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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第3章 卿人編
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第77話 陸リザードマン

トロピカルな感じって難しい

 マディシリア南部は緑が多く、熱帯雨林かと思うほど植物が群生している。

 だが今は12月だ。針葉樹林でもないのにここまで緑が多いのは不自然なように思えるが、条件が揃えば常緑樹でなくても紅葉せずバラバラに落葉し、常緑樹のようになるのだとか。


 という話を御者台の隣に居るペイマから九江卿人ぼくは聞いていた。  


 ・・・・・・おかしい。


 マディシリアという土地は、魔物よけのしっかりしている町村を除いて魔物が跳梁跋扈する魔境だと聞いていたのだけど・・・・・・。

 街道と言うには些か心許ない道は平和そのものだ。天気はいいし、マディシリア特有の気候で冬だというのに涼しい程度で寒くもない。


 もっと、こう、最初の目的地のリウイの街までもっと戦闘があったりでキツくなるとおもったのだけど。3日ほどたつと言うのに僕自身は魔物と戦闘していない。


「平和過ぎるって思ってる顔ね?」

「そんなことは・・・・・・あるけれど」

「その半分くらいはケイト自身がやったことでしょ」

「まあ、いや、うん。そうなんだけどね?」


 僕がのんびり御者をしていられる一番の理由は、忍者の東雲康造しののめこうぞうさんの存在だ。彼は偵察兵スカウトとしても超一流で、馬車に先行して進み、斥候をやってくれている。

 魔法でも似たような事は出来るんだけど、生物反応がわかる程度だからできるなら斥候は出した方が良い。


 だからとても助かっているのだけど、この斥候ってヤツはとても大変なのだ。常に先行しなきゃいけないし、異常を察知したらすぐに戻ってこないといけない。体力と精神力をごりごりと削られるのだ。

 だから怪しい場所にアタリを付けてピンポイントででるのだけど、それでもキツそうだ。

 

 そこで通信の魔道具と腕時計を持たせた。


 通信の魔道具は範囲と音質の低い劣化版。トランシーバーだね。とはいえラグ無しの双方向通信可能な魔道具はとても便利だ。魔道式腕時計は籠手の上からしてしまえば邪魔にもならないし、機械式じゃないから音もしない。隠密にはもってこいだ。


 その結果、康造さんはいち早くこちらに危険を知らせる事が出来るようになり、安全に迂回が出来るようになって日中の戦闘回数が減った。時計も渡したことにより無理なく馬車まで戻ってこれるようになったので、余裕を持って野営の準備が出来るようになった。

 偵察兵スカウトの負担を大きく減らすことが出来ることが証明されたので僕的にも大満足である。


 あれ? 康造さん戻って来ないんじゃ逆にブラック企業っぽくない?

 なんかこき使ってるみたいになってる気が・・・・・・。


 逆にサムは馬車から出てこなくなった。「戦闘が起きそうなら呼んでくれ」とかいって引きこもってる。別に良いけどさ。


 てなわけですこぶる順調に馬車は進行している。警戒するのは夜くらい。その夜も結界が良く効くのかこの2日間は夜襲を受けていない。張っている結界はクラフターズ謹製対魔獣及び害獣虫除け結界だ。


 うん。


 道中が平和なのもサムが引きこもってるのも半分は僕のせいだね。


「でもペイマの道案内が良いのと康造さんのおかげだと思うけど」

「そうかしら?」

「そうだな、俺がヒマしてるのもお前のせいだ」


 ぬうっと御者台に現れたサムは、そんな事を言いつつ僕の隣、ペイマを挟んで反対側に腰掛ける。ペイマはともかくサムはかなりガタイが良いので、御者台は三人掛けとは言え圧迫感が凄い。


「狭いんだけど」


 苦情を入れると苦い顔で反論してきた。


「ヒマなんだよ。寝てるにも限界があるだろ」

「成る程。だからってここに居ても似たようなもんじゃないか?」

「でもないさ」

「? どういう・・・・・・」


 僕が言い終えるより前に簡易型通信の魔道具がブルブルと震える。コレを作るにあたって、本来通信魔道具に備わっている呼び出し音機能をオミットして代わりにバイブレーション機能を追加してみた。うん、とっても携帯端末。

 通話スイッチを入れるとやや早口の康造さんの声が聞こえた。


『そちらに10頭の陸リザードマンが向かった。おそらく馬車が警報器を踏んだらしい。接敵は避けられん。適当な場所で迎え撃て。他にも居る可能性がある故、某は相手の背後から援護する。ペイマ、サムを起こしてこい』

「もういる。まかせろ」


 ふっ、と軽く笑う康造さん。

 

『流石だ。頼んだぞ』

 

