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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第三章 雪華編
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第68話 王都へ

推敲がおくれて・・・・・・

投稿までおくれてしまって申し訳ない!

 晴天の空と、冬の風にさらされた常緑樹がさらさらと音を立てて揺れる。

 ネルソー西の森を抜けた先の街フォレスタは、魔物が異常発生している影響を受けて朧雪華わたしが知っているより殺伐とした印象を受ける。


 単純に武装した冒険者が多いからなんだけどね?


 わたし達が悪魔種の信奉者を倒してギルドに報告してから3日。洞窟へ調査に赴いていたギルドマスターのヴィンさんが帰ってきて、調査結果を教えてくれた。


 あの獣面の女性は指名手配されてたんだって。

 長いことムルディオ公国で活動してたらしくて、近年のムルディオでの悪魔種騒動の殆どに関わってたんだとか。

 ずうっと捕まらなくて、なんとか潜伏場所を突き止め、摘発したけど彼女だけ取り逃がしちゃって・・・・・・紆余曲折あってユニリアのこんな奥地まで入り込んでいた、と。


 実はすごい大物だった!?


 殆どミイラ化していたのに何で特定出来たんだろうと思って聞いてみたら、それこそミイラ化するほど悪魔種の魔道具を使うには相当な年月が掛かるんだって。

 何十年と使い続けてないとああは成らないらしい。

 

 それを聞いて納得した。つまりは、はじめから死んでたみたいなものだったんだ。どんなに朧流の回生気功が優秀でも、死んでしまった人の復活は出来ない。

 わたしが回生気功をかけたときの感覚は間違ってなかったんだ。

 直前まで生きてた人間種に回生気功を掛けて助けられなかったのって初めてだったから凄くショックだったんだよね・・・・・・。

 よし、次は上手くやれる。


 壊れた祭壇と、デスペラードが死亡時に遺す体液があった事から、ラベイラの見立て通りワービーストが召喚される直前だったらしい。

 正式に悪魔種案件として認められて、この事件は解決済として処理されるんだって。

 魔獣大量発生の方はまだ経過を見ないといけないらしいけど、おそらく止まるだろうというのがヴィンさんの見立て。そうであってほしい。


 この3日間はヒマリとラベイラが精神的に消耗してたからゆっくり過ごした。

 といってもわたしとヒマリは基礎訓練をしてたんだ。ヴィンさんがギルド職員用の訓練施設を使わせてくれたから、気兼ねなくヒマリに稽古が付けられた。

 なんだか調査から帰ってきた時より疲れてる様に見えたけど、きっと気のせい。


 そして次の日。

 ヴィンさんが作成した書類が出来上がったということで、それを受け取りに3人で冒険者ギルドに行く事に。

 ギルド長の執務室に通されると、テーブルの上には出来上がった書類が2セット置かれていた。

 ヴィンさんと一緒に確認、違いが無いことを確認して金属製の筒に入れて封をする。

 ただの運び役が一緒に内容を確認するのは、「これを届けることであなたにも届け先にも不利益なことは書いてありませんよ」って示すためなんだって。

 変なことする人がいたらしくてそれを回避する措置なんだとか。でもこれ届ける人がわかんないとおんなじだよね・・・・・・大人の事情ってやつだ。


 でも筒は一度開けると分かっちゃう魔法道具だから、内容が変わったり書き換えられたりすることは無い。その辺は安心して良いかも。


 そんなことを説明されながら受け取り作業は完了した。

 出発の準備は整ってるから早速出発しようとしたらヴィンさんに変な事を言われた。


「ミニオーガ、お前次は無いからな?」

「何が?」


 わたしが首をかしげると、ヴィンさんは困り顔で。


「お前強すぎるんだよ。今回だって本来ランクB以上の仕事だ。いい加減ランクDのままだとネルソーギルドとフォレスタギルドの評価に関わる。次なんかやらかしたら無理矢理Cに上げるからな」

「えー」

「そんな嫌そうな顔してもダメだ。どんなにとぼけてもお前は有名人なんだぞ? ギルドがお前のランクを不正に評価してるなんて噂まで出てきてるんだ。本当は今ここでランクCに昇級させたいくらいなんだからな!?」


 思ったよりも切羽詰まってる様子。

 いやまあ、確かにわたしも我が儘を言ってるって自覚はあるし、いつまでもヴィンさんやネルソーのギルドに甘えるわけにもいかないしね・・・・・・。

 じゃあ冒険者辞めますって言っても良いんだけど、それは卑怯だし、今辞めたらヴィンさんにも迷惑が掛かる。止めるなら状況を整えてから、ね。


 まぁ、いいか。

 わたしはふうと息を吐いて、サイドテールをくるくると指でもてあそぶ。


「わかった。ランクC昇級の申請をしたいんだけど、テストはどうしたらいいかな?」

「いいのか!? あ、いや、なんで急に?」

「考えてみたらこんなちんちくりんを指名してくるのは物好きか変態くらいだなと思って。変態ならぶっ飛ばせば済むし」

「・・・・・・意外と物騒なんだな、お前」

「ひとにミニオーガなんてあだ名付けといてよく言うよ」


 実際わたしはこの見た目で依頼をキャンセルされた事がある。だからって怒ったりしないけど、やっぱり少し傷つくよね。ランクDの冒険者って言ったら実力的にはわるくないんだけどなぁ・・・・・・。

