第76話 出発
馬車の説明なげえよ!
魔族のお姉ちゃん、ペイマに何故か凄い目で睨まれた九江卿人は、慌てて弁解する。
「いやいや、空間拡張の魔法式なんて宮廷魔法使いならみんな知ってるさ。腕の良い彫式師さえいればこのくらいの魔道具は作れるって、ホントに」
「つまりケイトは勤続10年以上、魔術的価値のある研究成果を出し続ける事が出来る宮廷魔法使い並の知識と、それをあんなサイズの魔鉱石に彫式できる程の腕、つまりベテラン一流彫式師並の腕があって、しかもソレを一晩で仕上げだけ残して完成させるだけの能力があると。さらに馬車の内装諸々までと整えてしまう大工のスキルまであるんだね?」
「・・・・・・そう聞くと凄いね」
「そーよ。とりあえずこの馬車の存在は公にしたらマズイわ」
「いちようスイッチ式にしてあって、内装はカモフラージュ出来るようにはしてあるけど・・・・・・うん、説明しようか」
カモフラージュっていう単語に反応して眉間に皺が寄るペイマ。
この顔がデフォルトになられてもイヤなのでちゃんと説明しよう。
この馬車でいじってあるのは主に内装。
足回りはサスペンションだけいじってある。時間があればクラフターズの魔改造馬車と同じように浮く機能を付けても良かったんだけど、流石に時間が無かった。アレ作ろうとすると車軸から車輪から全部作らないといけないからね。
で、肝心の中身。
馬車自体は注文通りの箱形ワゴンタイプ。本来2~3頭立てのサイズだが、曳くのがバリオスなので問題は無い。窓があったのだけどそれは塞いだ。
部屋の真ん中に仕切りを入れて前後に2分割、それぞれに明かりを兼ねた空間拡張の魔道具を天井からつるし、それぞれ30畳ほどの広さを確保。天井は3mほどの高さ。
進行方向後方部分はさっき皆に言った通り寝台車兼生活空間車だ。
ベッド4台、トイレに風呂と簡易だがクローゼット。あとは共有スペースに机と椅子を設置した。今は仕切りがないけれど、合間を見て部屋の様に壁を作る予定。手順がめちゃくちゃだと思うだろうが、皆が使うスペースを見て部屋のスペース取りを見たかったのだ。
現に康造さんはかなり広い範囲に風呂敷を広げて道具の整理をしているから・・・・・・後方出口側に大きくスペースを取った方が良いか。
そうして進行方向前方部分、こちらは倉庫兼食堂車だ。簡易と言うには凄く本格的なキッチンを備えてある。その気になれば10人分程度の調理は一遍に出来るだろう。クラフターズは既にブロック工法を編み出していて、キッチンにも応用出来るからこそ、ある程度資材を持ち込んで作業出来た。じゃなきゃ一晩でここまで出来ない。
前方、御者台に近い方がキッチンだ。後方が倉庫・・・・・・といってもパーティションもどきで区切ってあるだけ。保存の魔道具は大型のチェストのみ。部屋タイプにして入り込んで何かあったら怖いしね。
それと同時に僕の工房も。魔法式の炉と作業台さえあれば何でも出来るからそんなにスペースはとらない。といっても10畳くらいはあるかな。
全体としてはこのくらいか。
で。
肝心のセキュリティについて。
すげえやりづらい。
なんでって説明が進むほどペイマの顔がどんどん青くなっていく訳さ。
「大丈夫? 後にする?」
「いいえ、聞くわ。最後までちゃんと聞くわ」
「おっけい」
じゃあ説明しよう。
そもそも空間拡張は文字通り空間を拡張する・・・・・・のではなく、その場にこことは異なる空間をかぶせ、出入り口を介して接続するものだ。もともとの部屋の内装を反映するから、そのまま広げたように感じるだけ。
異空間と通常空間の出入り口を認識させて、ふたつの空間をくっつけている。
この時、通常空間は消滅するんじゃなくて、そのままその場に残っている。だから入り口をふたつ用意すれば、通常空間にも進入可能なのだ。
この馬車に施したセキュリティは、この異空間への入り口と通常空間への入り口、それぞれへ切り替える機構を用意した。つまりスイッチひとつで通常空間と異空間への入り口を切り替えられるようにしたのだ。スイッチは、僕が用意した魔道具を使う。コレを僕、ペイマ、康造さん、サムとそれぞれに持たせる。
コレを持たない物が馬車の出入り口、前方後方共に入ったとしても、通常空間にしか入ることが出来ないようにした。あとは通常空間の方に中身を入れて少しカモフラージュすれば・・・・・・。
「ちょっと積載量が多いかな? っていう普通の馬車のできあがり」
「あとは私たちの理性と正気次第って事ね」
「そんな大袈裟な・・・・・・」
「大袈裟じゃないわ! 国家機密モノよ!? コレ!? 仕事じゃなかったら売りつけてるわ!」
「売らないでいてくれるんだ?」
「当たり前でしょ!?」
どっちだよ?
