責任5
「壁に水をかけていた?!?!」
あまりの驚きに声が漏れてしまったが、できる限り隣の部屋にいるご主人に声が届かないように注意した。
「はい・・・
実は3日ほど前なんですが、主人が誤って持っていた水をこぼしてしまいまして。おそらくクロスはそれが原因でないかと・・・」
奥さんは、申し訳なさそうに言葉を濁した。
「たしかに、クロスは水分や湿気には、非常に弱いですからね。ただ、この話をしてご主人が非を認めるのか・・・」
「私からも話をしてみます。確かに主人も頑固なので、すぐに納得してくれるかは心配ですが・・・」
「奥さん、私も協力しますよ。教えてくださってありがとうございました」
電話が切れたのだろうか。
隣の部屋にいたご主人が、足早に戻ってきた。
「ねえ、誠さん」
声をかける奥さんは、明らかに不安そうだ。
綺麗な手指もかすかに震えているように見えた。
「ほら、この前壁に水をかけてしまったことがなかった?
・・・それでクロスがはがれたんじゃない?」
「・・・・・」
無言で強い視線を浴びせる主人とそれを震えながら受け取る奥さん。
その二人は、夫婦なようで夫婦でない。
そんな違和感を覚える二人だった。
打ち合わせの時はあんなに穏やかだったはずなのに。
どうしてご主人はこうも変わったしまったのだろうか。
「ご主人。今回の件に関しては、施工時も確認を重ねておりまして、証拠となる写真も保管しています。もし、壁に水をかけてしまったことが本当であれば、当社の施工ミスとは言えません」
「・・・・・」
その後、長い沈黙が続き、小さく口を開いたのは奥さんだった。
「片桐さん、わざわざ来ていただいてありがとうございました。今回は、私たちで何とかしますので」
「そうですか。また何かあれば、ご連絡ください。ご主人も、また何かありましたら」
軽く会釈をしてその場を立ち去った。
玄関まで見送りをしてくれた奥さんは、ごめんなさいと何度も謝っていたものの、肝心なご主人からは何の言葉もないまま、その場を後にするしかなかった。
急いで車に乗り込んだものの、二人三脚の予定時間を30分は過ぎていた。
「まひろ!ごめん!今終わったから向かってるところ!」
留守電に無理やり入れた謝罪の言葉は、ちゃんと届いているのだろうか。
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