閑話4 田端健一郎と朧
久方ぶりの投稿は閑話です
クリスマスだというのに微妙な恋愛模様の話
◇田端健一郎
九江卿人死亡前
於都内某高等学校
16:00
新校舎2階、3-3教室。
田端健一郎 九江卿人 朧雪華
◇
「朧さんの事が好きだってぇ!?」
「卿人声がでかい!?」
僕らが出会ってから、というか、友達になってからはや1年。
もうすっかり僕、九江卿人、朧雪華の3人はセットでいるのが常態化していた。学生が中心のイベントでは必ず責任者に据えられ、きちんとこなすことが出来ているため内申点は爆上がり。3人とも同じ大学に入る事もできそうだった。
去年の僕からはとても考えられない事だけれど、実際、そのことに関してはふたりには感謝しか無い。
放課後の教室で九江と駄弁るのは、最早日課と化していて。
今日は朧さんが早く帰ってしまったから、卿人とふたり、女の子がいたらどん引きされるような会話をしていたのだけど、何故か流れで。
僕が朧さんに好意を抱いていることを吐露してしまった。
いや、それ自体はいいんだけど。
「いや健一郎さんよ」
「なんだし」
「今更?」
「へっ!?」
どうやら僕の思いは卿人にはお見通しだったらしい。
「そりゃバレバレだったよ。あれで分からない方がどうかしてる」
どや顔で言う卿人だけど、それはこっちも同じ訳で。
「卿人だって朧さんの事好きでしょ?」
「・・・・・・なんでわかった?」
「そりゃばればれだったよ」
さっき言われた台詞をそっくりそのまま返してやる。
どや顔から一転、顔を青くする卿人。
「本人に言ってないだろうな?」
「そっちこそ」
「言ってない。いえない」
「でしょ? それに卿人と違って僕みたいなド陰キャに好意なんか持たれてたら朧さんだって迷惑でしょ?」
「は?」
信じられない。といった様子でかなり強めの「は?」を飛ばしてくる卿人。
「健一郎、こないだ朧さんがぽろっとこぼしたろ? 『ふたりはわたしの事どうおもってるのかな?』って。あれは完全に興味持ってるだろ」
「はぁ!?」
僕も負けじと強めの返事。
「あれは卿人の事だろ? 朧さん優しいからふたりって言い方しただけだし」
「いやお前それは! はぁ、まあいいや・・・・・・」
「なんだし」
「・・・・・・ホントは内緒だったんだが、朧さんに相談されたんだよ」
「ほらやっぱりそうだし!」
「違うんだよ! 健一郎、おまえ自分の事あんまり朧さんに話さないだろ? だから好みとか色々知りたいらしくてさ。興味の無い人間の事そんなに聞きたがらないだろ?」
「それは卿人も一緒でしょ? だから卿人と話をする口実に僕を使ったんじゃないの?」
「どこまでひねくれてんだよ・・・・・・」
ひねくれてるのは卿人のほうだし! って言おうとしてやめた。どう頑張っても水掛け論になりそうだし、なにより卿人が本気でイライラしてるのが分かったから。
別に、喧嘩がしたいわけじゃない。
「・・・・・・ごめん」
「いや、感情に流されてもろくな事にならないし?」
「違いない」
そう言うと卿人は鞄を持ってつかつかと教室を出て行こうとする。
「卿人」
「俺も頭を冷やしたいんだよ、今日は帰るわ。んじゃ!」
がらりと扉を開けて、そのまま固まる卿人。
「・・・・・・どうした?」
「あー、その・・・・・・わかってるよ今言うよ・・・・・・怒ってすまない健一郎」
「いいよ、僕も少し動揺した」
「うん、それとな健一郎」
「何?」
「頑張れ」
それだけ言うと、足早に去って行った。耳が赤かったみたいだけど・・・・・・どうしたんだろ?
そう思って開けっぱなしの扉を見てたら、見覚えのあるサイドテールがひょこっと顔を覗かせた。
「たっばった君!」
にっぱ! と花が咲いたような笑顔と一緒に、朧さんが現れた!
ふわあ……やっぱ朧さんかわいいなあ……
学園ナンバー1アイドルの肩書き(僕調べ)は伊達じゃ無いな。
ちっさくて、かわいくて、おっぱいおっきいとか最高スペックじゃあないですか。
それがこう、僕にそんな無防備とも言える笑顔を向けてお名前呼んでくれるとかここは極楽ですか?
じゃなくて!
「あるえ朧さんんん!? 帰ったんじゃ?」
さっきの会話聞かれてないだろうね!?
「文化祭の準備でもどってきたんだ」
「そ、そうなんだ!」
「ねえ田端君」
「はい」
どっきどっきしてる。
「今度おでかけしない?」
「ファッ!?」
え、は? もしかしてそれはデデデデデデートのお誘いだったりします!?
「ほら、文化祭の買い出ししないとだから、九江君と田端君がいてくれると助かるなって……」
あ、なんだ。そうか。
いやまあ、そうだよね……。
あれ?
「文化祭の買い出しなら」
皆で行けばいいんじゃ?
と、口元まででかかった言葉を飲み込む。
朧さんはたぶん、3人で遊びたいのだろう。
ならばこれはチャンスなのでは?
さっきまで自分が朧さんに気があるなんて知られたら迷惑だろうとか言ってたのに。
卿人との口げんかのせいなのか。それとも卿人の台詞のせいなのか。
とにかく、僕は少し、踏み出してみたくなった。
「文化祭の買い出しなら?」
無邪気に、オウム返しで聞き返してくる朧さんに僕は。
「買い出し、ふたりで行かない?」
僕の言葉に、朧さんはちょっぴりびっくりしたみだいだけど。
にぱっと、花が咲いたように笑って。
「うん! いいよ!」
そう、言ってくれて。
ああ、僕はやっぱりこの娘が好きなんだなあと、改めて思ったんだ。
◇
夢見が悪くて、自分のうなされる声で起きた。
九江卿人の記憶に無い記憶を無理矢理詰め込まれた感があってやたらと気持ちが悪い。
だけど、全く知らない記憶ではない。
思えば、朧さんと健一郎の距離がやたらと縮まったのはこの時からだったなと。
思うところはあるけれど、それは同時に僕が望んでいたことでもあって……。
まあなんにせよ、この後の文化祭で健一郎と朧さんはくっつくのだ。
ふと。左耳の耳飾りに触れる。
前世の朧さんと現世の雪華は同一人物じゃない。
魂は同じかもだけれど、別人だ。
この耳飾りでの通信魔法を使えば、今すぐにでも話はできるけど。
それは最終手段。
触媒になっているホワイトベリルが保たない。
こんな、ただ不安になったから通信なんて出来ないのだ。
……すっごい我慢してる僕。
はやく。
はやく会いたいよ。
雪華。
閑話 完
本格再始動は来年からになります
またお知らせいたしますね!
宜しくお願い致します