とか口にはしない。
とにかく黙っててくれるっていうんだ。改めて釘なんか刺さないよ。
「ありがとう、貴女たちに声を掛けたのは間違いじゃなかった」
「依頼料さえきちんと払ってくれればその通りよ」
お、ちょっと照れてる?
「それで? 貴方は準備出来てるの? 慌てても良いこと無いけど、詰められるところは詰めましょ?」
「ごもっとも」
「話は終わったか? じゃあ打ち合わせといこう。この中で御者が出来るのは俺とお前だけだからな」
サムに言われて食堂車に移動、ペイマを待って作戦会議となる。
その前に、とサムが簡単にだがマディシリア領についてレクチャーしてくれるそうだ。 食堂車に面食らったみたいだが、お茶を出したら黙って飲み始めた。
「俺が住んだどの部屋より快適なんだが・・・・・・まあいいや。とりあえず確認だ卿人。お前さんここが何処かは分かってるな?」
「マディシリア南部、サウスエンドの街、だよね?」
「正解。じゃあもうひとつ。ここからマディシリア王都まではどのくらいだ?」
「早くて1年と半年」
「大正解。じゃあ最後だ。何でそんなに掛かると思う? 距離だけなら半年もかからないはずだ。だが俺もマディシリアからここに来るまでそのくらい掛かった。何故だ?」
「魔獣、魔物の出現率及び種類、あと単純に道が多い」
「半分正解。そこからさらに困難な道なりにしているのが、「生ける雲」と呼ばれる魔物のせいだ。魔物と言うより自然現象なんだが・・・・・・こいつが一定周期でマディシリアを巡っている」
その「生ける雲」と呼ばれる自然現象は竜巻の形を取り、マディシリア国土中央部を巡っている。明確な街道と呼ばれるモノが無いのはこの竜巻のせいだ。魔族はこの竜巻の通るルートを避けて生活しているが、町村を繋ぐ街道は竜巻が通るたびに使い物にならなくなるので明確な道がないのだ。
それでもこのマディシリアに魔族が住み続ける訳は・・・・・・。
「「生ける雲」が通ったあとは、信じられないくらい土壌が良くなるらしい」
ナイル川が氾濫したあとみたいな感じだろうか。
とにかく栄養をたっぷり含んだ土地に変貌するらしい、だから次に「生ける雲」が来るまでに農作物を生産するのだとか。
それだけ聞けば農業大国として大発展してそうなものだが、同じく竜巻の影響で道も作れない状況ではスムーズな運送も難しい。
さらに問題なのは魔獣や魔物の存在だ。「生ける雲」は土壌だけでなく、台風後に現れる小動物を狙って動物から魔物、魔獣までやってくる。
マディシリアの冒険者達の仕事はおもにこの魔物、魔獣達の相手だ。じゃあ領主達貴族は何をやるのかという話だ領主の仕事はその後。農地の保全に全力をそそぐ。次の「生ける雲」が来る前に収穫を終わらせなければ干上がるのが自分だと分かっているから。貴族は貴族で大変なのである。
と、ここまでは昨日のうちに話したことでもあるし、師匠達からも聞いた話だ。
じゃあ最終的にマディリシアを北上、縦断するにはどうしたらいいのか。最低で冒険者ランクC以上の充分な戦力と、それ以上に土地に詳しい案内人が必要になる。ランクC以上の冒険者達は条件を満たしている。
残りのその案内人というのが。
「お待たせ、確認は出来たかしら?」
そう、魔族のペイマである。一緒に入って来た康造さんにもお茶を出して、ここからが本格的なブリーフィングだ。
「ケイトはドワーフ王国から来たのよね?」
「うん。道中は見せてもらえなかったからルートはわからないけどね」
もちろん嘘だ。
道中は転移魔法で一瞬だったのだけど。
空間拡張や通信魔法のような、公然の秘密というなんちゃって禁呪とは違って、アレは冗談無しに国家機密レベルの禁呪だからね。こういう嘘をつく羽目になる。あんまり気分の良い物じゃないけど、一国家の存亡が掛かっている・・・・・・かもしれない。わかってても転移魔法は使えるシロモノじゃないのだけど。
