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デッドストック・トラベラー  作者: 妖刀まふでと丸
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3/7

第二話 一軒のカフェ

「クオンじゃん! 今からこの先のカフェに行くの?」


 クオンはとある国で知り合った二人組と偶然、開けた道路で出会った。初老の男性と、ビキニ、腰にパレオを巻いた若い女性……ではなくクオンのように人型の機械。クオンとの違いは戦争用じゃない事。初老の男に腕を組んで手を振っていた。

 クオンは二人に聞いてみた。


「噂通り美味しかったですか? カフェオレとパンケーキが有名だとか? できれば日持ちするお土産とかもあれば嬉しいんですけど」


 クオンはオススメのメニュー以外にもいつもプレゼントを送っている人への贈り物もできれば良しと思っていたが、二人の表情はあまり明るくない。


「クオンさん、とにかくあのカフェのコーヒーはどれを飲んでも美味しい。ケーキもさ。私も、このタランテラも子供みたいにおかわりをしてしまったさ。味は保証しよう」

「……ヴァンさんがそう言うならそうなんでしょうけど、なんか含んでますね?」

「なんかねぇ? ヴァンにはすごく明るく店主の人は話しかけてくれるんだけど、タランが話しかけるとなんか、無視するの……まぁ無視って言ってもちゃんと注文は出してくれるから完全に無視してるわけじゃないけどね」

「……ふむ、なるほどです。タランテラさん、なんか迷惑かけました?」

「心外ね! こんな格好してるけど、粗相はしないわよ! ヴァンの連れてるイイ女がそんな事したら、ヴァンの品位に関わるでしょ? そう! 優雅にコーヒーを嗜んで、上品にパンケーキを頂いたわよ! でもずっとタランを神妙な表情で見てくるわけ……行ってみればわかるわ、多分あの店主、人型ボットが嫌いなのよ」


 クオンのようなウォボットをかつて戦争の道具だったというだけで、一部毛嫌いする人は多いが、各国の取り決めでクオン達のような心を持つ機械には人間相当の人権が大戦後与えられている。あまり酷い扱いは罪になる。

 それも旅の試練かとクオンは二人と別れてカフェへの道を向かう。

 その道中、二人のカップル……いいやよく見ると二人とも大戦時に工業用業務従事に作られたワークボットだった。手を繋いで、楽しそうに先にあるカフェのコーヒーが美味しかったと話している。そしてクオンを見ると微笑んだ。


「こんにちは、旅人さん。この先のカフェ、オススメですよ!」


 とても仲睦まじく見える二人は、この先のカフェで不当な扱いを受けたようには思えない。旅人のヴァンとタランテラの話とは大分違う。興奮気味にお勧めしてくれるのだ。


「今日は僕とメリダ……あぁ、こっちのワークボットの彼女ね! そう、給料日前だから、ウィンナーコーヒーだけ注文してお喋りデートのハズだったんだけど、店主さん。僕らの来店十回目だからとか理由をつけてケーキとフルーツをご馳走してくれたのさ。お金ない事を察してくれて優しい店主さんだよ」


 満足げにそうはなして二人は去っていく、クオンは常連客には優しくなる偏屈な店主なんだろうかとそんな事を考えて歩く。

 とにかく遠くまで見渡せる道路、実は豆粒みたいにその店はすでに視界には入っていた。他の国までの距離が遠い為か、食事どころやカフェは一定間隔に点在している。

 その中でも人気のカフェが今回の目的。

 クオンは誰もいないので顔が緩んでいる事に気づかない。店主の態度が良いのか悪いのかわからないが、たいそう美味い事はほぼ間違いない。


「くっそ! なんだあの店! 二度と行くか! ニノミヤのブログに載ってから言ってやったのに!」


 滅茶苦茶怒って向かってくる警備ボットの男性。


「あっ、旅人さん……それもウォボットか、悪い事は言わない。補給をしようと思っているなら、あのここから見えるカフェには行かない方がいいよ。とにかく店主が無愛想で、なんにも喋らない。どうも俺たちのような人型機械を毛嫌いする。ヒュルターだよ。ほんと、時代錯誤にも程がある」


 人間の真似事をする。ヒューマンオルター、ヒュルターと言って人型機械を差別する際に使われる言葉。男性は本当に頭にきたのだろう。クオンに釘を刺す。


「スフレケーキを頼んだのさ。後、甘いカプチーノ。せっかく味覚機能を新調したから、人気のあるここで最高のティータイムをって考えていたのにさ。確かに美味しかったよ。でも店主の態度があれじゃ、美味しいよりも腹立たしいが先に来て結局、美味しくなかったって思ってしまうじゃないか? ねぇ? そう思うだろ? だから行かないほうがいいよ!」

 

 男性が去って行き、クオンの目の前にはカフェ。意を決して入ろうか……


「いらっしゃいませ旅人さん」


 カフェの店員は気さくにクオンに話しかけてきた。注文は小型ネットワーク端末ユビキタシアで取れるようになっているらしい。ハイテクだ。店員に招かれて店内へとクオンは入る。

