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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第3章 卿人編
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第91話 再会の兄ちゃん

ご免なさい少し遅れました!

 白黒龍グラオとの戦いのそのあと。

 馬車の中で伸びていて無事だったリマイ伯爵にすっごく感謝された。


 ただのはぐれドラゴンだと思ったら数段強力なドラゴンだったうえに、それを僕がほぼソロでぶっ倒してしまったのだ。

 まあ。めんどくさい事になりました。


 そりゃあ大人数をまとめて護るような能力を有し、ドラゴンの装甲を抜いて致命傷を与えてしまうような個人なんか居たら囲っておきたくなるのはわかる。


 だれだそんな非常識な奴は!  


 なんと九江卿人ぼくである。


 だもんで感謝の後に散々勧誘された。配下どころか同格扱いでも良いとか言われて。そんな簡単に貴族になれないでしょ? っていったらプロポーズされた。

 止めてくれしゃれにならぬ。

 つうか恋人居るし。丁重におことわりした。 


 一悶着どころじゃない騒ぎだったけど、なんとか断れた。やっぱりクラフターズっていう立場は強いね……あんまり乱用したくはないけれども。

 もちろんペイマ達も勧誘されたけれど、僕の護衛任務中だからね。それでごり押した感じになった。

 リマイ伯爵の目はかなり本気だったのでちょっと怖かった。


 でも本気で恩義を感じてくれたみたいで、功績として大きく認められ、当面の活動と生活には困らないほどの資金と、マディシリア内の冒険者ギルドへの口利き。それから。


 龍討伐者ドラゴンスレイヤーの称号。


 ……冒険者にとって憧れの称号。これだけで、ランクA相当の実力があると判断される。

 もっとも、この称号を所持していて冒険者で無いというのは僕のような特殊な環境にある者以外はそういないだろうけれど。そもそも冒険者ギルドの証明する称号だしね。


 そして諸々の費用を考えたとしても、ドラゴンとセイバーファングの討伐報償と素材は莫大な利益になる。

 リマイの街はしばらく潤うだろうし、発展もするだろう。そういう意味では、これだけの事をして貰ってもバチは当たらないのかもしれない。


 それだけのものを貰って、さらに盛大に送り出して貰った。

 ネルソーまで行くと言ったらそこまでの護衛も付けようとか言われた。

 もうほんとに、丁重にお断りした。

 そもそも僕らのパーティーはユニリア王国まで帰るのだ。わざわざ送り届けるために付いて来るとかかわいそうすぎるし、そもそもお抱えの騎士団がおいそれと動いたりしたら領地間の問題になること請け合いである。


 なんのかんのあってもリマイから出発したは良いのだが……僕らの事が既に広まってしまったらしく、次の街で待ち構えられていた。

 歓迎されていたわけでは無い。むしろリマイ伯爵の差し金だと思われたらしく、一部の貴族から付け狙われる羽目になった。どうやら護衛を断ったのが逆に悪く働いたらしく、つまりはリマイ伯爵の配下に収まったのだという誤解を生んだらしい。


 もちろん事情を知るものならクラフターズが特定の貴族に加担するなどと言うことは無く、配下になるなどあり得ないのだけど、まあそこは貴族。平民は金を積めば動くと思ってる輩も多い。


 そんなわけで比較的まともな領主のいる街で無ければ立ち寄れないという状態。

 そんな状態でスムーズに移動出来るはずも無く……天然の脅威「生ける雲」のぎりぎりを通ってみたり、危険とされる林を通り抜けたりしなければならなかったりした。

 

