責任3
「パパ!早く!」
渚の元気な声が、家じゅうに響き渡った。
今日は待ちに待った運動会である。
渚とは、二人三脚で優勝するべく、一緒に練習をしてきた。
今日は気合十分だ。
「まひろ、この荷物持っていくよ!」
レジャーシートや水筒が入った大きなカバンを抱えて、玄関へ向かった。
「さくら幼稚園、運動会開催しま~す!」
先生方の元気な挨拶によって、運動会がスタートした。
年少から順に入場し、渚の姿を見つけると、すぐさまビデオを構える。
「なぎさ~!!!」
手を振るまひろも、心底嬉しそうだ。
渚も、まひろを見つけたのだろう、大きく手を振った。
その瞬間に、ポケットに入れていた携帯が震えた。
「はい、片桐です」
「あ、片桐君?ごめんよ、休み中に・・・」
部長の声だった。
「いえ、どうかしましたか?」
「それが、広瀬さんのご主人がさ、今展示場に来てるんだけど。どうやら、輸入物のクロスがはがれて、施工ミスなんじゃないかと言ってきてね。張り替えろって聞かないんだよ」
「そんな・・・施工時確認してきたので、そんな簡単にはがれるようには思えないんですが・・・」
営業担当として、頻繁に住宅の様子は見てきた。
クロスが多少はがれることはあるが、まだ引き渡して、そう日が経たないうちにこんな話は初めてである。
「そうだよね。なんとか話をしてみようと思ったんだけどね。やはり担当の人じゃないと、の一点張りなんだよ。申し訳ないんだけど、少しだけ顔出せないかな」
二人三脚までは1時間以上かかるだろう。
急いで話を切り上げれば、何とか間に合うだろうか・・・
さすがにこの状況を放っておくわけにもいかない。
「わかりました、すぐ向かいます!」
携帯を切ってすぐさま、まひろの元へと向かう。
「まひろ、仕事でトラブルがあって、どうしても行かなきゃいけないんだ」
「うん・・・そう・・・
しょうがない!行ってらっしゃい」
悲しい表情を、まるで笑顔で上書きするかのように、まひろは送り出してくれた。
「二人三脚までには戻ってくるよ!」
すぐさま展示場へ車を走らせた。