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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第二章 クラフターズ
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第53話 オリハルコン

ふろぅえ う゛ぁいなはてん!

くりすますですね。

さておき。推敲してて気付いたんですが、この話かなり駆け足で説明足らずです。

でも手を入れるとかなり長くなりそうなので、このまま載せます。

 ドワーフ王国は活火山の火口から離れた山中の、広く平坦な土地にある単一種族国家である。


 気温は常に高温で、あまり生物が暮らすのには向いていない。


 だがドワーフ種たちはここに住んでいる。それには理由があるのだが・・・・・・。

 

 ドワーフ種は炎の半精霊である。

 

 そのため火によって傷つくことは無い。

 だが炎の熱さは感じるし、気温が高ければ暑いし汗も出る。なんなら熱中症にだってかかるし、一酸化中毒になれば気を失う。なので暮らしぶりは他種族とほとんど変わらない。

 ドワーフ王国の建物は石造りが多く、日用品も鉄製や石製が基本だ。とはいえ熱に強い樹木も存在し、これを使ったものもある。食器などはその代表格だ。


 王国は結界に覆われ、年中通して快適な温度が保たれている。ドワーフ種の快適さなので人間種には少し暑いくらいではあるが、それこそ熱中症や脱水症状を起こすほどでは無い。これはドワーフ種が外敵から身を守るため、あえて過酷な環境に身を置くために開発した結界である。ドワーフ種は種の希少性と絶滅を免れるために、火山地帯にわざわざ結界を張って生活しているのだ。


 男は物作り、主に鍛冶やガラスの作成と農業。女は農業と酒造りが主な仕事。主食は火山地帯に住む大型のトカゲと火を吐く大きな鶏。あとはジャガイモに似た芋類だ。

 外の世界に出ることはまず無いので、完全自給自足。

 外貨を獲得する意味はほとんど無いので、外に出るドワーフ種は変わり者か、ドワーフ種の技術を外に広めたいという目的のためだ。

 ただ、酒好きな種族のため外に出たドワーフは例外なく酒を持って帰ってくるらしい。

 というか帰ってくるために酒を持ってくる必要があるとか無いとか。


 人口はネルソー程度・・・・・・まぁ人間種の大都市程だ。外に出ている者を除けば、大陸全てのドワーフ種がここに住んでいる。

 他種族は住んでいない。基本的に他種族の滞在を認めていないからだ。例外は外に出たドワーフ種が拾ってきた者だけ。


 九江卿人ぼくはそんな説明を、王城の応接室でお茶を持ってきてくれた給仕のお姉さんから聴いていた。

 ちなみにドワーフ種の女性はひげ面である。

 最初メイド服を着たおっさんが入って来たと思ってびっくりしたのだが、よくよく見れば女性だった。

 男女共にずんぐり体型なのでわかりずらい。お姉さんと判断したのも声質で若いと感じからで、正確にはわからない。ドワーフ種だから年上なのには違いないのだけど・・・・・・。

 ドワーフ種自体はどうやって見分けているのか気になる所だけど、流石にそれを聞くのはためらわれた。


 お茶は木の根を煮出して作ったものだそう。独特の香りがあっておいしい。


 ・・・・・・。


 さっきはさらりと流したけれど、ここはドワーフ王国の王城の応接室である。

 なぜこんな所に居るのかといえば、ガンガ師匠が現ドワーフ王の弟だから。


 正直飲み込めていない。


 だってドワーフ王国に入るなり、クラフターズは馬車ごと城下町にあるガンガ師匠の家、今思えば別宅なのだろう、そこにに案内され、僕だけガンガ師匠に王城に連れてこられた。

 城門の兵士とか城内の兵士とかはガンガ師匠を見ると「おかえりなさいませ」と頭を下げ、その歩みを止めさせることはなかったから、位の高い人だとは思ったけれど・・・・・・。

 

 応接室には給仕のお姉さんと僕しかいない。

 お姉さんがお待ちの間暇でしょうからと、ドワーフ王国とドワーフ種について解説してくれたいたのだ。


 けっこう重要な事まで話をしてくれたので、外部の者にそこまで言って良いのか不安になる。

 大丈夫なのかと聞いてみれば。


「王弟殿下のお知り合いなのでしょう? ならば、何の問題もありません」


 とのこと。


 えぇ・・・・・・。


 つまりガンガ師匠が連れてくる程の人物なのだから問題無いと?

 なんかクラフターズの皆さんは僕に甘すぎじゃないですかねえ?

