第82話 伯爵の依頼
ドドドドドラゴン!?
「はぐれ龍種の討伐に、是非とも参加してほしい」
「はい?」
一瞬、聞き違えたかと疑った九江卿人はそんな間抜けな返事をしてしまった。
伯爵は気にした様子も無く、テーブルに肘をついて腕を組み、先を続ける。
「聞いているとは思うが、3年前からサウスエンドの北にはぐれ龍種が住み着いてしまっているのだが・・・・・・そいつが移動を始めたらしい」
移動自体は珍しい事では無いが、わざわざそれを口に出すということは。
「そう、このリマイにだ。まったく迷惑な話だ。3年間その辺りの猟場と土地を食い荒らしていただけなのに、急にこちらへ進み始めた。あと数日もすればこのリマイに到達するコースだ。何がきっかけか知らないが、突然動き出した。腹立たしい」
軽口を叩いているようにも聞こえるが、緊張で口の中が乾いたか、伯爵はグラスに手を伸ばして中身をあおった。
ペイマは顔を青くして、康造さんはなにやら考え込んでいたが・・・・・・サムに至っては唇をゆがめている。好戦的に。
「だがこちらに向かっている以上、手をこまねいている訳にもいかない。リマイは防衛態勢を取ることになったのだが・・・・・・」
まぁ、この流れからすると。
「君たちにその戦力として加わって貰いたい」
そうくるよねぇ・・・・・・。
はぐれ龍種。
つまりはドラゴンなのだけれど、そもそもドラゴンは純龍種の手足となって悪魔種に対する警戒のために存在している。
というのは純龍種と交流のある者だけが知っている話だ。
一般論としてドラゴンは高い知能を持ち、自分たちの縄張りを侵されさえしなければ他種族との取引をする程度には友好的。
金や銀、美しい宝石などを好み、こちら側は地味だが有用性の高い鉱石や植物などで交易をしたりする。
だけど、他種族がそうであるようにドラゴンにもはぐれ者がいる。自分たちより脆弱な他種族に何故気を使わなければならないのか? という疑問を抱いたドラゴンが他種族に害をなした場合、はぐれ龍種として扱われ、討伐対象にされる。これに対し他のドラゴンたちが関わってくることはない。同胞に手は出さないというのが彼らのルールだから。そのかわり他種族に彼らが倒されるのも許容する。ドラゴン干渉区内でなければ、それは自己責任として判断されるから。
つまり、ぐれたドラゴンがやんちゃした場合は一切の関わりを持たないというのが龍種という生物全体のスタンスだ。
他種族には迷惑な話だが、変に干渉されるよりはいいのかもしれない。
で。
そういったドラゴンを討伐する場合、それなりの戦力が必要になる。
ドラゴンの推奨討伐パーティランクはA++。ランクA冒険者で固めたパーティーに、できればランクSがひとり欲しい、という難易度。
過去の経験からはぐれドラゴンを討伐する際の最適解だそう。人数は多くても良いが、比例して被害も大きくなる可能性が高いため推奨されていない。
伯爵の様子からすると討伐をするメンバーは決まっていそうだけれども・・・・・・いや、伯爵は今は防衛といったか。
「返事をする前に、伯爵は何処かに防衛ラインを引くおつもりですか?」
「ああ、まだ話が通じる可能性があるからな。一度交渉はしてみるつもりだが・・・・・・まあほぼ望みはないだろう」
「はぁ、それで今朝の、失礼・・・・・・茶番をしてまで僕らと接触して、そうまでして僕らに何を?」
「無論、武器の調達・・・・・・といいたいところだが正直に言おう。クラフターズの名前が欲しい。証人になって貰いたいのだ」
「なるほど」
ドラゴンを討伐したという証明、それを部外者で若造とはいえクラフターズがいたとなれば、それなりの保証にはなると。でもなあ。
伯爵は僕の表情を読んでか、さらに続けた。
「大丈夫だ。南マディシリアきってのランクA冒険者を揃えた。過去にもはぐれドラゴン退治の経験もあるベテランだよ。私兵も出す。負けはないぞ。もちろん報酬もだそう、なんなら龍討伐者の実績も付けよう。どうかな?」
条件が破格なのは後ろめたさかしらん?
