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おら、エルフだった。  作者: 十川九元
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山で雉に化かされる

短編で投稿テストです。

話し言葉は雰囲気のみ。関西なのに標準語ですが、知識の限界につきご容赦願います。

 今は昔、摂津国の山奥に有る、田畑の実りを京に献上する小さな村で、稲作を生業として二十余年の与次郎という男があった。

 背は高く骨は太いが、痩せて老いの見える頃合いの与次郎。晩夏の稲田の世話は息子とカカアにまかせ、与次郎はもうすぐ14になる娘に紅の一つも用立てたいと、金子になりそうな獣の皮を求めて藪を分け入り、仕掛けた罠を調べて回っていた。


 去年からの安定した天候に漸く一息つけたとはいえ、源氏の世になって以来続く国難・干ばつに、村のみならず山野も疲弊し獣もとんと見なくなった。


「さても山ん神様に嫌われたかねぇ」

 小さな滝の傍、村の衆にも秘密の場所に仕掛けた、4つ目の罠も成果はなく、岩に背を預けつつ天を仰ぎて呟けば、やにわに目の前に降り立った一羽の雉が返事を返す。


「せっかく日照りを乗り越えた命だ、そう易々と与次郎どんにはやれないね。」

 余りのことに仰天して、背後の岩に後頭部をぶつけた瞬間、与次郎の意識が遥か彼方に流転する、、、。


 数瞬の間に悠久を見たか、いまだ視線の定まらぬ有様でぽつりと一言


「おら、エルフだっただか?」


 世界とわが身に満ちている魔力を感知し、内外に循環させることで少ない食事で身を保つ、新陳代謝のみに頼らない肉体の耐用年数は千年以上、肉体が朽ちるころには、地脈に依りて精霊や樹木に転変するエルフ。

 或いはそれは、丹田に気脈を巡らし、山野で霞を糧とする術を識りて悠久の時を生きる神仙と称するべきか。


 いつの間にか天高くで円を描く雉が歌う。

「転変流転の与次郎どん、嫁さん怖い野良稼ぎ、獲物取れずに今日の夕餉はなんとしょう。」

 現実はカカアに頭が上がらない、四十も近い農夫である。今生のしがらみが悟ることを許さない。


「帰ぇるか。」掌を横に出せば、滝の上からアケビがひと蔓、流れ落ちてきた。

手土産を片手に与次郎は、来た道を普段の倍の速さで降って行った。

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