 それだけ言って通信は切れた。最低限の情報だけだったけど・・・・・・。というか、だ。


「サムは気の感知ができるんだ?」

「いや? できないぞ」


 思わずずっこける。


「だいたい感知索敵パッシブアラートなんて一部の達人しか使えないだろ。俺のは嫌な予感が良く当たるってだけさ」


 ああ、そういえば朧家も皆嫌な予感を外さないけど、あれってそういう感知技術なんだ・・・・・・。

 索敵とは凄く相性が良さそう。


 となると康造さんの先行距離がこのくらいだから・・・・・・。


「もう少し進んでから待ち構えようか。ここだと早すぎる」

「だな」

「異論無いわ」


 即座に同意してくれた。まあ、それ以外の選択肢はちょっと時間が無い。

 陸リザードマンというのはネルソーに居る河リザードマンとは全く違う生き物だが、あいにく大陸中央の本の情報だけで詳細は知らない。


「簡単にで良いから陸リザードマンについて教えてくれるかな?」

「殆ど人間種の野盗と変わらねえよ。人間種よりか大分頑丈だけどな」


 サムは酷くつまらなさそうに言う。

 なんていうか、ちょっと妙な反応だ。


「不満そうだね」

「そうだな。ネルソーの河リザードマンと比べると、マジでタダの野盗だからな。亜龍種のプライドってもんはねえのかと」

「人間種だって魔族だってそうでしょ?」

「まあ、そうだが・・・・・・仮にも龍種だろうに」


 やけに龍種に対して期待が高い。

 何かこだわりがあるのかね?


 まあ、そんなことより今は迎撃だ。身を潜めようにも馬車なのでちょっと無理だし、どうやら見つかってるみたいだから小細工は無意味。ならば準備万端で待ち構えるのがセオリーだろう。

 馬車を道の端に寄せて止める。あまり意味は無いがまっすぐ突っ込んでこられるよりは良い。

 馬車を降りようとして、横からサムに止められた。


「ちょ、準備しないと?」

「いいや、ここは任せてもらう。楽が出来るのは良いが無駄飯喰らいと言われるのは我慢がならねえ」

「言ってないよ!?」

「いいから。俺とペイマでやる」


 いや、別にそんなムキにならんでも。まだ給料も払ってないわけだし。

 まあでも、そんな真剣な目で見られると僕も弱い。


「わかったよ。でも御者台からはおろしてくれ。じゃないと的になっちゃう」




 

 陸リザードマンとはそのまま陸棲のリザードマンの事だ。亜龍種に分類され、直立二足歩行のトカゲの頭部と鱗に覆われた人間種の様な身体をもつ。簡単な人語を理解し、他種族との交流を持つ・・・・・・のはリザードマンの共通項だが、水棲リザードマンと違って陸棲リザードマンは他種族に対して敵対的だ。

 原因は不明。様々な憶測が飛んでいるが、どれも憶測の域を出ない。

 なんにせよ、サムの言うとおり野盗と何ら変わりなく、何なら亜龍種の耐久性も手伝ってかなり手強く、南マディシリアの過酷さに貢献している。


 その陸リザードマン達は街道を進む馬車の存在を設置型の魔道具で察知。獲物と定めて移動を開始していた。ここのところやたらと充実した護衛付きの商隊ばかりで襲うチャンスが無く、今回が久方ぶりの獲物である。

 人数が少ないので稼ぎは期待出来ないが、日干しになるよりは良い。リザードマンのミイラは高値で売れるが、自分たちが売られる側になっては元も子もない。


 先んじて出した斥候によると、獲物は現在休憩中らしい。ならば回り込んでの奇襲だろう。偵察隊と合流後早速、街道を挟んで南北に5頭づつに別れ、横から挟み込むように位置取った。

 北側にまわったリザードマン達は低い姿勢で馬車を確認。人間種の雄が2匹程うろついているのが見えた。。

 直前の偵察では人間種2匹と魔族が1匹という報告だったが、魔族の姿が見えない。


 馬車の中にでも入ったか。魔法使いがいないのならチャンスだ、今のうちに仕掛けて・・・・・・。


「『破爆陣ブラストゲイザー』!」


 突然、リザードマン達の目の前で地面が爆発した。





 南側部隊の方で、つんざく爆音と閃光が巻き起こり、突然の事に北側にいたリザードマン達は一瞬固まってしまっていた。

 そのため黒い颶風と共に突然閃いた銀弧の輝きに反応出来るはずもなく・・・・・・。

 気付いたときには2匹が同時に首から血を吹き出して倒れ伏した。


「笹目流剣術抜刀『荘厳しょうごん』」


 瞬く間に2匹のリザードマンを仕留めた張本人は、ぴっ、とカタナを真横に振り血を払うと、そのまま両手で握り正眼の構えをとる。

 サムの大柄な体躯も相まって、隙が無く、鋭い威圧感を放っていた。


 笹目流剣術抜刀「荘厳」は抜刀からの2段切りだ。

 文字だけだと簡単だが、抜き付けからの返しで2匹同時に仕留めるにはカタナの切れ味、速度、空間把握能力が高いレベルで要求される。奇襲だったとはいえ達人並みの技量が無ければ成立しない。


