第79話 賄賂
街に入る時にトラブルのはテンプレですよね
「フン。あの陸リザードマン達をアンタ達がやったって証拠も薄いし、兄ちゃんがクラフターズだって言うのも眉唾物なんだよなぁ?」
リマイの街の衛兵詰め所・・・・・・妙に綺麗なその取調室で、九江卿人らと机をはさんでふんぞり返っている中年男は、芝居がかった口調でそう言った。
陸リザードマンを討伐したら証拠としてその指を切り落とし、提示する。これは冒険者ギルドで定められた規定で、門番だって知ってるはずだし、僕がクラフターズなのは・・・・・・まあ仕方ないか。
とはいえ何が真実でも同じなのだろう。重要なのは街道のひとつを塞いでいた陸リザードマン達がいなくなったという事実で、僕の身元なんかどうでも良いはず。だからこの人がやっているのはお定まりの意地悪だ。
いや。
この男は要求しているのだ。
何を?
決まってる。袖の下をだ。
この街の門番は不正をしているのだ。
それに対してペイマは今にも噛みつきそうだがなんとか我慢している。サムに至っては半分寝ていた。康造さんは外の馬車で留守番。他人は拡張空間には入れないけど、通常空間の方にも少なくない荷物が入ってるからね。
僕はといえば営業スマイルを浮かべて打開策を考えている。
まったく、康造さんに言われてたから多少の覚悟はしてたけど、ここまで露骨に嫌がらせを受けるとは思わなかった。
リウイの街の検問を受け、陸リザードマンを排除したと報告、リザードマンの指を提示したのだけど、なにが気に入らないのかこんな物は証拠にならないと信じて貰えず没収、僕の首飾りも一瞥しただけでろくに確認もしていない。
賄賂を要求しているのを隠そうともしていないのにはいっそすがすがしさすら覚える。
おそらくだが、質の悪いことに日常的にこんなことをしている。その証拠に取調室が綺麗すぎるのだ。たいがい取調室というのは埃っぽくて居心地が悪いのだけど、ここは清掃が行き届いている。つまりは取り調べする方の利便性を考えているのだ。この部屋に入れたモノを簡単に帰らせる気が無いのである。
どうすっかなー。ぶっちゃけペイマの予定通りならここの次の街までは補給しなくても保つんだよね。
しかも宿に泊まるよりか馬車の方が快適なので、見張りを立てねばならないという事を除けば野宿でも問題無いときたもんだ。
でもなあ。
ここらで稼いでおきたいのですよ。お給料も支払いたいし。
ここらへんの賄賂ってどのくらいが相場なんだろ。まあ、現金が殆ど無いから支払えるかもわかんないし。
などと考えていたら結論の出ない僕らにいらだってきたのか、おっさんは少し目つきをキツくして。
「オレが言ってることわかるか? わかるだろ? この街に入れなかったら困るだろ? だったら、わかるよな?」
「何が?」
あえて、聞き返す。
もうちょっといらついてもらおうか。
すると案の定、少し余裕がなくなってきた。
「俺たちだって鬼じゃあねえんだ。だが俺たちにも生活ってもんがあってなあ。ちょっと支援してもらいたい訳よ」
こっちの頭が悪いと判断したか、露骨に金銭を要求してくる。ペイマが限界みたいで手の震えを各層ともしていない。でもう少しの我慢だとアイコンタクト。
形の良い唇を歪ませ、出血しそうなほど奥歯をかみしめている。
ちょっともうしわけないなあ、僕がいなければこんな要求もされなかったかもしれないのに・・・・・・。
よし、決めた。このおっさん次第だけど、ちょっといたずらさせてもらおう。
「生憎手持ちがなくて・・・・・・こんなんでもいいですかね?」
言いつつ鞄から一振りの短剣を取り出す。
装飾のないシンプルな鞘に収まっていて、柄もなんの変哲も無い。ただし、ガンガ師匠の銘が入っている。
「クラフターズ「鉄の手」のガンガが鍛えた短剣です。それなりに価値がある、はずです」
「ちょっとケイト!?」
「ふん・・・・・・」
机に置いた短剣を、おっさんは胡乱げに、だが注意深く矯めつ眇めつする。
ガンガ師匠の打った鉄製品は地味だが丈夫で刃こぼれもしにくい。刃も潰れにくく、長く切れ味が続くので包丁や護身用にはもってこいの逸品である。安価だが、それはクラフターズ製品の中ではであって、オークションにかけられれば目を疑う値段がつく。
だがそれも価値が分からなければ只の鉄の短剣でしかない。
おっさんは目を細めると、短剣を懐にしまい込んだ。
微妙なところかな。まだこういう輩の表情は読めない。
懐に入れたって事は一定の価値を見出したってところだろうけど。
すると案の定。
「わかった、これで勘弁しといてやるよ。おい! 自称クラフターズ殿とその一行のお通りだ!」