まあいいや、それよりも問題は。
「皆はどう思う?」
仲間の意見を聞きたい。
僕の言葉にペイマは少し考えて・・・・・・
「悪くないと思うわ。ドラゴンがいなくなるなら使えなかった「生ける雲」の周回ルートを抜けられる。ドラゴンと直接戦えとか言われたらごめんだけど、準備が万端なら問題無いんでしょ? ならいい話よ」
「うん」
「某も反対する理由はない。安全第一、といいたい所だが、マディシリアを縦断する以上、多少のリスクは背負っても受ける価値はある」
康造さんも賛成、と。
だがここで不穏なことを言い出したやつがいる。
もちろんサムだ。
「なあ伯爵さんよ」
「なんだね?」
「俺たちは戦闘に参加できねえのか?」
「ちょっとサム!? アンタまだそんなこと言ってるの!?」
すかさず突っ込むペイマ。
いうやまあ、そうよね。立ち会うだけで、とはいえそれでもそれなりにリスクがあるけど、安全に報酬が貰えるのにわざわざドラゴンみたいな危険生物に立ち向かうメリットはない。
けれど、果国の知識があるものとしてはサムの言うこともわかってしまう。
「何考えてんの? そのせいで・・・・・・」
「うるせえなあ。サムライが龍種に挑まない理由はねえよ」
面倒そうに、だけどはっきりと。
「龍種を目の前にして、指くわえて観てろって? 冗談きついぜ」
「・・・・・・」
そう、果国のサムライ達は龍種に挑むことを最高の栄誉と考える。
僕もサムのリザードマンに対する評価を聞くまで失念していたのだけど、サムライにはそう言った側面がある。
果国にも純龍種がいるとされる。
果国が国として機能する前から果国の守り神として伝えられる神龍。
その名を「果帝・青龍」。大陸風に言うなら「ブラオドラッヘ」だ。
同じ純龍種、ルーニィ・シルヴァドラッヘのルーニィ師匠から聞いた話じゃ最古の純龍巣らしい。少なくともルーニィ師匠が大陸北東部に生まれた頃には既に居たのだとか。
そんな古龍の存在を果国は信じていて、龍種と戦うことはサムライにとって護国と同義、らしい。詳しいことは不明。今度聞いてみよう。
とにかくサムライは龍種に対して羨望のような、敵愾心のような、敬意のような不思議な感覚を持っていて、挑まずにはいられないらしい。
伯爵はその辺の事情を知ってか知らずか、特に反応を示さず。
「挑むのは勝手だが、責任はとれんぞ」
「当然、それが聞けりゃ充分だ」
まあ、自己責任だよね。
僕が黙っていると、ペイマがみみうちしてきた。
「ちょっとケイト! いいの勝手なこといわせて! 雇い主でしょ?」
思わず苦笑いしてしまった。
「いいよ、確かに雇い主だけど、君たちの行動を制限はしないさ。僕の目的から外れない限りね。今回の龍討伐は必要なことだから、全然構わないよ。だけど・・・・・・」
僕はサムを見て。告げる。
「死んだら許さないからね? きちんとユニリアまで連れて行ってくれよ?」
「わかってる」
力強く頷いてくれた。
ふむ。
「伯爵、その依頼承ります。ただ・・・・・・」
「わかった。サミュエル・ザイラは討伐隊に組み込もう・・・・・・メンバーと揉めてくれるなよ?」
「そりゃ向こう次第だ」
「やれやれ・・・・・・」
余りにも不遜な物言いだが、冒険者なんてこんなモノ、という認識なのだろう。ため息だけで済ます伯爵。
ペイマは不満げな顔だが、僕が強く言わないので何も言わないのだろう。康造さんも似たような感じだ。
そうして、僕らはリマイ伯爵のドラゴン討伐に同行する事になったのだが・・・・・・。
◇
眼前には巨大なドラゴン。
浅黒くゴツゴツとした表皮は刃物など通せるようにはとても見えない。
丸太のような4本の足、そこから伸びるかぎ爪の付いた足指。
大きな翼を広げれば視界の殆どを遮られてしまう。
瞳は睨めつけるようにこちらを睨み付け、口からはちろちろと炎が漏れ出し、今にもブレスを吐き出してきそうだ。
とてもじゃないが、人間種ひとりで相手が出来るような存在ではない。
のだが・・・・・・。
「小さきものよ。我の前に立ち塞がるとは良い度胸だ」
何で僕が、こんなモノの前に単独で立ってるんですかねえええええ!?
ひっぱっといてなんですがドラゴン戦はもうちょっと先です




