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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第三章 雪華編
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第58話 ヒマリとラベイラ

「卿人が格好いいのはもう話したと思うんだけど、ホント格好いいんだ! もう格好いいが服を着て歩いていると言っても過言じゃないね! どのくらい格好いいかっていうとわたしが大好きになっちゃうくらい格好いいの! もう格好良くて格好良くてどんなときでも格好いいからわたしはもう格好いい以外の言葉がいえなくなるんだ格好いい!」

「格好いい以外の情報が何一つ入って来ませんわ!」

「雪華、格好いい以外の情報をくれよ」

「格好いいんだよ!」

「だから具体的にどう格好いいか言えってんだよ!」

「格好いいがゲシュタルト崩壊しはじめましたわね」


 日が落ちた森というのは真っ暗でなにも見えなくなってしまう。

 月明も充分には届かない。


 朧雪華わたし達はぎりぎり暗くなる前に、野宿用の施設にたどり着いていた。

 

 施設と言っても木々がある程度の範囲で切り払われ、そこに大きめの東屋が建てられているだけ。

 ただこの東屋自体が魔除けの魔法道具だから大型魔獣クラスで無い限り襲われることはないんだ。

 中央には火をおこすために1段低くなっていて、土がむき出しになってる。

 木製の衝立もあって、野外にしては快適に過ごせるように配慮してあるんだ。

 これ自体がものすごくレアな建物で、なんでも大昔にドワーフ種が建てて以来、ネルソーが管理して綺麗にたもってるんだって。

 森を抜けるまでにいくつか点在していて、コレがなければネルソーは観光都市として機能していなかったかも知れないと言われる程。


 で。


 その東屋のたき火を中心に、少し早い夕食を摂りながら卿人の格好良さを熱く語っている最中だ。


 卿人は格好いいのです。

 格好いいのは卿人です。


 エキサイトしているわたしは言語中枢がおかしくなってるから何言ってるかわからないんだろうけど、卿人をわたしに語らせたらこうなるので理解して欲しい。


 ヒマリはそんなわたしの様子が気に入らないみたいで、ずっと渋い顔をしている。


「なぁ雪華。格好いいのはわかったから性別とか容姿とか性格とか何が得意とかそういうのを教えてくれよ・・・・・・まったくイメージが湧かない」

「格好いいよ?」

「だからそれはもうお腹いっぱいですわ!」

「えー」


 なんだよー。冒険者なら細かいこと気にするなよ-。

 なんて言ったらまた怒られるからちゃんと説明するしかないか・・・・・・。


「えっとね、あれ? 性別? わたし恋人って言ったよね?」

「お前が格好いいしか言わないから性別すら怪しいんだよ! 男なんだろうけどお前がレズビアンなら話は別だろうが」

「違うよ。わたしと同じ年の男の子で、誕生日も一緒。背の高さは・・・・・・3年前までは同じくらいだったけど今はわからないなぁ。もし高くなってたら・・・・・・うへへ」

「雪華さん!? あの、その卿人さんとはいつ出会いましたの?」


 またどこかに行きそうになったわたしを、ラベイラが引き戻してくれた。

 

「ごめんごめん・・・・・・卿人とは幼なじみで、お隣さんだったから生まれたときからずっと一緒だったんだ」

「そうそう、そういうのが聞きたかったんだよ! んでんで? いつから好きになったんだ? 恋人になった馴れ初めは? 卿人はお前の何が好きになったんだ?」

「ヒマリ、がっつきすぎですわ」


 ヒマリの矢継ぎ早の質問に、少したじろいでいたわたしを見てラベイラがたしなめてくれた。

 だけど前髪の間から覗く瞳からは、期待の色が隠せてない。

 んっふ。卿人の事いっぱい話せるのはわたしとしても嬉しいからね!


「好きになったのは、気がついたら好きだったよ? わたしからずっとアプローチしてて・・・・・・あれ? 卿人は嫌がりも否定もしなかったし、これはもしかして最初から恋人同士だったのでは!?」

「いや、しらないし!?」

「それは運命ですわね! それで、どんな方なんですの?」

「優しくて、臆病な人、かな?」

「臆病?」


 ヒマリが眉をひそめる。


「それってただ臆病な奴なんじゃないの?」

「格好いいとはほど遠い印象ですわ」


 まあ、あれだけ格好いいって言ってたのに臆病だ何て言ったらそうなるよね。

 でも話は最後まで聞くものだよ?


