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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第一章 転生~幼年期
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第9話 魔法

説明回です

おや? 雪華ちゃんの様子が・・・・・・?

 この世界において魔法とは「マナ」の運用の事である。

 まずマナを感知する必要があり、これは先天性のものだ。資質がないものにマナを扱うことが出来ない。


 大気中に漂うマナを感知、変質、形成して望む効果を発揮させる。

 変質及び形成されたマナは役目を終えると大気中に拡散、還元される。

 よって魔法を使う際に消費するのはマナそのものではなく、自らの精神力を消耗することになる。


 マナをどう運用するかをイメージし、それを具現させるために魔法式を組む。

 組み上げた魔法式を展開、そこにマナを走らせることにより、魔法として具現化させる。

 その際魔法式は発動と共に霧散する。


 魔法式とは魔法言語で構成された式であり、同じ魔法でも術者によって全く式が違う。しかし連綿と続けられた魔法研究により基礎とも呼べる魔法式が存在する。

 それはアーキタイプと呼ばれ重宝されているが、それ故妨害されやすい。


 この世界の魔法使いはいかにアーキタイプから自分に合った魔法式を組み上げるか、いかに効率の良い、()()()魔法式にするかに価値を見いだす。

 マナの感知さえできれば戦士でも魔法は使えるが、特にアーキタイプをいじり自分なりの魔法式を構築、行使する者を魔法使いと呼ぶ。


 雪は降っていないが底冷えする寒さの港湾都市ネルソー。


 九江卿人おれは今、薪ストーブがあるリビングで魔法式の効率化に取り組んでいる。

 前衛が使う魔法は限られているけど、それでもあるとないでは大違い。

 本来は魔法使いの領分である魔法式の組み上げを行っている。


 先日、炎華えんかと喧嘩した時に使った基礎強化魔法「イグニッション」は、俺がアーキタイプを元に作成した精神力の消費効率が比較的良いものだったのだが、おふくろの組んだイグニッションの魔法式はすべてにおいて俺のものを上回っていた。おふくろは式を教えてくれない。見たままをなぞるのと理解して組むのでは精度が違うからだそう。


「卿人、「イグニッション」はもともと精神力の消費が少ないの、だから最初に組むべきは効力、次に範囲、最後に消費効率。そこを念頭に式を組んで、式自体の短縮を図っていけば精度と速度は自然に良くなるわ」


 おふくろにはそう言われている。

 つまり一度「イグニッション」自体の魔法式をばらして最初から組み直せということ。

 新魔法を作るのに等しい作業だ。

一流の魔法使いはみんなこの作業をしているらしいけど、正気じゃ無いよねえ。


 まあ、それを喜々としてやっている俺も変態なのだろうけど。


 もう身体もすっかり良くなって動くのに問題ないけれど、訓練にはあまり時間を掛けず、ひたすら魔法式を組んでいた。

 だからといって訓練が楽になった訳では無く、短い分逆に難易度が上がった感じ。

 ここ何週間かでようやく「イグニッション」の高効率化は出来たのだが、式が長すぎる。これでは発動に時間がかかりすぎて使い物にならない。

 ここから要点だけ押さえて余計な式を抜いていくんだと思うんだけど、どうにも難しい。


 頭の中で魔法式をこねくり回していると、んぅ・・・・・・というつぶやきと、肩口辺りでもぞもぞと動く気配。


 雪華だ。


 俺に寄りかかって寝ている。むずがっただけのようで起きる気配は無い。


 俺が魔法の勉強をしている間は一緒に居るようになった。鍛錬の時間が大幅に減っているはずなのだけど、大人達が言うにはそれで良いらしい。

 俺の訓練時間になると起き出す、とゆうか起こす。寝起きはなんだかよくない顔をしていた。


 少し前に珍しく雪華がウチに泊まらなかったことがあったのだけど、それからだ。

 気になって聞いてみても「なんでもないよー」としか言ってくれないので、あまり突っ込んでも聞けない。

 いや、突っ込んでも良いのだけど、突然暗い表情になる時があって、聞くに聞けなかった。夜もろくに話をせず、ベッドに潜り込んでしまう。折を見て詳しく聞いてみよう。


 ローテーブルに向かってうんうんとうなりながら魔法式を詰めていく。

 ああ、だめだ。これだと効力が下がる。じゃあこっちを削って・・・・・・。あ、だめだ。これだと発動しない・・・・・・。


 雪華の寝息が耳に入ってくる。すうすうと規則的な寝息で、たまにさっきみたいにむずがるように寄りかかる角度を変える。こうしているといつも通りで、何かあったようにも見えないんだけどな。


