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巨人になった私  作者: EVO
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遭遇する私

「よいしょっと」


「サナさん!そろそろ休憩にしましょうか」


「はーい」


今日も今日とて髭の中隊長さんの指揮の元、【穴】周辺の買い上げた土地にある家屋の撤去を進めていた。

まだまだ陽射しが強く暑い為、1時間に一度は必ず休憩を取っている。

タンクローリーの給水車から水を出して貰いゴクゴクと飲み干す。


「お疲れー、サナちゃん今日もよく働くねー」

「あっちぃー!生き返るー!」

「寄らば大樹の陰ってな、いつもありがとうサナちゃん」


「あ、どうぞどうぞ」


休憩に入ると同じ小隊の人は皆、私の影に入って休憩する。

何人かは顔見知りになって会話をするようになっていた。

私は汗で体に張り付くシャツとツナギをパタパタとして涼を取りながら答えた。



***



土地の区画整理は先ず1年かけて更地にする計画らしい、その後国立公園として更に1年かけて整備、練馬の【穴】は縁に沿って柵を設置、観光資源として活用するのだとか。


私は家屋の撤去をお手伝いしながら、18歳になるのを待って、自衛隊の土木専門の部署「施設科」に今後所属するのではないかと小夜さんから聞いていた。


勿論必ず自衛隊に入れと言われた訳ではなく、職業選択の自由があるので民間企業に行くことも可能だけど、巨人である私の生活を補償出来る大企業じゃないと難しいのではないかという話だ。


幾つか制限があるものの民間と違って潰れる心配はなく、組織力、将来性を考えると自衛隊が1番なのかなと私も思う。


今後の身の振り方については小夜さんがとても親身に相談に乗ってくれていた。

学校は休学という形になっているけど、これから先登校出来るとは思っていない、ただ、ちぃちゃんや他の友達に会えないのは寂しい・・・


ううん、我慢だ、迷惑を掛けてるんだから、これ以上は望んじゃいけない。

天王洲駐屯地には私の家が建てられた、入り口はしゃがんで入るけど中はのびのびと寝れる大きなアリーナだ、そう、今だってとても恵まれているんだから。

ただ、時折酷く落ち着かない気持ちになることがある。

パパの作るチーズとベーコンたっぷりの自家製ピザがひどく懐かしい、コーラも飲みたい、ママの温かいハグは望めない。

周りに迷惑掛けているんだから私がワガママを言って困らせてはいけないんだ・・・



「———でさ、彼女と行ったフワフワのスノーパウダーアイスがマジで美味いのなんの」

「へー、場所は?」

「品川の・・・」

「あー、あそこか、俺も嫁連れて行ってみっかなー」



・・・いいなあアイス、ぼうっと隊の会話を聞きながら、取りとめもなく落ち込みそうになっていたところで、フと視界を黒い影がかすめた。


「え?」


それは【穴】の淵から現れた、思わず目を擦りながら立ち上がる。


「お?どしたんサナちゃん」

「まだ休憩時間だよ」


そんな声に答える余裕は私にはなかった。

かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ、【穴】からは次々と出て来る黒い影、市街地なので隊の人にはまだ見えないのだろう、私からは民家やマンションの屋根越しにはっきりと見える。


かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ


「あ、蟻が・・・」


「ありぃ?」

「蟻がどうしたん?」


「サナさん、報告は簡潔かつ明瞭に!」


いつも穏やかな佐藤中隊長は私の様子に何かを感じ取ったのか、平時にはない威厳のある声を張り上げた。


「あ、えっと、【穴】から大きな蟻が沢山出て来て・・・」


「蟻、だと? 大きさはどのくらいで、沢山とは具体的な数を」


「大きさは、1mから3mくらい、数は100匹以上、どんどん【穴】から出て来てます」


「は?」

「3mの蟻?」

「穴からってあそこの中に生き物居るのか?」


周囲の動揺が分かる、そこから佐藤中隊長の行動は早かった。


「無線を!」


「はい!」


「こちら施設科佐藤、全隊員に通達する、作業は中断、装備は現場に放棄、即座に車両に乗って駐屯地へ帰投せよ! 繰り返す————」


休憩していた隊員も弾かれたように立ち上がり命令に従う、皆駆け足で車両へ乗り込んでいる時だった、1匹の蟻が恐ろしい速さでこちらへ接近してきたのだった。


「アリだーっ!!」


誰かが恐怖と驚きが綯い交ぜになった様子で叫んだ。







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