幸い、この場に雪華並みの嘘発見能力者はいなかったみたいだし、ペイマもクラフターズに理解があるようだから納得してくれたみたいで、特に突っ込まれることもなく話は進む。
「マディシリアに住む魔族達は、あの「生ける雲」に対抗するための魔法をたくさん生み出したわ。「生ける雲」の現在地、規模、速度、進行予測等の魔法ね。それから各町村の目印を探知する魔法。この魔法が無ければ確実に迷うわ」
「へえ、そんな便利な魔法があるんだ?」
「そうよ。まぁ、コレがないと生きていけないのだけど。無系統だからケイトにも教えるわ」
「有り難う」
魔法式を羊皮紙に転写してくれたので確認。
へえ、本来は身体強化系の魔法かな。巧く改変して無系統にしてある。
凄いな、かなり高度な魔法式だ。よく練られていて、一朝一夕じゃこんな丁寧な魔法式は出来上がらない。災害に対する情熱が感じられる、とても貴重な魔法式。効果じゃなくて、この地域の住民の命を守ろうとするその気概がだ。魔族の魔法式に対する姿勢を垣間見たような気がする。僕もこんな魔法作りてえなあ。
・・・・・・ん?
「この魔法って、もともと1個の魔法だったんじゃいの?」
「よくわかったわね。そうよ、「怪雲探知」っていう魔法だったらしいわ。魔力消費と情報量が多すぎて細分化したって話だけど・・・・・・」
僕の質問にびっくりした様子を見せつつも答えてくれるペイマ。
「丁寧につくってあるけど、なんかしつこく出てくる単語があるから・・・・・・あんまり効果に寄与してなさそうだし。ここだけ不自然だからもしかしたらと思って」
後で繋げて使ってみよう。ココノエ式・・・・・・自分で言うと恥ずかしいね。それなら随分汎用性が高くなりそうだけど、でも凄い時間掛かるだろうな。ひとつひとつが酷く丁寧に作ってあるから、バラすのにも時間が掛かる。
「今朝、この魔法使って調べたけど、次の大きな街まではまず影響範囲内には入らないわ。まず最初に目指すのはここからほぼ真東にあるリマイの街ね」
「東? 北東じゃなくて?」
地図上ならば北東にあるリウイの街を目指した方が良いように見えるけど・・・・・・。
「ここから最短ルートは自殺行為よ。途中で確実にはぐれ龍種に遭遇するわ」
「ええ・・・・・・」
「だからその区域はここ3年通れなくなってるわ。幸い龍種が動く気配がないからいいけれど、気まぐれに動き出したときの被害は考えたくもないわ」
はぐれ龍種の討伐とかランクA++の任務だ。ランクA以上の冒険者のみで構成され、かつランクSがいるのが望ましい。だったはず。あまりお目に掛からないランクの任務だけに、情報も少ないんだよね。
何にせよ、正気なら普通は受けないし、はぐれとは言えドラゴンに喧嘩を売る方が間違っているのだ。
そんな危険と隣り合わせな所にあるが、危険区域に入らず、豊饒な土地をしっかりと利用すればとても住みやすい。ただし移動にはとても苦労するという不思議なところ。それがマディシリアという土地だ。交易のために必死に魔法とか街道を整備している。魔族という種の魔法適性と強靱さがうかがえる。
「わかった。じゃあ最初の目的地はリマイの街だね?」
忍者とサムライの同意もとって出発となった。
・・・・・・なんだかやたらと時間が掛かった気がする。喋りすぎたかな。
出入り口に向けて馬車を回転させる。馬車とバリオスをハーネスで繋いで・・・・・・。うん、どっからどう見ても開閉窓(開かない)のついたワゴン馬車だ。
御者台に座り、手綱を取る。
「じゃあ頼むよ、バリオス」
ぶるる。
葦毛の巨大馬は、軽快に補を進ませ始めた。
やっと出発できた・・・・・・
次回!
戦闘回!
いやった!




