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ボルカノダンジョンへようこそ!  作者: ひらえす
第1章

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10.やっぱりダンジョンも立て直しも、一歩ずつ進むのが1番らしい

ギルド支部の建て直しは、《命の水亭》のすぐ隣の更地から始まった。

地面には新しい基礎が打たれ、午前の陽射しが白い石材の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。

今のところはまだ、土台と仮設の資材置き場だけ。建物の完成にはもう少し時間がかかりそうだった。


「こん調子なら、来月中には屋根までいけるぞ。雨がひどくならんならだかね」


棟梁のニックが、図面と木材を交互に眺めながら言う。


「ありがとう、ニックさん。なんだかんだ、もう頼りっぱなしだな、俺」


アレンダンは額の汗を拭いながら、地面に膝をついて組立予定の杭を一本ずつ確認していた。

仮支部の執務机から抜け出し、職人たちと同じように走り回っている姿は、最初にボルカノに来た頃とはまるで違う。


「おまえさんの動き方見てりゃ、町の人間もそりゃ手を貸すが。ドルクやら、前に助けられた奴らが声かければよ、あっちゅう間に人が来るがよ」


「……あの親父さんには頭が上がらないよ」


アレンダンが苦笑する横で、イコモチがどこからともなく現れて、ふわふわのしっぽを立てて彼の足元にぬるりとすり寄ってきた。


「おい、またか。おまえ、暑くないのか?」


「うなーぉ」


まるで「こっちのセリフだ」とでも言いたげに鳴くイコモチを見下ろしつつ、アレンダンは作業の区切りを見つけて仮支部……《命の水亭》の一角の机へと戻った。


机の上には、前支部の建物が潰れた時にバラバラになった探索記録の写し、冒険者登録書、身元不明の所持品リスト、それに、過去のダンジョン探索記録からの断片情報が無数に広がっていた。

全て、行方不明者の照合と、ギルド本部への報告書のためのものだった。


「こんなもん、ひと月前の俺じゃ暑さでバテて投げてたな……」


書きかけの報告書に目を通し、魔法便に使う封筒を念話用の魔法陣の上に並べながら、アレンダンは苦笑する。


魔法陣の縁に小さな青白い光が灯り、ゆらゆらと封筒の影を揺らしていた。

細い銀線で描かれた陣には、封筒の他に、認証用の水晶印と、低級魔石が必要だった。道具が揃っていなければ、発動もままならない。


──この書類が通れば、記録用水晶と、最低限の現金が届く。

そうすれば、モンスター素材の買い取りや解体も出来るようになり、ようやく『ギルドとして』再開できる。


その思いに一瞬だけ笑みが浮かび———だが、目の下のクマは濃い。

色白だったアレンもだいぶ日焼けが目立ってきたように感じる。


「まあ、焼けるよな……昼間っから基礎運びやってんだし」


そんなことをつぶやいていた午後、扉の外から少年の声がした。


「失礼します! 剣術道場ゲンリュウ家のヤツトキです。ボルカノダンジョンの探索希望の件で!」


勢いのある声に、アレンダンが顔を上げた。


現れたのは、十七、八の少年。目元は鋭く、背筋は真っ直ぐ。地元の剣術道場──古い家柄として知られるゲンリュウ家の跡取りで、最近親を病で亡くし、道場を継いだという話をアレンダンも噂話として聞いていた。

この辺りで家名があるのは本当に珍しい。

おそらく噂の本人で間違い無いだろう。


「どうぞ。まだ仮の事務所だけど、話は聞ける。ヤツトキくん、でいいかな?」


「はい!」


ぴしりと頭を下げたその所作には、剣士としての気概と礼節が見えた。


ミクシがちょうどお盆にお茶を載せて持ってきた。

「あら、ヤツトキじゃない。背、伸びたのねえ」


「……ミクシさん。ご無沙汰しています」


「今日はアレンダンさんと面談?」


「はい、探索希望の申請で……」


ミクシは茶を置くと、2人に微笑んでアレンに目配せし、静かに部屋を出た。


その背を見送りながら、ヤツトキは、真剣な顔のまま深層探索志願の理由を語った。


──道場を継ぐためには、ただ剣を教えるだけでは限界がある。

実戦と地元の再興に貢献することで、道場を町の一部として立て直したい。


そのためにも、今はアレン以外は禁止されている(禁止しているのはボルカノ支部長(仮)のアレンダンだが)ダンジョンの調査に加わりたいというのが彼の願いだった。


「そうか……実戦経験は?」


「父の下で訓練を続けていました。剣の型は、地元の示現流を基にした独自のものです。隣国の騎士学校にも通っていました。父が亡くなり、卒業はできませんでしたが

足を引っ張るつもりはありません!」


「気持ちは買う。けど……実戦と訓練じゃ、やっぱり勝手が違うのは、わかってもらえるかな?」


「それは承知です。ですが、やらなきゃ分からないこともあるでしょう」


「……そうだな」


言い切る口調に、かつての自分を重ねたアレンダンは、少しだけ考えたあと言った。


「初回は俺と一緒に降りる。まず二階層まで。浅いとこだし、今の情報なら比較的安全だ。……だが、俺が帰ると言ったら、従ってもらう」


「……はい!」


深く頭を下げるヤツトキの背中は、どこか痛々しくもあり、頼もしさもあった。

とりあえずは探索に必要な持ち物を用意してもらい、2日後の早朝に出かける約束をして、ヤツトキは帰っていった。


(正直……新人の世話をしている時間はないんだが)


それでも、現在アレンダンに協力してくれる冒険者が、ボルカノの町にほぼいない以上、武術の心得があるなら喉から手が出るほど欲しい人材なのも確かだ。


仮支部の隅にある調査地図。そこにはすでに、アレンダンが手ずから描いたダンジョン第二層の概要が貼られていた。


──故郷の王都のそこそこの貴族の屋敷の敷地が四つほどは入るだろうほどの広大な広さ。


浅層で危険度は低く、トカゲ系や蝙蝠、植物系「デコン」などが主な敵。


月ごとに張り出す「ロフト」のような張り出した地形変化があり、砥石や小さな水晶が得られることもある。


張り出し部分の変化は、なぜ起こるのか未だ不明。植物の植生も季節で違い、何らかの周期が存在しているらしい。


「やっぱり、地道に整えなきゃ始まらねぇんだよな……」


地図の上に新たな探索ルートを描きながら、アレンダンはひとつ息をついた。

となりではイコモチがまた、いつのまにか座布団に乗り、ちゃっかり丸くなっていた。


「おまえは……気楽でいいな」


「なーおぅ?」


猫の鳴き声を背に、アレンダンは再び筆を取る。


──まだやることは山積みだ。けれど、それでも、確実にこの町の理解と、ギルドは前に進み始めている。


そんな、小さな光を祝福するかのような暑い午後の風が、火山の町を吹き抜けていく。

新キャラが出てきました。

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