 インテリアは拘った北方のテーブルと椅子を使われているらしい。店主が描いたであろう見事な絵がワンポイントに飾られている。


「おっ、またお客さんじゃん! ほんとマスター、人気店だねぇ」


 常連客らしい中年の男性はクオンに手を振りながら店主に絡んでいる。


「あっ、どうも……凄い美味しいって聞きましたので」

「…………」


 店主はカップを拭きながらフンと返事はしない。


「あ、あの……オススメのカフェオレと、マスターの気まぐれパンケーキを……お願いします」


 マスターは再び、フンと鼻で息をするように反応すると、カップを置いてなんとも面倒そうにコーヒー豆を取り出し、そしてパンケーキを焼く準備を始めた。代わりに店員の女性が話しかける。


「旅人さん、どこの国に行くんですか?」

「いえ、どこの国に行くかはここでティータイムを過ごしてからにしようかなと思ってます。今回の旅の目的はここにくる事ですから」

「わざわざ中継道路のカフェに?」


 驚いて店員の女性が聞き返す。


「えぇ、僕は美味しい物を求めて旅をしていますから」


 クオンのその返答に店員の女性は溢れんばかりの笑顔で店主に言った。


「良かったですね! マスター!」

「…………」


 店主は無言のままだった。


「もしかして僕はあまり歓迎されていない感じなのでしょうか?」


 そんなクオンの心配に常連客はクオンの背中をパシパシ叩く。


「んな事ないって、まぁ座んな」


 言われるがままに、手入れと掃除の行き届いたテーブルにつく。


「…………」


 コトンと注文したカフェオレが店主の手から置かれた。


「あ、りがとうございます! うん、実にいい香り……そして味。実にいい渋みと酸味。やや酸味よりで紅茶みたいなフルティーさが病みつきになりますね。そこに主張してくるミルク。間違いなく今まで飲んできたカフェオレの中で最高です。次は砂糖を入れて楽しみます」


 嘘は言っていない。だが、クオンはすぐに帰りたくなった。

 店主は何も反応しないのだ。


「はい、旅人さん。お待たせしましたですよ! 当店、マスターのお任せパンケーキです。今回はパンケーキに苺とバナナ、そしてキュウイフルツーを添えて、生クリームとカスタードクリーム。そしてメロン、バニラ、ピーチのジェラートをトッピングさせていただきました。さらにさらに! ここから、マカダミアンナッツとチョコレートソースをさらにかけます。お好みでハチミツもお使いください!」

「い、いただきます。わ、わーい……美味しそう」


 じっと店主が見つめている。これはあの怒っていた警備ボットやタランテラ達のいう通りだった。店主と店員や常連客の温度感が違いすぎていづらい。


「なぁ、旅人さん。美味いもんだろ? こんな補給所みたいな場所にあるのはおかしいくらいだと俺も思ってるのよ。よく美食家だなんだって連中が来てはみんな噂通りのマスターの腕に驚いて周りを見てみなよ! 美食家や有名人のサインだらけさな。俺たち仕事の兼ね合いで常連になったやつからしても鼻が高くてよ。まぁ……でも一つ問題があんのな」

「僕らウォボット達みたいな人型端末……ですよね?」

「……そうなんだよ。困っちまうんだけどな。もう大戦後の決まり事で、工業用だろうが、戦争用だろうが、みんな人として扱うって事になってるじゃねぇか! な? それがマスターときたらさ。わかると思うけど、たまったもんじゃねーだろ? ジロジロ見るは、ほとんど話さなくなるわでさ。旅人さんからもなんか言ってやってくれよ! ガツンとさぁ!」


 そんな事言えるわけないだろうと、クオンははははと苦笑する。それに女性店員が猛烈な勢いで言い出した。


「もうマスターのそういうところ、本当に迷惑してるんですよ! 私だって、さっきの警備ボットの方に滅茶苦茶怒鳴られたんですからね! 言いたいことがあるなら本当に言ってくださいよ! ずっとだんまりで! その前にきた人間と警護ボットの二人にも失礼で失礼で、凄い気を使われて、本来ならもっと長居したかったろうに、お代わり食べられたらそそくさと帰られたじゃないですか! マスターが、人型端末マニアで、好きすぎて上がっちゃうの、本当に治してくださいよ!」


 クオンはよく見るとややもじもじとしている店主をみて、自分やタランテラにヴァン。そして警備ボットの男性が勘違いしていた事に気づく。が、紛らわしい。


「て、店主さん。僕、ウォボットですけど……お好きなんですか?」


 マスターは俯く、そして再びクオンをみた。これは……今なら分かる。きっと凄い上がって頷くという動作を忘れてしまったのだ。


「も、もし店主さんさえ良ければ、何か僕にできることありますか?」

「……しゃ、写真を…………いいですか?」


 もちろん! と微笑むと、マスターは「す、少しお待ちを!」と叫んで、奥から古めかしいカメラを持って興奮気味に戻ってきた。

 

 クオンはそのあと凄いサービスを受けて、さらには日持ちするコーヒー豆のお土産まで頂いてしまった。

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