 うん、集中力が落ちてる。雪華を気にしてるのが証拠だ。

 雪華を起こさないように、首だけでのびをする。


 丁度今おふくろが2階にあがってきたから、一度見て貰おう。


「母さん、ちょっと見て欲しいんだけど・・・・・・」

「お、どれどれ」


 A4サイズの黒板に書かれた魔法式を示す。

 黒板を受け取り、式を吟味するおふくろ。

 俺の作った魔法式を展開して確認している。展開するだけでマナを走らせなければ精神力は消費しない。


 おふくろは頷くと満足そうに微笑んだ。


「凄いじゃない、これで出来てるわよ、今できたの?」

「式自体は少し前にね。でもこの式だと長すぎると思うんだけど・・・・・・」


 この半分くらいでないと即時発動は難しいはず。


「そうよ、だから分割して、上下を連結すればいいって教えなかったかしら?」

「初耳です」

「そうだったかしら?」


 あれえ? みたいな顔をして黒板にいくつか書き込む。


「この区切りの意味はわかるわね?」

「うん、ここだけでも魔法自体は発動するってことだよね?」

「ご名答。これをここでこう、連結してやると・・・・・・」


 見た事の無い魔法式、連結魔法式、とでも言うようなものができあがった。

 これなら今までの3分の1以下の時間で走らせることが出来る。ほぼ一瞬だ。


「アーキタイプはその名の通り基礎の基礎、ここから発展させるに当たって生み出したのがこの連結魔法式。これに気付いてしまえば後は簡単。どの魔法式でも自由に改変できるわ」

「へえ・・・・・・魔法書にはこんな事書いてなかった・・・・・・」

「そりゃそうよ、母さんが冒険者やってる時にあみだしたんだもの」

「マジで!?」

「マジよ。近年の冒険者達の魔法技術の向上は私のおかげと言っても過言じゃないわ」


 おふくろはえっへんと胸を張って答える。

 素直に凄いと思うけど、そうなると妙な疑問が出てくる。


「こう言ったらなんだけど、なんでこんなところで魔法道具屋の奥さんなんかやってるの?」


 ユニリア王都で宮廷魔術師をやっていてもおかしくないくらいの業績だと思うんだけど?


「いろいろあるのよ、いろいろと。大人になったら教えてあげる」


 ぱちりとウィンクを飛ばしてくる。


「あとは卿人自身の適性魔法を同じように効率化すれば良いだけよ。「イグニッション」の効率化さえできれば後はどんな魔法式もいける、と思うわ」

「そこは言い切ってよ・・・・・・」


 不安だ。

 魔法の適性は簡単に調べられる。マナの感知ができたら各種アーキタイプを使ってみれば良い。発動すれば適性、しなければ適性無しだ。


 俺の適性は補助系。主にバフと呼ばれる強化系だ。だからこそ「イグニッション」の効率化を課題にしたんだろう。

 あとは属性付与。剣に火を纏わせたり、雷を纏わせたり。そんな感じ。

 それと回復系。傷を癒やしたりする。実はレアだそうだ。

 神聖魔法という神の力を借りた魔法では無く、自力の魔法式のみで回復を行うのだが、適性者がとても少ないのだとか。


 早速、他の魔法式でも試してみよう。

 「イグニッション」の魔法式は別に書き写して後で覚えるようにして、と。

 さんざんにらめっこしてたから多分覚えてるけど。

 今までアーキタイプでも長すぎて使えなかった各種バフ、属性付与エンチャントを魔法書を見ながら書き写してゆく。

 からんでくるあんちゃん達相手にバフを使うことなんか無いけど、短縮できたら足くらい速くしても良いかもしれない。逃げれるし。


 お袋が仕事に戻り、俺がにやにやしながら作業をしていると、もぞもぞと雪華が起きだした。


 女の子座りでぺたんと座り、ぼーっとした表情で俺を見ている。


「おはよう、起こしちゃった?」


 雪華はゆるゆると首を振ると、俺の太もも辺りにぽてっと頭を落として、また寝てしまった。


 おかしい、ちょっと寝過ぎだ。

 これで良いわけがないんだけど。大人達は好きにさせとけって言うし・・・・・・。


 完全に意識が雪華の方に行ってしまったので、魔法書を閉じて黒板を置く。

 さわさわと頭を撫でる。


 なぁ、いったい何があった?