「うん、ちっちゃい頃はなにか色々悩んでた。ちょっと考えすぎかなって思ってたけど、それを少しずつでも乗り越える勇気を持ってる。そうやって進み続けて、わたしと一緒にランドドラゴンを倒せるまでになったんだよ? 超格好良いでしょ?」


 それを聞いてラベイラもヒマリも、なにやら考え込んでしまった。

 そして顔を見合わせて、わたしを見る。


「ぶるぶる震えながら戦うゴリラ?」

「なんで!? 今の話にゴリラ要素あった!?」

「ランドドラゴンを倒せる人間種とかゴリラみたいなムキムキマッチョマンしか思いつかないんだけど・・・・・・あ、魔法?」

「補助魔法とメイスだよ!」

「やっぱりゴリラですわ」

「むきー! じゃあわたしもゴリラか! 森の賢人か! ドラミングすればいいのか!?」

「落ち着けって、悪かったよ、貶めるつもりはなかったんだ」


 ぜーはーぜーはーと荒い息になるわたし。

 卿人はどちらかと言えばかわいい系の顔だから、ゴリラとか言われるのはしんどい。

 

 いや? ゴリマッチョの卿人?

 ・・・・・・超格好いいじゃん!

 突然ムキムキとか言われたからびっくりしたけど、全然格好いい。

 でも朧暁華(お父さん)の話だと卿人は骨格的にごつい筋肉は付かないらしいんだよね。

 残念。


「こっちこそごめん。想像したらゴリラの卿人も超格好良かった」

「卿人さんなら何でもいいんですの? でも・・・・・・それだけお慕いなさっているという事ですものね・・・・・・うらやましいですわ」

「んっふー! 世界一好きな自信があるよ!」

「見れば分かる。でもすごいな、アタシはいくら恋人でも、側にいない奴を3年間も思い続けられない」

「だって約束したもん。結婚するって」

「まぁ? 幼なじみで結婚まで・・・・・・ますますうらやましい」


 ラベイラの言葉には妙な実感がこもっている。

 いいとこのお嬢様っぽいし、もしかしたら許嫁がいるのかもしれない。


「そういえば、そんなに思い合っててなんで3年間も離ればなれなんだ? なんか修行に出てたりとか?」


 やっぱり聞くよねー。

 わたしもそれ言われたら気になる。


「うん、14歳の誕生日に(さら)われたんだ」

「掠われた!?」

「クラフターズにね。それでそのまま弟子になったんだ」

「待て待て待て! 情報の内容が濃すぎて意味がわからない!」


 両手を大きく振ってわたしを制止するヒマリ。


「クラフターズって、あのクラフターズか? 大陸中を旅して回って音楽と魔法道具をばらまくおっさん集団の?」

「たぶん、そのクラフターズだよ」

「マジか・・・・・・弟子とか取ってたんだ・・・・・・」

「あらヒマリ、ご存じなくて? クラフターズの元お弟子さんはそれなりの人数がいらっしゃいますのよ? 首都ムルディオ内にもおひとりいらっしゃったハズですわ。本家には及ばずとも、上質の魔法道具を提供してくださっています」

「マジかー」

「それでね、2年位前に連絡が来てさ、ユニリアの王都で落ち合おうって約束したんだ」

「その、そんなに前の約束、大丈夫ですの?」

「うん、こないだも連絡があって、クラフターズが冒険者ギルドづてに教えてくれたんだ。予定通り出発できるって」


 ホントはお義父さんの持ってる通信魔道具に連絡があったんだけどね。

 個人でそんな物持ってるなんて言ったら、またややこしくなるから言わないけど。


 その時も少しだけどお話出来たんだ! いっぱい好きって言ってやった。

 そしたらいっぱい好きって返してくれたんだけど、途中でクラフターズが介入してきて無理矢理通信切られたんだ。

 今度クラフターズにあったら絶対一発殴る。特にあのエルフ種。リーダーらしいし。

 

「そうですか・・・・・・無事に再会できるといいですわね」

「できるよ。再会が延びたとしても絶対会える」


 なんかまた延びそうな気もするけど。


「じゃあわたしも聞いていい? わたしあなたたちの旅の目的が未だに男あさり(ナンパ)(仮)だと思ってるんだけど? 違うんだよね?」

「あ、当たり前ですわ! ヒマリ! あなたのせいですわよ!?」

「ああ、うん、そうなんだけど・・・・・・・どう言おうか?」

「もうそのままお話してかまいませんわ。ほぼ初対面の(わたくし)達に良くしてくれた雪華さんがここまで話してくださったのに何をためらっているのです?」

「いや、うん。そうなんだけど・・・・・・あー」


 ヒマリの歯切れがものすごく悪い。

 立場上言うのが難しいのかな?