 残った3匹は金髪のサムライと向き合うが、どう見ても浮き足立っている。

 

 まあ間違い無く別部隊を全滅させたであろう爆発と、一瞬にして目の前で2匹を切り捨てられてしまったのを見てしまっては無理もないのかも知れないが・・・・・・。


「・・・・・・戦意喪失した相手を斬るのは気が引けるが、お前らに情けを掛ける理由も意味もないからな」


 言うと同時、滑るように一匹に近づきその勢いのまま袈裟斬り。狙われたリザードマンはろくに防御も出来ずに胸から血をまき散らして倒れ伏す。

 サムは素早く体重移動、手首を返して隣に居たリザードマンに向けて下段から斬り上げる! しかしその斬撃は受け流されてしまった。

 幅広剣ブロードソードの刃を立てて防いだのだ。すぐさま反撃、威力の充分に乗った斬撃が繰り出されるが、それをサムは受け止める様なことはせず、体捌きで躱してゆく。

 リザードマンと比べても大分大柄なサムであるが、それに見合わぬ身軽さでひらりひらりと攻撃を回避。相手が焦れて大ぶりを振ったのを見計らい、鋭い突きをねじ込んで仕留めた。


 もんどりうって倒れたリザードマン、もう一匹は一目散に逃げていく。そいつは一生懸命走って・・・・・・。


 九江卿人ぼくの方に向かってきた。

 

 えー?

 

 なんかこういう時いつも狙われてるような・・・・・・。

 できれば横を素通りとかしてくれるとありがたいんだけど、爬虫類の瞳は殺るき満々っぽいんだよなあ。


 僕はガントレットシールドを目の前にかざす。実戦投入は初めてだけど、ガンガ師匠のお墨付きをもらった物だ。大丈夫。

 考えているウチにリザードマンは目の前まで接近。ブロードソード思い切り振り上げて斬りかかってくる。

 

 距離を合わせてガントレットを掲げ・・・・・・。


「ギャッ!?」


 僕は何もしていないのに突然、目を押さえてのけぞるリザードマン。

 何だと思うまもなく次いで口の中に何かが打ち込まれ、今度は喉を押さえてうずくまる。

 同時、上から黒い影が振ってきて・・・・・・。鈍色に光る短刀が、リザードマンの首を背中側から貫いた。


「うおお・・・・・・」


 思わずそんな声が漏れてしまった。黒ずくめの影がゆっくりと身を起こした。


「卿人、大事ないか」

「あ、康造さんか! 有り難う」

「む」


 短くそう答えた。

 すげえ、忍者ってホント突然飛んでくるんだなあ。結構先行してたと思ったけど、ほぼタイムラグ無しでリザードマンに追いついているのは流石だ。


「てめえ康造!」

「止めろ。安全確認が先だ」


 獲物を獲られたサムは康造さんに食ってかかろうとするが、正論を言われて押し黙る。

 確かにヘイトが僕の方に来てしまったのだから逃がした責任はサムにある。実力は充分ながらどこか詰めが甘い。といった所だろう。

 まあでもあの状況でリザードマンを逃走させないで仕留めるのは難しかったはず。


 みんな残りの敵が居ないか探っているが、僕の索敵にも引っかからないので戦闘終了だろう。

 その空気を感じ取ったのか、馬車の近くで「透明インビジブル」により姿を消していたペイマが現れる。手は出さないと言ったけど、ペイマへの「透明インビジブル」だけは協力させてもらった。ほぼノーリスクで敵の数を減らせるならそれに超したことはないからね。って!?


「ペイマ!?」


 思わず叫んでしまった。だって御者台の上にぐったりした状態であらわれたんだから!

 駆け寄って抱え起こす。顔色が真っ青で、汗びっしょり、呼吸も浅い。

 この症状は・・・・・・精神力の使いすぎだ。

 高威力の凄い魔法だなと思ったけど、死力尽くしすぎじゃない?


 あわててマナポーションを取り出して飲ませる。なんとか自分で飲み込むことはできたようだ。魔法でも良いんだけど、余裕があるならこっちの方がいい。


「なんでこんな無茶したのさ?」

「あーうー・・・・・・」


 ああ、だめだ。こりゃしばらくグロッキーだな。

 クッションを枕にしてそのまま御者台に寝かせておく。あいにく毛布はないが、コートマント着てるし大丈夫だろう。


 そこで丁度、周辺警戒を終えてサムと康造さんが戻ってきた。


「ひとまず危険は無さそうだ。リザードマンの死体は放置でいいだろ、しばらくは誰も通らなそうだ」

「すぐに移動するぞ、死体に獣が寄ってくる」

「了解」


 とりあえずはここを離れよう。

 

  

陸リザードマンについては別途説明をもうけようかなとも思ってます

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