第85話 白い絶望2
今回少し短いです
1500字ほど
さ、サボったわけじゃ無いんだからね!
セイバーファングはいらだっていた。
目の前の人族3匹程度に手こずり、後ろを抜けていく馬車を逃さねばならないのが気に入らない。
だが、今背を見せれば只では済まないだろう。
てっとり早くカタをつけたい所だが、魔法を打ってくる人族の炎の槍が邪魔だ。だがそちらに行こうとすれば、黒ずくめのもうひとりが手に持った何かで邪魔してくる。ダメージはほぼ無いが、目や口を的確に狙って来てうざいことこの上ない。
それだけなら強引に突っ込んでどうにかなるのだが、あの光る盾を持った人族がとりわけヤバイ。
あの盾は自慢の爪で引き裂くことも出来ず、それどころか反撃に使われるあの鉄の棒かなり痛い。あまり喰らえば防御を抜けてしまう。
どれか喰ってしまえば楽なのだろうが・・・・・・あの円盤に阻まれてしまってなかなか崩すことが出来ない。
・・・・・・まあいい。
所詮人族、無尽蔵の体力を持つ自分についてこれるはずがないのだ。
それに、奴らは自分が最も苦手とする武器を、持っていないじゃないか。
白い絶望は、獅子の口を器用にぐにゃりと歪め、その牙をむき出しにして獰猛に嗤ってみせた。
◇
九江卿人達とセイバーファングはにらみ合ったまま。セイバーファングの背後を馬車列が通り過ぎていく。
少しでも振り向くようなそぶりを見せれば後ろからどついてやるつもりだったのだけれど、白い絶望は口を奇妙に歪ませてこちらを睨み付けている。
どうやら僕らの事を警戒しているみたいだ。尤も、そうで無ければ困るのだけれど。
ここまでは成功なのだけれど、問題は僕らがこれからどうするかって言うことで・・・・・・。
「卿人、勝ち目は?」
康造さんが僕の横まで出てきた。小声で会話するためだろう、言葉が通じるとも思えないけれど、用心しておくに超したことは無い。
まあ普通だったら、勝ち目なんて無い。ランクCの冒険者ふたりに、鍛冶屋だ。
白い絶望を相手にするとか不足を通り越してる。
だけど。
「さっきやりあったとき、奴はフェイントを使ってきた。今も何か様子をうかがってるみたいだし、かなり知能が高いね」
「うむ」
「格闘技に獣のスピード、それにあの毛皮がかなりの衝撃吸収能力と、魔法耐性をもってる。トドメに魔獣特性、気の防御・・・・・・単純に隙が無い」
「そうだな」
「そうだなじゃないわよ! じゃあ勝てないって事じゃない!」
ペイマが叫ぶ。ひそひそ話の意味が無くなってしまった。
「ペイマうるさいぞ」
「声抑えてくださいます?」
「何でふたりともそんな冷静なのよ!」
「まあ慌てないでよ、隙が無いからって勝てないなんて事はないよ」
そう、ランクCだけれど実力は充分にランクBはある冒険者のふたり、そして鍛冶屋はクラフターズだ。パーティーランクA相当はある、はず。
「ペイマだって連結魔法式使いこなしてるじゃないか」
「まともにできるのはさっきの「炎槍」くらいよ」
「充分。康造さんは威力の高い攻撃ってある?」
「あるが、どれも危なくてな」
「オーケー、じゃあ・・・・・・」
僕が提案した直後、セイバーファングが動いた。
丁度、最後の車列が視界から消えたくらいだ。
セイバーファングは、その視界外の車列に向かって走りだした!
僕らが車列から遠ざけようとしていたのが分かったのだろう、わざとにらみ合ったまま動かず、車列が視界の外に消えてこちらの気が緩んだ瞬間を狙って全力で車列を追いかけたのだ。
僕らが反応する前に追いつけば、後ろから突如現れたセイバーファングに対抗するのは難しい。そこまで考えての行動。
セイバーファングにしてみれば狙いはなにも僕らでなくてもいい、食事が目的だ。簡単に食えるのならばそちらを優先するという事。
してやられた! なんて言うと思ったか!?
すかさず、ペイマが準備していた魔法を放つ!
