出会い 3
「都合の合う日、ございますか」
手帳を片手に、次の一言を待つ。
「今週の土日なら、予定は空けてます」
「では、土曜日の10時からでいかがでしょうか」
「わかりました。主人にも伝えておきます」
予定はすんなりと決まり、再び会議室の椅子に腰を下ろした。
「なんだ、片桐。お客さん見つけたか?」
部長の期待の眼差しが痛い。
「いえ、今月は厳しいと思います。申し訳ないです」
急げば契約を取れたのかもしれないが、そうはしたくない、と咄嗟に感じるお客様だった。
大切に
大切に
駒を進めていきたいと思う、お客様だったのだ。
「ただいま〜」
「おかえり〜!」
いつも以上に疲れが溜まっていたものの、娘の声を聞いた途端に風が吹いたかのように、吹き飛んだ。
「渚、ただいま!」
かわいい娘を抱き上げて、妻の元へ急いだ。
「まひろ、ただいま」
「おかえりなさい、遅かったね」
キッチンから、出来立てのポトフを運びながら、心配そうに自分の顔を見た。
「ああ、月末だからね。お腹すいたよな、ごめん」
「お腹すいたよ、早く食べよ!」
いつもの温かい風景に心が落ち着く。
ジャケットを寝室に置いて、そのまま急いでテーブルに向かった。
今日は自分の大好きなポトフと、唐揚げだ。
きっと、まひろのことだから、疲れが溜まっていることを気遣ったメニューなのだろう。
ポトフに入ったソーセージにかぶりつきながら、今日1日を思い返していた。
「パパ、見て!今日ね渚、お家作ったの!」
ぼーっとしている自分の前に、渚は紙粘土で作った家を持ってきた。
三角屋根の大きなお家で、3人の人影らしきものも見える。
「これはパパ、これがママ。これは私!」
どの人形が自分なのか分からないくらい小さくて、形も一緒に見えたのだが、渚の中ではどうやら見分けが付くらしい。
「どれ、見せてごらん。お、大きい家だね。どこが渚の部屋?」
「渚は、パパとママの部屋で寝るから、いらない!」
「おー、そっか!そっか!」
心底幸せだと感じながら、土日の打ち合わせに向けて、パソコンを開いた。