいる家を案内することが良くある。

もちろん、展示場だけでは分からない仕様や、設計を確認する意味もあるが、実際にはオーナー様と営業との良い関係性をアピールすることが目的でもある。



さらには、お客さんの人柄を見ることもできるというわけだ。



「オーナーの中村さんです。私が29歳の時に、営業担当として、打ち合わせをし、建築した家です」

「中村です!今日はお願いします」

オーナーの中村さんは、とても気さくで話しやすいお母さんのような人柄で、いつもお茶を出してくれたりと気前もいい。

「片桐君もすっかり出世しちゃって!」

隣の家にも聞こえそうなくらいはっきりとした声で、褒めてくれて、思わず口角が上がる。

「ありがとうございます。おかげさまで。早速ですが中村さん、お邪魔してよろしいでしょうか」

「どうぞどうぞ!子供たちが荒らしてるから、汚いところもあるけど」


「お邪魔します」

玄関へ恐る恐る入る彼女は相変わらず柔らかい空気を纏い、後ろを歩くご主人と全く違った雰囲気を感じた。


「ここの玄関もお気に入りポイントでね。シューズクロークがこの隣にあるの」

中村さんの案内通りに、玄関の隣にあるシューズクロークを見る。

この家は入ってすぐ左に、スライド式の扉があり、開けると通り抜けできるタイプのシューズクロークを備え付けていた。

「片桐君にね、子供たちが靴をそのままにして汚いからって相談してたの。そしたらこれ!すごくいいのよ!」

この手の悩みはよく聞く。そのため、提案したのだが、思った以上に使い勝手が良かったようだ。

「そう言っていただけると提案した甲斐がありますね」

中村さんと笑い合う姿につられて、彼女の笑い声も聞こえてきた。

「ふふっ。素敵ですね。私の家でも収納に困っているから、こんなお家憧れます」


初めて彼女の笑い方を見た。


こんなに優しく笑ってくれる人なのだと分かると、気持ちが和んだ。


そのままリビング、キッチン、バスルームも回った。

途中打ち合わせ時の話を交えながら、中村さんは終始楽しそうに話をし、つられて彼女も笑顔になっていた。



そして子供部屋に差し掛かった時、彼女の顔はパッと輝いた。


「可愛いお部屋ですね!」


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