 

「何か気がかりなことでも?」

「いやあ、僕が信用されすぎていて、ちょっと怖くなってしまって」

「まぁ」


 僕の言葉に、お姉さんは自らの長い髭をなでつけて思案する。

 ・・・・・・絵面も文字面もなんか凄いな。


「王弟殿下はとても気難しいお方ですが、一度お認めになった方にはとても情の厚いお方です。あなた様は王弟殿下に認められたことを素直に喜ばれればよいかと」

「はぁ」


 すげえな。

 絶対王制らしいけれど、ここまで信頼の置かれる王家というのもなかなか無いだろう。

 単純に大陸のドワーフ種の絶対数が少ないと言うのもあるか。


 僕が間の抜けた返事をした丁度その時、がちゃりと応接室のドアが開けられて、ガンガ師匠が顔を覗かせた。

 正装なのか、襟の詰まった豪奢な礼服を着ている。髪も髭もぼさぼさのままなのでまるで似合っていないが。


「卿人、兄者が会うそうだ。来い」

「え? 兄? 王様ですよね? いきなり王様に謁見とか意味が・・・・・・」

「つべこべ言わずに来い。来ればわかる」

「はーい・・・・・・」


 半ば脅迫のような感じで連れて行かれたところは、やっぱり謁見の間。

 人間種の謁見の間だって見たことはないけれど、多分似たような造り。

 入り口から朱色の絨毯が伸び、数段高い所に豪奢な椅子。


 その椅子に鎮座しているのが、たぶんそのドワーフ王なのだろう。

 鋭い眼光で射貫かれ自然、背筋が伸びた。

 整えられた漆黒の髪と髭は艶やかで若々しく、王としての威厳を湛えている。

 

 意外だ。


 外界との繋がりを断っていると言ってもいい種族の王の割に、混沌渦巻く政争を勝ち抜いてきたような凄みがある。

 今はユニリア王都で商業ギルドのギルマスをやっている門倉さんと雰囲気が似ていた。


 ガンガ師匠の斜め後ろに付いて絨毯の中程まで進み、膝を折って頭を下げる。


「貴様が九江卿人か」


 ガンガ師匠そっくりの声質で訪ねられ、一瞬言葉を失う。


「はい。相違ございません」

「わかった。よい、面を上げよ」


 改めてドワーフ王を見ると、先ほどとは打って変わって柔らかな笑みを浮かべていた。


「うむ。ワシがドワーフ王。ギンガ・ゾルガ・ベルガだ。ガンガの弟子だそうだな。歓迎するぞ」


 そう言って、ドワーフ王はガンガ師匠の方を見る。表情は相変わらず柔らかな笑顔のままだ。


「ガンガよ、この者にオリハルコンの奥義を教えるそうだな?」

「はい。この者はそれだけの資質を備えております」

「そうか、ならばそうするといい。下がれ」

「はっ」


 ガンガ師匠はそう言うと一礼し、立ち上がる。

 俺もそれにならい、一緒に退出した。


 謁見の間を抜け、廊下をつかつかと進むガンガ師匠。

 辺りに(ドワーフ)の気配は無い。基本この城には、要所要所にしか(ドワーフ)がいない。


 ・・・・・・。


「なんだか、拍子抜けです。もっと何か起こると思ってたんですけど」


 僕がそう言うと、ガンガ師匠はぴたりと足を止めた。

 振り返ったガンガ師匠は、どこか諦めたような表情をしていた。


「卿人よ、この国をどう思う?」

「はい?」

「この城に入ったとき、お前を見ても兵士は皆無反応だっただろう? おかしいとは思わなかったか?」

「僕は人間種の城ですら入ったことが無いので解りませんけど・・・・・・確かにちょっとやる気が無いようにも見えました」

「おう、今のドワーフ種はな、やる気が無いんだ」


 んん?


「どういうことです?」

「人間種の真似をしてこんな大層な城を建て、飾りのように決まった場所にだけ兵士を置き、決まりだからと殆ど意味の無い手続きをとらせる」

「はぁ」

「ワシは300年程生きておるが、生まれてからずっとそうだ。今のドワーフ種には情熱というものが欠けておる。ワシのような一部のドワーフ種のみが外界に出て、外の世界で何が起きているかを知る。我らドワーフ種の技術を求めている者が居ると」


 再び廊下を歩き出す。

 背中越しに聞こえてくる声は、どこか疲れているようだった。


「だが兄者はあの様子だ。外の世界に興味が無い。形だけは立派だが、中身はただの無気力な男だ。ドワーフ種がこのまま変化しないと諦めている。炎の半精霊などと聞こえは良いが、他の種族よりは長生きで鍛冶が少し上手いというだけだ」


 そうか、あっさり許可されたのは、ガンガ師匠の信用じゃ無くて、興味が無いのか。

 となるとあれこれ話してくれた給仕のお姉さんも、もしかしたらどうでも良いと思っていたのかもしれない。


 行きとは違う道筋。どこか違う場所に向かっている。

 階段を降り、地下に入って薄暗い廊下を進む。


「太古のドワーフ種は、他種族と手を取り合い、共に悪魔種と戦ったという。だが悪魔種の発見報告が減り、目立った天敵もない我らは、いつしか無気力になってしまった。こんな山奥に引きこもり、外に出ようともせず、ただドワーフ種という種を残すだけの存在に成り下がった」


