1年後 2
「戻りました~」
会社の扉を開けて、自分のデスクへと向かう。
汗のしみ込んだジャケットはすぐに脱いで、ハンガーにかけた。
カバンに入れたバラの小瓶をデスク脇に置くと、まるでOLのようなかわいいデスクに早変わりしたのを横目に、有川から茶々が入る。
「あれ~?誰からもらったんですか~?」
「お客さんだよ、今日引き渡しをした広瀬さん!可愛いだろ?」
「可愛いですね~。いいなあ課長は、すぐお客さんからモテて・・・」
「なんだよ、有川だってお客さんから可愛がられているんじゃないのか」
有川は、ちょっとヤンキーっぽいが、人当たりもいいし、ノリが良い。
まだ若いためか、ちょうどお客さんとなる30代の女性からはよく可愛がられている。
「ま、そうっすね!」
そう言いながら、携帯の着信に気づき、とっさに話を切り上げる。
「はい!有川です!」
意気揚々と電話に出ている姿から、良い電話であることは容易に想像できた。
「はい!はい!ありがとうございます!」
見えるはずもないが、その場で深くお辞儀をして、有川は電話を切った。
「課長!追ってた楠さん!うちで決まりました!」
「おお!やったな!おめでとう!」
楠さんとは1年前からの付き合いになる。
初めて展示場に来た時から、熱意はあったものの、満足のいく土地が見つからず、その間ずっと有川が手伝っていた。
提案した2つの土地でだめなら、また振り出しといったところで、どうやら1つに決めたようだ。
これで、家づくりが本格的にスタートしていく。
「ありがとうございます!ほんと、嬉しいっす!」
「よし、今日はおごってやるよ!」
「あざす!!!」
有川の嬉しそうな顔に、上司としても気持ちが高まった。
すぐさま、まひろに電話をする。
夜ごはんの買い出しをしていたら、大変だ。
「もしもし?まひろ?」
「もしもし?しゅん、どうしたの?」
「今日、部下のお祝いに飲んでいくから、夜ご飯なくていいよ」
「はいはーい。あんまり深酒しないでよ~!あーー!渚!何してるの!」
どうやら、忙しいようで、電話はすぐに切れた。
会社終わりの夜の繁華街は、なんだか気分が高まる。
「何か食いたいの、あるか?」
有川に聞くと、すぐさま、焼き鳥と答えた。
「ここから、5分くらいのところに良い焼き鳥屋さんがあるから、行くか?」
「ぜひ!!!」
赤ちょうちんの下がる、少しくたびれた居酒屋の暖簾を潜った。




