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仮 3月の冷たい雨  作者: 春咲桜
12/25

1年後 2

「戻りました~」

会社の扉を開けて、自分のデスクへと向かう。

汗のしみ込んだジャケットはすぐに脱いで、ハンガーにかけた。


カバンに入れたバラの小瓶をデスク脇に置くと、まるでOLのようなかわいいデスクに早変わりしたのを横目に、有川から茶々が入る。


「あれ~?誰からもらったんですか~?」


「お客さんだよ、今日引き渡しをした広瀬さん!可愛いだろ?」


「可愛いですね~。いいなあ課長は、すぐお客さんからモテて・・・」


「なんだよ、有川だってお客さんから可愛がられているんじゃないのか」


有川は、ちょっとヤンキーっぽいが、人当たりもいいし、ノリが良い。

まだ若いためか、ちょうどお客さんとなる30代の女性からはよく可愛がられている。


「ま、そうっすね!」

そう言いながら、携帯の着信に気づき、とっさに話を切り上げる。


「はい!有川です!」

意気揚々と電話に出ている姿から、良い電話であることは容易に想像できた。


「はい!はい!ありがとうございます!」

見えるはずもないが、その場で深くお辞儀をして、有川は電話を切った。


「課長!追ってた楠さん!うちで決まりました!」


「おお!やったな!おめでとう!」


楠さんとは1年前からの付き合いになる。

初めて展示場に来た時から、熱意はあったものの、満足のいく土地が見つからず、その間ずっと有川が手伝っていた。


提案した2つの土地でだめなら、また振り出しといったところで、どうやら1つに決めたようだ。

これで、家づくりが本格的にスタートしていく。


「ありがとうございます!ほんと、嬉しいっす!」


「よし、今日はおごってやるよ!」


「あざす!!!」


有川の嬉しそうな顔に、上司としても気持ちが高まった。


すぐさま、まひろに電話をする。

夜ごはんの買い出しをしていたら、大変だ。


「もしもし?まひろ?」


「もしもし?しゅん、どうしたの?」


「今日、部下のお祝いに飲んでいくから、夜ご飯なくていいよ」


「はいはーい。あんまり深酒しないでよ~!あーー!渚!何してるの!」


どうやら、忙しいようで、電話はすぐに切れた。


会社終わりの夜の繁華街は、なんだか気分が高まる。


「何か食いたいの、あるか?」

有川に聞くと、すぐさま、焼き鳥と答えた。


「ここから、5分くらいのところに良い焼き鳥屋さんがあるから、行くか?」


「ぜひ!!!」


赤ちょうちんの下がる、少しくたびれた居酒屋の暖簾を潜った。

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