 やがて大きな扉の前で立ち止まる。

 どう見ても個人の部屋では無い。


「だがワシらドワーフ種は万年を掛けて培ってきた鍛冶の技術がある。そしてその技術が様々な種族の生活を向上させてきたという自負がある。その誇りと、鍛冶に対する情熱は確実にドワーフ種(ワシら)の中に残っておる」


 ガンガ師匠が大扉を開ける。

 完全防音扉なのだろう、開けた瞬間、ぶわりと熱風が頬を叩き、鉄を打つ鎚の奏でる鍛冶音楽が耳朶を打つ。


 そこは広大な工房だった。


 ネルソーの工業区にもひけをとらない、いや、おそらくはこちらがオリジナルだろう、あらゆる設備の整った工房が、僕らを迎え入れた。


「ドワーフ王国を囲む結界の魔道具、あれは経年劣化で壊れかけていた以前の魔道具を兄者が作り直したものだ。今でこそあんなだがドワーフ種の誇りはしっかりと受け継いでいる。だからこそ、今の無気力な兄者が残念でな。ワシはここを飛び出し、ノートルと共にクラフターズを立ち上げた。ドワーフ種としての誇りを失わないためにだ」


 中ではたくさんのドワーフ種が、汗を垂らしながら鎚を振るっている。

 城内の兵士達と違い、ガンガ師匠を見かけると、いい笑顔で声を掛けてくる。

 ガンガ師匠はそのひとつひとつに、手を上げて答えていた。


「ここにいる皆はドワーフ種の鍛冶魂を持った生え抜きだ。全員がワシと、ワシの弟子と同じだけの技術を持っている」


 奥まで行くと、また扉。装飾は無く、機能性を重視しただけのシンプルな扉。

 その前でガンガ師匠はくるりと振り向き、難しい顔で僕に向かって頭を下げた。


「え!? なんですかガンガ師匠!?」

「すまん、卿人。ワシは正直、お前をクラフターズに引き込むつもりでいた。帰りたいとか抜かしても、はぐらかして連れ回すつもりだったんだ」

「それは・・・・・・」

「お前ほどの腕があれば、人間種だとしても多くの物を作り、多くの人を救う事が出来ると思った。だが・・・・・・お前は言ったな。女といちゃつきたいと」

「すげえ語弊がありますねぇ!」


 それじゃただの遊び人だよ・・・・・・。


「そうか? まぁいい。とにかくお前が自分の女房と幸せに暮らしたいと願うなら、それはクラフターズの理念に合致している。お前自身がドワーフ種とクラフターズのカタチのひとつとなる」

「・・・・・・よくわかりません」


 嘘だけどね。本当はわかってる。

 でも、そんな重たい物を背負わせて欲しくない。


 そんな考えはガンガ師匠にはとっくにお見通しだったのだろう。

 くくく、と愉快そうに笑う。


「そう構えるな、別にお前を旗印にしようとか、お前に押しつけようとか言ってるのではない。ただ、クラフターズとしての腕をふるうことをためらうなということだ」


 ああ、なるほど。


「自重するなと?」

「そうだ、やりたいようにやれ。面倒は呼び込むだろうが、なぁに、お前なら大丈夫だろう」

  

 無責任な発言だなぁ。

 でも、そうでなきゃ意味が無い。


「さて、ではこれからお前にオリハルコンの技術を教える。これをおぼえたら、お前は鍛冶師として1人前だ。いや、ドワーフ種の技術を扱う者として1人前だな」


 音も立てずに開いた扉の先にあった物は、大量の魔鉱石。

 一般人が見ても普通の魔鉱石にしか見えないだろうけど、見る者が見ればわかる。

 これは、超高純度の魔鉱石だ。まざりものがほとんど無い。


「この魔鉱石をワシらはピュアオールと呼んでいる」

「まんまですね」

「まんまじゃ。純魔鉱石だと据わりが悪くてな、そう名付けた。これ自体はこの辺にごろごろある」

「ごろごろ」

「そうだ、だが正しい手順を踏まねば、ピュアオールはただの石塊(いしくれ)となってしまう」


 髭に隠れてわかりづらいが、薄く笑って掌大のものを手に取る。


「いいか、これを加工するために必要なのはセンスと熟練だ。寝る間もないと思え」

「霊薬抜かなければよかったかもしれませんね」

「だめだ。人間種の成人にはただの毒にしかならん。アレは本来、ある程度成長した長命種が使うものでな、お前が急に成長したのはその分止まっていたからで、あと少し遅ければ死んでいた可能性がある」


 怖っ!?

 軽口のつもりで言ったのに恐ろしい事実を知ってしまった。


「さあ、早速始めるぞ」


 戦いている俺を余所に、やる気十分で準備を始める。

 ぐいんぐいんと腕を回すガンガ師匠を見て、最後まできちんとやりきろうと気合いを入れ直した。

次回から主人公が交代です。

もう一人の主人公、雪華ちゃん視点でのおはなしになります。

おいちゃん女の子の一人称とかモノローグ書くのとっても恥ずかしいのですが、

頑張って書いてますw

宜しくお願いします。

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