 まあでも、これから王都までいくわけで。有名って言ってもネルソーとフォレスタ限定の話だから指名も入らないだろうっていう計算もあるんだ。


「なんでもいいか、お前の気が変わらねえウチにやっちまおう。テストなんかいらねえよ。今までの実績だけで充分だ。カードよこせ!」


 わたしが差し出したランクカードをひったくるように受け取ると、喜々として部屋を出て行くヴィンさん。書き換えに受付まで行ったんだろう。

 ホントならヴィンさんがやる必要はなくて、わたしが行けば良いんだけど・・・・・・よっぽど嬉しいらしい。


「ギルドの方から昇級しろって脅すのか」

「まあ、雪華さんですし。本来なら「活殺自在」の時点でランクA以上確定なわけですから」

「・・・・・・そうだな」

「なんかごめん」


 そんなじゃれあいをしながらしばらく待つと、ヴィンさんが新しいランクカードを手に戻ってきた。

 やたらと嬉しそうなヴィンさんにランクCの心得、というか説明を聞く。

 べつにDとそんなに変わらないから省略。ちょっと待遇が良くなって、指名されやすくなるくらい。

 わたしが嫌がってたのはずるずると引き上げられるのがいやだったから。ここまで引っ張れば安易にBになれ何て言われないはず。


 ・・・・・・言われないよね?


 これでようやく王都へ向けて出発が出来る。

 時間に余裕を持っておいて良かったよ。


 買い出しをして出発。フォレスタから先は深い森も無くて、街道もきちんと整備されてるから魔物も殆ど襲ってくることは無い。

 すこしはのんびり旅ができそうかな?


 なんて暢気に考えてたんだけど・・・・・・。


 それはフォレスタを出発して2日ほどたった昼間。辺りにはまばらに樹木の生えている平原で、見通しも良い。前にも後ろにも人の気配はしない。

 余所からしてみればまだ、フォレスタ周辺の治安状況がよくわかっていないし、冒険者達は増えた分の魔獣を倒すので忙しいだろうからそれは不思議じゃ無い。

 そんな道を馬車で進んでいたときに「ちりりん」という鈴の音が聞こえてきた。

 わたしは馬車の屋根で御者台のラベイラとお話してたんだけど、その音はくぐもった感じで、ラベイラの服の中から聞こえてきたみたいだ。ラベイラは隣で船をこいでいたヒマリに声を掛けて御者を代わってもらって、懐から通信の魔道具を取り出した。


「それ、見せて良い物なの?」

「これの重要性を分かっていらっしゃる時点で問題ありませんわ」


 ラベイラは軽くそう言って、魔道具を起動させる。

 そうだけどさ。ちょっとわたしのこと信用しすぎじゃないかな。いや、騙そうとか掠おうとかそんなつもりはないけどさ。


 でもその通信相手って、あれだよね? ラベイラにそんなもの持たせて直接繋いで来るような人物って言ったら・・・・・・。


「ラベイラちゃん無茶したらダメじゃ無いか!?」

「お父様声が大きいですわ。周りに聞こえますわよ?」


 お父様って事は、やっぱりキルトハウゼン侯爵その人だね。

 にしても「ラベイラちゃん」って・・・・・・。


「今はそんなことはどうでも良い! 怪我は無いかい? まったく、ただの婿捜しと聞いていたから黙って行かせたが・・・・・・そっちは随分危ない状況らしいじゃないか!? おまけに悪魔種関連に首を突っ込むなど・・・・・・こんな事ならば一個師団を付けたというのに!」

「大げさですわ。報告を受けたから連絡していらしたのでしょう? 「活殺自在」の方に助けていただきましたから、大丈夫ですわ」

「それだ、そこに朧雪華はいるのか」


 親馬鹿まるだしの声色から一転、通信越しでもわかるような殺気をにじませる。

 さすがは英雄の末裔。声だけで思わず身構えてしまいそう。


 うーん、ばれてる。

 でも考えてみればそうか、あっちには佐々木のおじさんがいるんだから。報告を受けて「通りすがりの活殺自在」なんてふざけた者がでてきたら普通相談するよね。そうするとわたしか、朧暁華おとうさんか、朧秋華おばあちゃんに絞られるわけで・・・・・・。お父さんは果国、おばあちゃんはネルソーから動かない。となると必然的にわたししかいない、と。


