責任4
展示場に着くと、ご主人は一人テーブルでコーヒーを飲んでいた。
「広瀬さん、お待たせしました!」
「どうも」
引渡し時には穏やかで優しい表情だったものの、その表情から一変していた。
怒りに満ちているような、冷たい表情だ。
「これ、家の写真を撮ってきました」
クロスのはがれた様子が見て取れる写真を2.3枚テーブルに並べた。
写真をわざわざプリントアウトするとは、本当に几帳面な人だ。
「引渡しから、まだ2か月も経っていないんですよ。こんなに剝がれるなんて、施工時に問題があったとしか思えません」
確かに、クロスは剥がれ、わずかに気泡が入っているようだ。
とはいえ、施工中は何度も確認しているし、輸入物のクロスを使ったということもあって、その箇所は念入りに確認をしていた。
そう簡単に、はがれるとは思えない。
「お写真だけだと、わかりかねます。現地を見させていただいても良いでしょうか」
コーヒーをずずずと音を立てながら、一口飲んで、広瀬さんが口を開いた。
「わかりました。では、後ほど」
1時間のタイムリミットは、刻刻と迫っている。
焦って事故を起こさないように運転するのが、精一杯だった。
「ここです」
家に着くと、すぐさまご主人が、子供部屋のクロスを案内してくれた。
指をさした先は、確かに剥がれている。
がちゃ
「ただいま」
その瞬間に玄関ドアが開いた。
奥さんだろう、聞き覚えのある声がする。
「あら、片桐さん。どうかなさったんですか?」
「奥さん、お邪魔してます。どうやら、クロスのはがれがあるようで。確認してます」
「そうですか・・・ご苦労様です」
ん?あまり気にしていないのだろうか。
明らかにご主人とは温度感が違っていた。
「pu~~~」
携帯の着信音らしきものが、遠くから聞こえてくる。
「すみません、仕事の電話だと思います。出てくるので、少しお待ちください」
ご主人が、すぐさまその場を離れた。
「あの・・・」
その瞬間を、待ってましたと言わんばかりに奥さんが口を開いた。