「ビンゴ! 『棘柵』!」
セイバーファングが後ろにダッシュをした瞬間、その進行方向へ無数の石の槍が地面から突き出された!
槍の長さはセイバーファングの半分ほどだが、太さは人の胴ほどもある。動きを制限するには充分だったようでがくんと動きを止めた。
予測、というにはちょっと賭け要素が強かったけれど。
そもそもセイバーファングに動く気配が無いのがひっかかった。びびってる様子ではないし、ならば何か策でもあるのか。
あの歪んだ表情は何か悪巧みしてるに違いない・・・・・・とヤマを貼ってみたら、見事に的中したわけだ。
只のカンでしかなかったのだけど、準備しておいて損が無い状況だったからね。
とにかく足止めされたセイバーファングは忌々しそうに唸るとこちらを振り返り、直後、横っ面にメイスの打撃を浴びることとなった。
めきっ。というやや痛そうな音と共に大きくのけぞる巨体。
セイバーファングに合わせて突っ込んだ僕が、飛び込みざまにメイスを叩き付けたのだ。
着地と同時、腰を落として伸び上がりざまシールドチャージ!
だがそれは、セイバーファングの両腕で止められてしまった。そのまま掴み上げようとしたところで。
「キューブちゃん! 盾解除!」
『Jawohl!』
ふっと、青水晶の円形盾は消失、つかみかかっていた支えを失った両腕は、僕の目の前で泳いでしまい・・・・・・。
「『炎爆槍』!」
ペイマの放った極太の炎槍が、その獅子頭を直撃! 炎が炸裂する!
「ガァアアアアアアアアアアアア!」
ぶすぶすと体毛の焦げた黒煙を上げ、両手で顔を押さえながら後退するも、「棘柵」により生成された石の槍に阻まれてしまい下がることが出来ない。
そんななかでセイバーファングがとった行動は、とりあえず目の前の獲物を殴る、だ。
つまりは僕に向けて渾身のパンチを繰り出してきて・・・・・・。
「スクトゥム展開!」
『Jawohl!』
ヴン! と音を立てて展開されたのは長方形の大盾。拳を地面に向けて、盾の縁下部を地面に突き刺すようにして構え、肩を添えて衝撃に備える。
腕をも壊れよとばかりに繰り出された拳は、青水晶の方形盾に激突!
ずぐん、と重い衝撃がのしかかってくるが、全部受け止めてやった。
反動で戻った衝撃は一瞬、セイバーファングの動きを止め・・・・・・
「覚悟」
セイバーファングの目の前に跳躍した康造さんの手には、ひと振りの小太刀が逆手に握られている。
真っ黒い刃の鍔の無い直刀で、果国の刀匠が拵えた黒鐵製のもの。黒鐵には魔を払い災いを退けるチカラがあるとされ、高名な刀匠の手にかかると鉄すら切断する切れ味をもつという。その色から特にニンジャには好んで使われる。
その日の光も吸収してしまいそうなほどの漆黒の刃が閃き、セイバーファングの喉元を引き裂く!
ぎゃりん! という音がして、気の防御に阻まれた刃は、頸動脈を切り裂くには至らずその喉を薄く傷つけるにとどまった。だが康造さんの本命はここからだ。
じゃらりと、空いた手には無数のクナイ。その尻には、大量の爆薬が取り付けられていた。
ためらわずそのクナイをセイバーファングの首元に投げつけ、気の防御を破壊した直後の首へとクナイが突き刺さる!
セイバーファングの胸板を蹴って、僕の真後ろまで避難する康造さん。ついでに爆薬を発火させることも忘れてはいない。
「キューブちゃん! パビス展開!」
『Jawohl!』
ガントレットから展開される青水晶の流体は、僕と康造さんを充分に隠せる程の壁と化す。
刹那。閃光に、目の前が包まれた。
そして爆音!
爆発の衝撃はとんでもなく、吹き飛びそうになるのをぐっとこらえる。
爆音と閃光が収まった後には、もうもうと立ちこめる砂煙。
さて。
「やったか!?」
興奮気味に康造さんが叫ぶ。気持ちは分かるけど、それはフラグ!
キューブちゃんの合成音声はJK希望します