「待ちなさい! ならリザードマンの指返してよ!」
「ペイマいいから! ・・・・・・お手数掛けました」
そんなんで僕達は屈強な衛兵に詰め所からつまみ出された。
なんとも雑な扱いだが無事リウイの街に入れたのだから良しとしよう。
「良くなんかないわ!」
街の門からしばらく歩いてから突然、肩を怒らせたペイマに詰め寄られた。
「え? 読心術!?」
「ちがうわよ! あなたがホッとした顔してるからそう思っただけ! 私達リザードマン討伐の実績を横取りされたのよ? 証拠として提出した指戻ってないでしょ? あれギルドに持ち込んだら討伐が認められて賞金出たんだからね!? しかも貴方短剣奪われたのよ!? 大切な物でしょ? あれ!」
「いやまあ、街に入れたと思えば安く、は、ないけど。でも街道が通れるようになったのは良いことだし、短剣もあの様子なら多分返ってくるよ」
「なんでそんなことわかるのよ」
「ペイマが今言ったように大切な物だからさ。まあ、何日かかかるかもだけど、もともと少し滞在するつもりだったし」
「・・・・・・わかった。わかんないけど。様子見って事ね」
無理矢理にではあるけど、案外素直に納得してくれた。多分非常識な存在だと思われてるんだろう。
・・・・・・それはそれで複雑かも知れない。
「じゃあ、どうする? 日も暮れそうだし宿でも探す?」
「そうだねぇ」
詰め所を出て、預けてあった馬車を引き取り街へと足を踏み入れる。
リマイはサウスエンドとそう変わらない規模の街だ。マディシリアでは小さな集落だと危険だし、「生ける雲」のルートを避ける必要があるので、自然と人が集まり街の規模が大きくなる。領主としてはその方が管理しやすいだろうし、防衛するにも都合が良いのだろう。目抜き通りは人通りも多く、商人や冒険者、この地で暮らす魔族達であふれかえっている。人口の8割が魔族。あとの2割が人間種とオーク種といったところ。
建物の造りもだいたい一緒だ。あえて言えば色合いだろうか、サウスエンドは殆どが鉄色でどこか硬い印象を受けていたのだけど、ここはトロピカルな感じの原色が多く使われている。
そろそろ日が落ちる時間、やや茜色にくれつつある町並みは暖かみのある質感になっていた。同時に、宿屋や飲み屋、レストランなどの呼び込みも活発になってきている。
商隊向けの宿屋も多いだろうから、バリオスや馬車を留める設備には不自由しないだろう。
「冒険者ギルドには顔出さなくて良いの?」
「私は用事ないけど・・・・・・サムは?」
「無え」
「そう」
「会話短!? 左様ですか。商業ギルドは明日でいいのでやっぱり宿を探しましょう」
「おい、ペイマのせいで引かれたぞ」
「は? サムのせいでしょお? 変な言いがかりやめていただけますう?」
とまあくだらない会話をしつつ、宿を物色。といっても土地勘のあるペイマのお勧めの宿になった。「トコの止まり木」といういかにも冒険者向けの安宿だけど、馬車も預かってくれるし酒場も併設されているから面倒がないらしい。若い商人なんかも利用するのだそう。
「リマイならここが丁度良いわ。高級宿に泊まりたいなら別だけど」
「いや、過不足なくて良いと思う」
中は1階が食道兼酒場のようだ。時間帯的には少し早いが、盛況なようで半分以上の席が埋まっている。。そのまま奥に入っていくと、くるりとカールしたもふもふの尻尾を持った魔族のお姉さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい! 泊まり? それともお食事? 何名様?」
明るくハキハキと喋る姿はとても好感が持てる。看板娘なのだろう、他の店員は揃いの制服だが、彼女だけ服装が違う。
とまあ観察出来ているのはペイマが対応してくれてるからなんだけど。
「泊まりよ。食事付きで4人と馬・・・・・・なんだっけ?」
「グラニ種」
「そう、その種類が一頭と中型馬車一台、とりあえず3日お願い」
「あいよ~。ちょっと待ってて。あ、馬車は建物の横手に厩舎があるからそこに駐めてね」
それを聞いてサムが馬車で待機中の康造さんのところへ。
僕とペイマは部屋割りと先払い分の会計を済ませ、1階の酒場で集合、早めの夕食をとることに。入店から余り時間はたっていないはずだけど、既に席は大半が埋まっていた。
適当なテーブルを確保すると、入ったときに対応してくれた犬尻尾のお姉さんがまた来てくれた。
「お兄さんたち人間種だよね? マディシリア料理は大丈夫?」
「大丈夫。というかがっつりそういうの出してくれ。参考にするから」