 つまりマディシリア最南の街、サウスエンドから出発して半年たった現在。ようやく王都マディシリアまで半分という所。

 本来ならば白黒龍を排除したことでふた月ははやまる計算だったのだけど……。

 やはりままならない。


 サウスエンドで馬車を改造しておいて良かったと思う。でなければかなり過酷な旅を強いられていたに違いないのだから。

 走破性は良くないけれど、バリオスのおかげでなんとか進めている。起伏もそんなに無いことが幸いした。


 半年ほど、そんな街を避けたり避けなかったりする生活をしていると自然、魔獣や魔物を相手にすることが多くなる。

 なので全体の戦闘力が上がり、特に斥候をしている康造さんはひとりで障害を処理してしまうことが多くなり、ペイマやサムが暇を持て余すような状況が多くなってきた。

 

 で、さっきのサムの発案に至る。

 暇すぎてアホな提案をしてしまったのだ。

 そして僕は暇すぎてノリでつくってしまったのだ。


 結果お互いの目を焼くというどうにもならない結果を生み出してしまったわけだが。


「あんたいい加減に昼食用意しなさいよ。きょうはサムが当番でしょ?」

「目がやられて力が出ない」

「ああそう、なら今すぐその役に立たない目を引っこ抜いてやるから覚悟なさい!」

「うわー、こわいなー」


 そんな棒読み台詞で馬車の中に入っていくサム。追い立てるように、ペイマも馬車へと戻っていった。

 ペイマも遊んで居るだけで、別に切れたわけではない。状況がマンネリ化しないように気遣ってくれているのだ。


「卿人、先ほどの魔法だが……」

「ああうん、役に立ちそうに無いねえ」


 康造さんには迷惑をかけてしまったかもしれない.このパーティで一番仕事をしているのは彼なのだから。

 だが意外なことに、康造さんはこの魔法に興味を持ったご様子。


「あの光……」

「え、もしかして光が追従する効果に興味を持たれました!?」

「いやそちらでは無い」

「ですよね」

「最後の激しく光る方だ。危うく見て居たこちらまで目を灼かれる所だったが、あれはどのくらいの光量まで出せるのだ?」

「えっと……」


 多分、前世にいた頃の閃光音響手榴弾、いわゆるフラッシュバンくらいは……うん?


「いかがいたした?」


僕が黙り込んでいると、康造さんが心配そうな声色で話しかけてきた。


「ああいや、多分もっと上げられると思う。一瞬だけでも夜を真昼にするくらいには」

「うむ、ではそれをこのクナイに掛けては貰えぬか」


 ……おお!


「投擲して目潰しに使うのか!?」

「左様」


 それこそ、さっきのフラッシュバンと用途が似ている。


「でもそういう魔道具ってあったような?」

「確かにあるが……あの手の魔道具は消耗品にしては単価が高く、光量も目の前で光ればなんとか、という程度で、しかも不安定だ」

「あー」


 失念していたけど、小型の魔道具に魔法式を彫る技術はかなり難しい。ココノエ式がある僕ならともかく、そんなに腕の良い彫式師が居るとも思えない。


「なるほど、じゃあ僕がそのクナイ作ってみるよ」

「助かる……とりあえず試射をしてみたいので、エンチャント頼めるか?」


 言われて康造さんの差し出したクナイにさっきの魔法をかける。泣く泣く刀身を光らせる部分をオミットしてだ。 

 するとやはり、何の変哲も無いクナイが現れる。


「やっぱり光らせない?」

「断る」


 素っ気なくそう言うと、おもむろにクナイを投擲した。

 

 クナイは茂みの中へ吸い込まれ、おそらく地面に刺さると同時、すんごい光が木々の間から漏れる。効果音にすると ビカアアアアアアアアアアっ! って感じだ。

 ……自分で調整しておいてなんだが、これ直視したらただじゃ済まないぞ……?


「うぉ!? まぶしっ!?」


 そんな悲鳴と馬のいななきが聞こえてきた。

 もちろん、僕と康造さんのものじゃない。いななきもバリオスのものでは無い。


「何奴!?」


 誰何の声をかけて姿を現したのは……。

 

 サウスエンドで配達をしてくれた兄ちゃんだった。


兄ちゃん再び

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