出会い 2
展示場は少し豪華に作るため、実生活と格差が出ることが多い。
実際、うちの展示場でも、リビングは吹き抜けになっており、家具も一点もの。
ウッドデッキは2箇所もあり、床も天然木を全面に使用している。
だからこそ、時間が経つうちに味が出るが、初期費用は馬鹿みたいに高くなる。
「ここは、女性に特におすすめのキッチンです。オープンキッチンで、目の前に大きな窓があるので、景色を見ながら料理ができます。」
女性は作業台に触れながら、引き出しを開けたり、周りを見渡したりして、話を聞いている。
「料理はご主人と一緒にやられますか?」
「・・・いえ、基本は私がやってますね。主人は仕事が忙しいので」
「そうですか。でしたらキッチンを省スペースにして、広々としたリビングや玄関を作ることもできます!」
曇った女性の顔を見て、咄嗟に明るく振る舞った。
階段を上がり、2階を一通り案内した後に、ダイニングテーブルへ腰を掛けた。
「こちらの展示場は、いかがでしたか」
「そうですね、とても素敵ですが、こんなに広い家は建てられないかと思います」
「そうなんです。展示場なので、どうしても詰め込みすぎてしまうことがあるんです。もしよろしければ、ご主人と一緒に、実際のお宅をご覧になりませんか。」
「そうですね、主人に話してみます」
悪くない感触だった。
こうなると、しばらくの間、時間を空けるしか無い。
月末が迫り、残り1棟のノルマへ向けて、スタッフ全員がピリつき始める。
「誰か、受注取れそうな人は?」
「・・・・・」
会議もなかなか進まない。
毎週のこの時間が、苦痛でたまらないのである。
「よし!休憩!10分後から再開!」
部長の言葉が、止まった空気を少し動かした。
その時、スーツのポケットで携帯が震えた。
「片桐さんのお電話でしょうか。先日お邪魔した広瀬です」
展示場を案内した、優しい女性の声だった。
「広瀬さん、お電話ありがとうございます。どうかなさいましたか」
「実はあれから主人と話して、実際のお宅を見てみたいと思っているのですが、ご用意頂けますか?」
女性の優しい声が、さらに鼓動を昂らせる。
「もちろんです!ぜひ!」