発見
「ありがとうございました。では、来週の土曜日に。」
灼熱の中、商談を終えた。
商談の後には、広瀬さんの家のクロスを見せてもらう予定となっている。
お腹もすいたし、腹ごしらえをしてからにしよう。
途中で見かけた蕎麦屋に、車を走らせた。
店内は、落ち着いた雰囲気で、地元の人が多いのだろう。
小さな店は、満席だった。
「そういえば、あの家、しょっちゅう喧嘩しているみたいね・・・
家建てたばかりなのに、いやね~~」
人気の山菜そばを勢いよく吸い込んだ自分の耳に入ってきたのは、噂好きのおばさん達の声だった。
「この前は、暴力も振るってたみたいよ。通りがかった椎名さんの奥さんが言ってたわ・・・」
「や~ね~。旦那さんもとても穏やかそうな人なのに。
人は見かけによらないってことね・・・」
小耳にはさんだ話が、まさか自分の知っている人の話だとは予想していなかった。
会計を済ませると、すぐさま車を走らせた。
「広瀬さん、こんにちは!」
インターホン越しに元気よく挨拶をすると、いつもと変わらず優し気に奥さんが顔を出してくれた。
「こんにちは。わざわざ来て下さって、ありがとうございます」
玄関から、リビングまでの、少し長い廊下を歩く途中に異変を感じた。
あれ・・・?
ノースリーブのワンピースに、長袖のカーディガンを羽織った奥さんの右腕には、うっすらとあざのようなものが見えた。
気のせいだろうか。
「どうぞ、せっかくだから、お茶をご用意しますね」
椅子に腰を掛けながら、奥さんの様子を注意深く見ていた。
蕎麦屋での話が気になる。
まさかとは思うが・・・・・
「どうぞ」
その声にハッとするくらい、ぼーっとしてしまった。
奥さんは静かにお茶を差し出す。
「ありがとうございます。いただきます。」
・・・・・・・・・?!?!
いつも綺麗な奥さんの右手の甲にも、赤黒い大きなあざが見えた。
「奥さん、これどうしたんですか?!?!」
咄嗟に言葉が出て、思わず、奥さんの右手に触れた。
「あ、いえ。気にしないでください」
目にもとまらぬ速さで、奥さんは右手を引っ込めた。