選択 3
「ありがとうございました、お陰で大変参考になりました」
ご主人が口を開く。
「いえ、ご参考になれば幸いです。どうしても見て頂きたいお宅だったので、良かったです」
「あの・・・」
少し低姿勢になりながら言葉を続けた。
「わかってますよ。結論は2.3日中にお出しできると思います」
ご主人の言葉に、ほっと胸を撫で下ろすと同時に、緊張も走る。
「そうですか。では、結果お待ちしてます」
会社に戻ると、有川がいつもの調子で話しかけてくる。
「どうでした?」
「まだわからないなあ」
「そうすか・・・」
ここからの数日が、本当に長く感じる。
仕事に集中しているが、メールや電話が鳴るたびにビクビクとしなければいけない。
これだから、営業は疲れるのだ。
案内から3日が経った頃、携帯が鳴った。
「広瀬さん」
表示された文字に心臓がバクバクと音を立てたが、あいにく、運転中だった為、近くのコンビニへ車を止めて折り返す。
「もしもし、片桐です。お電話出られずすみません」
「いえ、こちらこそ突然のお電話すみません。今お時間よろしいでしょうか」
ご主人の声だった。
「はい」
「あの後夫婦で話し合った結果・・・
一瞬の出来事のはずが、とても長い時間に感じる。
どうか、どうか・・・
「御社に家を建てて頂きたいです。どうか、お願いします」
小さくガッツポーズをした。
そうだ、これだ、この感覚だ。
営業が辞められないのは、この感覚に取り憑かれているからだ。
「もちろんです!選んでいただき、ありがとうございます!」