「いいよ、興味本位で聞いただけだから。お忍びか何かでしょ?」

「ああ、いや、まぁ、婿捜しだよ」

「わかった。それ以上聞かない」

「助かる・・・・・・」

わたくしはかまいませんのに」

「勘弁してくれ、最悪アタシの首が飛ぶ。物理的に」


 そこまで言っちゃったらわかっちゃうよ・・・・・・。


 間違い無く、ふたりとも貴族様だ。

 平民の富豪とか、商人の娘さんあたりなら、いくら不利益な事があったとしてもヒマリの首を物理的に飛ばすとかまず無い。

 処刑で責任を取るのは立場のある人間か、貴族様だけだから。

 平民なら奴隷として売られる。


 それから護衛がひとりだけって事はないだろうから、家から飛び出してきたのかな?

 それも家族は了解してるはず。

 

 だからラベイラは、貴族様の娘で次女か三女って感じだと思う。


 なあんて。卿人の真似をしてみたけど、どこまで合ってるかは怪しいところだね。

 

 わかりやすい人達でよかった。

 すくなくとも、悪い人達じゃない。


「じゃあわたし、先に寝ていいかな? 夜中から夜明けまではわたしが見張りやるから」


 いくら安全だと言っても、野営には見張りを立てたい。

 夜盗だっているかもしれないのだから。

 わたしが単独で旅をするのが嫌な最大の理由はこれ。

 危険を感じたら起きれるけど、気が休まらないから。

 卿人がいなくなってから気が休まった事なんて無いけどね!


「おうわかった、おやすみ」

「おやすみなさいまし」


 馬車に入ってマントにくるまる。

 いつもならすぐにでも寝られるのだけど、外にいるふたりの会話が耳に入ってきてしまった。


「ヒマリ、わたくしの言った通りだったでしょう?」

「ああ、ラベイラのカンは本当に良く当たる。雪華に声を掛けて正解だった」


 うわ、なんか凄い気になること言い始めた。

 というかそういうのはわたしが寝たの確認してからにしようよ・・・・・・。


「でもなんでランクD何だろうな? そこだけ引っかかるけど」

「隠し事があるのはわたくしたちもおあいこですわ。雪華さん、きっと気付いてましてよ?」

「それでも直接いうのとじゃ全然違う・・・・・・おい雪華! 寝てるか?」

「なーにー? 寝てるよー?」


 呼ばれたからには普通に答える。


「よし、そのまま寝ててくれ」


 ・・・・・・聞いてくれって事ね。

 直接聞かせるのは都合が悪いけど、耳に入ってしまったのならしょうがないってことか。


「貴女も面倒な事をしますのね」

「キルトハウゼンのご令嬢が気まま過ぎるのがいけないんだよ」


 キルトハウゼン!

 貴族に疎いわたしでも知ってる。ムルディオ公国の大貴族、キルトハウゼン侯爵家だ。


 ムルディオ大公爵の右腕と言われる人物だったはず。

 それは迂闊に言えないや・・・・・・。


「あら、サンズ家預かりの貴女だって相当なものですわ。こんな末娘の我が儘に付き合ってネルソーくんだりまで来てしまうのですから」


 サンズ家は知らないなぁ・・・・・・。

 話の流れからしてキルトハウゼン家の部下なんだろうけど。


「ハン。お嬢様のお父上に直接頼まれれば、お目付役のアタシが断るなんて出来ないよ」

「まぁ! お父様はご存じでしたのね?」

「ご存じもなにも。『娘が婿捜しに行くようだから付き合ってやれ、ついでにお前も探してこい。サンズには俺から言っておく。ああそれから、どこの馬の骨とも知れないような輩ならその場で斬り殺してかまわん』って言われたんだぜ?」

「あらあら。全てお見通しですのね・・・・・・自由にしてくださるのでしたら文句は言いませんが」

「しかもアタシもついでに探してこいとか、目付のアタシがお嬢より先に結婚できるかっての!」

「ふふっ。ヒマリには意中の方がいらっしゃいますものね?」

「いないぞそんな奴」

「ザイラ様は違いますの?」

「ああ!? 誰があんな軽薄な奴!」


 そこからはあんまり覚えてない。

 聞かせてる風でもなくて、むしろそれは忘れてしまったみたい。


 うん、変な人達じゃなくてよかった。

 わたしも機会があったら、朧暁華さいきょうの娘だって言っても良いかも。


 

ラベイラは本来政略結婚に使われる身なのですが、

父親のキルトハウゼン伯爵はラベイラにはそれが出来ないと判断、好きにさせています。


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