「ふうん? まいっか。いけるのね? 飲み物は?」
「某は酒を」
「麦酒」
「私は・・・・・・果実酒にするわ」
「お茶ください」
『茶ァ!?』
僕のオーダーに何故か信じられないようなモノを見る目で総突っ込みを受けた。
「良いでしょうが別に!?」
「いや、クラフターズっていやあ溺れるほど呑むって有名だろ? お前も相当呑むのかと思って」
ああそういう・・・・・・。
「それはドワーフ種のガンガ師匠とオーク種のマッカス師匠のふたりだけだよ。むしろ他のメンツは殆ど呑まないんだ・・・・・・ごめんね店員さん、いきなり騒いで」
「酔っ払い共でなれてるよ! で、お茶で良いの?」
「出来れば地元のがいいな」
「あいよ!」
彼女が厨房にオーダーへ行くのを見送って。
「そんなにクラフターズって呑兵衛なイメージある?」
「あるっていうか、ふたこと目にはそういわれてる」
「あのふたりだけでイメージ作られてるの凄いな・・・・・・」
そんな会話をしているうちに飲み物と料理が運ばれてきた。サウスエンドでもそうだったけど、マディシリアはインディカ米が主菜だ。おかずは肉の煮込み料理が多く、ココナッツ風味だったりにんにくを利かせたりでスパイシーと言うよりしっかり味付けのしてある感じ。シュラスコもあった。
ちなみにだが康造さん。普段は総面とよばれる顔全体を覆う仮面をつけているのだけど、食事中は仮面の下半分だけが外れるようになっている。だから未だに素顔は見たことがない。髭が無くてもの凄く肌が綺麗だというのは分かった。
お酒は蒸留酒がメインみたいだ。あまり麦酒はあまり出てない感じ。
あ、値段がユニリアの倍くらいする。そうか、麦の仕入れが難しいのか。
で、お茶。
木製のカップに漉し器がついた金属製のストローが突っ込んである。水面にはローストされた茶葉が浮いていて・・・・・・。
うん、マテ茶だこれ。名前を聞いてみたらやっぱりマテ茶だった。ちょいちょい名前が符合するのが面白い。
いやでもこれ。
「おいしい・・・・・・」
マテ茶はうまかった。ストロー形の漉し器も性能が良いのか、粉っぽさは殆ど感じないし、ハーブがまぜてあるのかとても爽やかな感じがする。これはレシピ教わって常飲しよう。濾過器は自作・・・・・・できる。クラフターズの名にかけて絶対作る。
「お口に合ったかい?」
空いた皿を片付けに来たウェイトレスのお姉さんが、機嫌が良いようで犬尻尾を左右に揺らしながら聞いてきた。
「とっても美味しかったよ!」
「良かった! 自慢の料理だからね。ところで・・・・・・」
お姉さんは僕ら全員をぐるりとみやる。
「あんた達これから西に行くのかい? ならタイミング良かったね、今日道を塞いでた陸リザードが討伐されたらしいよ」
ん?
「なんで西に行くって思ったの?」
「あれ? 違ったかい? 往復商人には見えないし、かといって傭兵って感じでもないからね、サウスエンドの冒険者辺りだと思ったんだけど」
「僕らその西から来たんだ。その、ちょうど陸リザードマンとは遭遇しなくってさ」
「それは運が良かったねえ! なんでも五十匹くらいの群れだったらしくてね、討伐隊も手を焼いていたらしいのさ」
「へ、へえ!? ずいぶんいっぱいいたんだね!」
リザードマンの群れは二十匹程度だったはず。
すっごい盛るじゃん。それだけ居たらとっくに討伐令がでてただろうに。
あの衛兵達はいろいろとありそうだ。
とはいえ今日はもう動くには遅すぎる。動くのは明日からだ。殆ど動いてない僕はともかく、他の皆は戦闘をしているし、なかでも康造さんは連日の偵察で消耗しているはずだ。
まぁ、そういう事はパーティーで考えることだから、僕がどうこう言うことじゃないのだけど。
「ま、あたし達商売人はサウスエンドからの客が来てくれるんならなんでもいいけどね」
「違いないや。忙しくなりそうだね」
「嬉しい悲鳴ってやつさ。帝国の酒も仕入れられるからね!」
嬉しそうなお姉さんとは対照的に、ペイマは不満そうな顔。
さすがにサムが見とがめた。
「ペイマ」
「ごめん、納得出来ないけど頑張って飲み込む」
「おや? 口に合わなかったかい?」
「ごめんなさい果実酒はとてもおいしいの。こっちの話よ気にしないで?」
そういってコップを煽る。
綺麗な首筋を見せてから戻ってきた顔は、やっぱり少し苦そうだ。
どうやら、街に入ったときの事を引きずってるみたいだねえ。
ちょっと気にしすぎじゃないかなあ。
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