「卿人」


 いきなり話しかけられてちょっとびっくり。


「起きてたの?」


 ぱっちりと目は開いている。目線はまっすぐ薪ストーブの火を見ていた。


「うん・・・・・・。ねえ、卿人」

「どした? 雪華」

「卿人」

「うん」


 黙り込んでしまう。俺はその間も雪華を撫でていた。

 声にハリがない気がする。ただ気がするってレベルで、寝ぼけていると言われれば納得してしまう程度のものだ。


 雪華は気持ちよさそうに目を細めて。


「おべんきょう、楽しい?」

「うん、楽しいよ」

「わたし、邪魔?」

「邪魔なもんか、雪華がいるから捗る・・・・・・楽しく出来てる」


 ぐりん、と膝の上で仰向けになると、にっぱーといつもの笑顔を見せてくれた。

 いや、やっぱりちょっと陰りがある。


「ごめんね卿人」

「前もこんな事あったね。何で謝るの?」

「わたしが元気がないから」

「そうゆう時もあるよ」


 うん。と頷いて、俺の顔に手を伸ばして、触れる直前で止まる。


「ねえ、卿人」

「なんだい?」


 何かをこらえるように言葉を詰まらす。


「わたしのこと、嫌いにならない?」


 思わず雪華の頭を撫でる手が止まる。

 いよいよ異常事態だ。


 普段の雪華なら絶対にこんな事は言わない。

 雪華は「好きな人に嫌われないように」じゃなく「好きな人に好きになって欲しい」で行動する。自分がいかに相手を好きかを伝えるために行動するタイプだ。


 目の前で所在なさそうにしている雪華の手を握る。

 びくっ、と震えて。握った手も震えていて。

 時間稼ぎのために握ったつもりが、余計混乱してしまう。

 ここで問いただせば何があったか多分教えてくれるだろう。

 でもそれは逆効果だ。

 雪華は同情されたくないはずだ。きっと俺にはわからないことだ。


 今の「わたし」を見て好きでいてくれるかを聞いているんだ。


 大人達はたぶん、雪華の精神安定のために俺のそばに置いている。


 なら俺はどうしたら良い?


 雪華を元気づけるんじゃない。


 雪華を元に戻すんだ。


 なら、いつも通りにすればいい。


 雪華といつも通りのやりとりをすればいい。


 ならできるはずだ。生まれてからずうっと一緒にいるんだから。


「ねえ、雪華」

「うん、なぁに、卿人」

「雪華は僕のこと嫌い?」

「ううん! 好き! 大好き!」


 ほとんど反射みたいに言う。自分で言わせといてなんだが、照れる。

 恥ずかしいのを押さえつけて言葉を重ねる。


「じゃあ僕が雪華を嫌いになるわけ、ないでしょ?」


 雪華の震える手を自分のほっぺに当てる。子供らしい体温の高い手。でもその手は、執拗なまでに手を洗ったのだろう、酷いあかぎれになっていた。


「僕は、雪華が僕のことを嫌いにならない限り、これからもずっと一緒だよ」


 狡い言い方だけど、今はこれが正解。なぜなら次の言葉は。


「じゃあ結婚して!」

「おっぱいがおっきくなったらな」

「サイテー!」   


 雪華は背筋の力を使って飛び起き、目の前に立つと思い切り笑顔で頭突きをかましてきた。


 ごちん! といい音がして俺は仰向けにぶっ倒れる。


 足早に去って行く足音。


 雪華はリビングの入り口で振り返り、顔を真っ赤に染め、とびきりの笑顔で叫んだ。


「卿人なんか! 大好きなんだからぁ!」


 音を立ててドアを閉めるとダッシュで駆けていく足音。


「ははっ」


 思わず笑ってしまう。よかった・・・・・・いつもの雪華に戻ってくれたみたいだ。

 いつも通りにすれば良いとか大言を吐いたけど、ちゃんと伝わってくれて良かった。

 そして、応えてくれた。

 ああ、やっぱり好きだ。早く大人になりたい。

 今のままじゃただの変態だよ・・・・・・。


「いやー、やっぱり卿人に任せて正解だったわねえ」


 気付くと隣におふくろが立っていた。俺を見下ろしてしきりに関心している。


「詐欺師みたいね」

「息子になんてこと言うんだ」

「スケコマシの方がいいかしら?」

「その方が父さんのせいに出来ていいかも」

「だったらあなたは息子じゃないわね。お父さんは私一筋だから」

「僕だって雪華一筋だよ」

「ならいいわ」


 裏口の扉が勢いよく開く音がする。


「あ! お兄ちゃん発見! かくごー!」

「え? ちょっと、雪華? 俺まだ謹慎おわってなぐべぶあ!」


 炎華兄さんごめん、ハイテンション雪華の生け贄になってくれたまえ。


「・・・・・・聞かないの?」

「何を?」


 すっとぼける。

 僕はすっとぼけてますよとアピール。

 おふくろは雪華が何でああなってるのか知りたくないかきいてきたのだ。

 だけど知っても出来ることは限られるし。

 俺に出来るのは雪華といつも通りに過ごす事だし。

 いずれ俺も通る道かもしれないし。

 何より雪華から直接聞かないなら、それは彼女に対して不誠実だ。


 おふくろはそんな俺の様子を見て、すんごいため息をついた。


「あなたねえ・・・・・・ホントそういうところ子供らしくなくて可愛くないわ。息子だけど実は15歳とか言われても驚かないわよ」

「まさか」


 20代半ばです。中身はガキだけど。


「いいわ、とりあえず、勉強に飽きたならご飯の準備、お願いね」

「はーい」

 

次回は時間が少し飛びますが、その前に閑話が入るかも知れません。

根性が残っていれば。

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