1年後 3
「かんぱい!」
キンキンに冷えたビールを流し込む。
「有川、よくやったなあ」
「ありがとうございます、課長に支えてもらったからですよ」
自分のことのようにうれしくなり、ついついお酒が進む。
「課長も、広瀬さん、良いお客さんでよかったっすね」
「ああ、本当にそうだよ。わざわざプレゼントまで用意してくれるなんで、優しい方だよな」
「でも、課長。奥さんに心配されちゃいますよ?」
ぼんじりにかぶりつきながら、有川は言った。
「ほら、課長、すぐモテるから。それこそ、奥さん、気が気じゃないんじゃ・・・?」
「いや、そんなことはないよ。しっかり線引きしているよ」
ビールが底をつきそうになり、店員を呼んだ。
「そうですか?実際、誘惑されたこと、ないんですか?」
来た店員には、同じものと言わんばかりに、ビールを指さした。
バインダーに何かを書きこむ店員は、そのまま厨房へと戻る。
「生2つ!」
店に響く店員の声に少し驚きながら、話し続けた。
「もちろん、今まで少し距離が近いと感じる人はいたよ。営業だからね、お客さんと親密になることだってあるし」
「でも、相手も相手っすね。だって、家庭を持っているんですよね?」
「そりゃあ、な」
「はあ・・・そんな女、こっちからお断りっすね」
「だから、有川も、気をつけろよ!不倫に巻き込まれると、厄介だぞ」
「そんなバカみたいなこと、俺がすると思います?」
またも、ぼんじり片手に話を続ける。
「いや、お前ならやってもおかしくないよ」
「そんな~~」
「ありがとうございました~~!」
店員の明るい声を聞きながら、暖簾をくぐった。
「課長!今日はごちそうさまでした!」
「いやいや、またごちそうするよ」
タクシーを拾って、家へと向かう。
夜の11時を回っていて、寝息の響く静かな家の扉をゆっくりと開けた。
キッチンには味噌汁が鍋に入ったままになっており、付箋にまひろからのメッセージがある。
「おかえりなさい。よかったら飲んでね」
温かい味噌汁を飲みながら、アルコールで満たされた体を少しずつ浄化していった。