 確か、キルトハウゼン侯爵も元ランクS冒険者だったんだっけ? 自分の強さじゃなくて、指揮能力がすごいとか。大人数でのぶつかり合いをさせたら最強だとか、なんとか聞いたことがある。

 

 そんな父親の殺意に押されて、ラベイラは口ごもってしまう。


「そっ、そうですわ! なにかいけませんの!?」

「朧雪華よ」


 ラベイラを無視して話しかけてくる侯爵様。

 正直国に関わるような貴族とお話したことなんてないから、何て答えたら良いか分からない。しかも怒ってるし。だから。


「はい」


 とだけ答える。

 変な事を言って機嫌を損なわれても困るし。商業ギルド統括の門倉さまとか、ユニリア騎士団長のエルリックさまみたいに気の良い人達ばかりじゃない。ううん、そっちの方が少数派。


「こちらとしては大変遺憾なのだが・・・・・・」


 侯爵の言葉にごくり、とヒマリとラベイラの喉が鳴る。

 そんな顔されたらすごい不安になるんだけど!?


「ラベイラちゃんを送り届けてくれないか!? ユニリアの王都までで良い! もちろん謝礼ははずもう!」


 馬車の屋根からずり落ちそうな勢いでずっこけた。


「いえあの、よろしいんですか? わたしラベイラ様と出会ってから日も短いですし、なによりヒマリさんのお仕事まで奪ってしまいます」

「良いのだ。貴様の事は佐々木殿から聞いている。人柄も実力も信用して良いとな。むしろ貴様を不当に扱うようなことがあれば敵に回ると脅されてしまったよ。はっはっは・・・・・・いや、本当に恐ろしかったぞ、佐々木殿に凄まれた時は心臓が止まるかと」


 軽いなぁ・・・・・・。


 ラベイラが頭を抱えて辛そうにしてるし、ヒマリは呆れたような、ほっとしたような複雑な表情だ。


「あの、お父様? 仮にも侯爵家当主がそのような事を言っては・・・・・・」

「頭を下げて娘の安全が買えるなら安い物だろう。おまけに情報まで付いてくる」


 ほえー。

 凄く実際的なひとなんだなぁ。貴族様はプライドの方をとる事が多いんだけど・・・・・・。

 わたしの周りの貴族様はいい人ばっかりだからとっても助かる。


「どうだ朧雪華。受けてくれるか?」

「もちろんお受けいたします。ラベイラ様はお友達ですから」

「おお、ではそのままラベイラの侍女にならないか!?」

「ヤです」


 いい人だと思った側から流れるように勧誘してくる。まったく油断も隙も無いなぁ!


「お父様! いい加減にしてくださいまし! 雪華さんは恩人ですのよ!?」

「おっと、流石に娘に嫌われてまでというのは本意ではない。今回の件と、道中の護衛を引き受けてくれる事、感謝する」

「はい、お任せください」


 顔は見えないけど、安堵した様な吐息が通信の魔道具から聞こえた。娘の心配をする親の顔に嘘はないみたい。

 ちょっと怖いけど。


「では宜しく頼む。本来ならばまだ色々と聞きたい所だが、私も忙しい。これで失礼する・・・・・・いやまて、ヒマリよ」

「はい、お館様」


 通信が始まってから初めて声を掛けられて、びっくりしながらも澄ました顔で返事をするヒマリ。


「お目付ご苦労。引き続き頼む」

「御意に」


 そんなやりとりがあって、今度こそ通信の魔道具が停止する。

 ラベイラは短くふぅ、と息をつくと、屋根の上のわたしを見上げた。瞳には申し訳なさと、興味の色。


「ご免なさい、まさか貴女の事が筒抜けだとは思いませんでした・・・・・・」

「ううん、ネルソーで会った時ずっと誰かに見られてたから。多分あれが監視役だったんじゃないかな? フォレスタまでは付いてこれなかったみたいだけど」

「まじか!? まぁ、お館様の事だからアタシだけじゃ無いとは思ってたけどさ」


 凹んだような事を言っていても少し誇らしげにヒマリ。尊敬してるのがうかがえる。

 ほんの少しだったけど、キルトハウゼンさまは裏が無い感じがしたかな。佐々木のおじさんが脅したっていうのもあるんだろうけど。


「ですがこれで、雪華さんとの旅はユニリア王都までというのが決まってしまいましたわ・・・・・・残念です」

「あれ? 最初からそのつもりじゃなかった?」

「あわよくばムルディオ城塞都市までご一緒出来ればと思っていましたわ」


 何故親子そろってわたしを引き込もうとするんだ。


「ええっと・・・・・・」

「わかってますわ。あくまであわよくば、でしたし。ユニリア王都に迎えがくるのは間違いありませんもの」

「そうだな、間違い無く騎士連中が来るはずだ。血の気が多いから国境で揉めなきゃ良いが・・・・・・」

「物騒だね!?」


 不穏な気持ちを抱えての出発になっちゃたよ!


   

雪華編はもう少し続きます。

お付き合いくださいませ

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