自衛隊 2
巨人になったサナちゃんは不安な気持ちもあっただろうに終始冷静で理性的なのは本当に幸いだった。
天王洲駐屯地にサナちゃんの衣食住を築き、施設が充実するにつれて彼女の不安な顔は徐々に見られなくなった。
しかし個人的に気になるのが「すいません、ありがとうございます」と必ず謝る彼女の様子だ。
迷惑を掛けていると思っているのか、体を小さくして眉を下げるのが可哀想で見ていられない、16歳の花の高校生にさせていい表情ではない。
御両親が来ると笑顔が見えるけど、帰ると寂しそうにしている、お友達に会わせてあげたいのだけれど世間やマスコミへの対応を考えると一般人の接触は許可が下りなかった。
真に寄り添えるのは同じ巨人になった人達だ、他国のように数人の巨人が居れば仲間意識も働いて落ち着くのだろうけど日本に現れた巨人はサナちゃん1人だけだった。
どうやら1億人に1人くらいの割合で巨人が居るようで、アメリカには5人の巨人が、中国には20人の巨人が現れたと聞いている。
「はあ、流石に他国の巨人は呼べないよなぁ」
寂しがってるから話し相手になって下さいなんて言って許可など下りる筈がない。
サナちゃんのお父さんはアメリカ人で彼女もまた英会話は可能だ、実現するならば同盟国のアメリカなのだけど巨人が現れて日が浅い為、日本も、そしてアメリカもまた内向きの対応に苦慮しているのが現実だ。
そもそも防衛省内部では彼女をどう利用するかの話し合いが持たれているようで、国外に出す事も有り得ないだろう。
***
「位置について、よーいドン!」
踏み込んだ滑走路をズ、ドンと踏み抜き加速していく、ダンダンダンと大きなストライドで100mを駆け抜けたサナちゃんの記録は3秒ちょっとだった。
「スゲ・・・」
「トップスピードに乗り切る前に走りきったよな」
巨人のスポーツテストに興味津々で駐屯地に居る自衛隊員の大半が観客の様に見物していた。
運動が苦手だと言っていた彼女は巨人になってから飛躍的に身体能力も運動神経も上がったようだった。
何処かで聞いた話だけど、人がアニメや漫画のように巨人になっても人間の筋繊維では巨体を支えられず、自重でろくに動けなくなると聞いた事がある。
見た目通り、ただ大きくなった人間という訳では無いようだ。
続けて行った1500m走も、滑走路を砂塵を巻き上げて短距離走のようにサナちゃんは駆け抜ける。
飛んだり跳ねたりはアスファルトを傷めるので割愛、握力計は準備出来ず、遠投はテトラポットが水平線へと消え、遂には50tもある90式戦車を持ち上げていた。