第52話 ドワーフ王国
武技言語使ってでも書かないと・・・・・・。
九江卿人がサバイバル訓練を始めて3ヶ月。
予定より少し遅れて、クラフターズと合流することが出来た。
ドワーフ王国のあるとされるガイン山脈は火山帯だ。現役の活火山もあって、ふもと周辺は火山灰でできた台地となっている。岩場も多く、おおよそ馬車で進むのには全く向いていない。
そのせいなのか、はたまた別の要因かは解らないが、ドワーフ王国を直接見た者はほとんどいない、らしい。ドワーフ種そのものがドワーフ王国があるという証左ではあるのだが、いかんせんドワーフ種が王国から出てくることもなく、希に出てくる者はガイン山脈にあるという事以外語らない。
その岩場が始まる寸前、岩に青々とした苔がむしているようなところ。
巨大な岩の前で、クラフターズは待っていた。
丁度馬車の外に出ていて、最初に僕に気付いたのはバンジョー爺さん、バラロック師匠だった。馬車の外に椅子を出して弾いている。
「おお卿人。お帰り。遅かったじゃないか・・・・・・でかくなったなぁ・・・・・・」
「お久しぶりです、僕もびっくりですよ。おかげで服がぴちぴちです」
そうなのだ。
成長痛が止まらなくておかしいなとは思っていたのだけど、なんか急に背が伸びた。
前世で死んだ時くらいの身長になっているが、筋肉はよくわからない。前世の基準だと細マッチョと呼ばれるくらいになっただろうか。目に見えては腹筋が割れていないのが残念。
身体に負荷が掛かったらしく、随分と睡眠時間が長くなってしまって、予定より少し到着が遅れてしまった。
おかげで時差ぼけは完全に治ったけど。
特に上着が寸足らずになって、お臍が出てしまっている。前世にこんなミュージシャンがいたなぁ。
「ちゃんとバンジョーの練習はしていたんだろうな?」
「もちろん。暇でしたからね、夜な夜な弾いてましたよ」
葦毛のバリオスから荷下ろしをしながら答える。
「有り難う、バリオス。助かったよ!」
リンゴをひとつやり、首筋を叩いてお礼を言うと、バリオスは気にするなとでも言うように尻尾を振って、リンゴをもしゃもしゃと咀嚼しながら先頭車両の方に居る2頭の仲間の方へ向かっていった。
「その体格ならサイズはノートルと殆ど一緒だろう。貸して貰え」
「はい、そうします」
バラロック師匠はもともと服飾関係のスペシャリストだ、その師匠が言うのだから間違いない。
第2車両で倉庫に荷物を放り込み、残りの師匠達に帰還の報告をして回る。
やれ俺より背が伸びただのかわいげが無くなっただの髭が似合ってないだのさんざん言われたが、みんな笑顔でおかえりと言ってくれた。
濃い産毛みたいな髭を剃り、伸び放題の髪の毛もウルフカットにセットして身だしなみを整え、昼食を取ろうと食堂車に向かったら、何故か魔族の師匠レイさんに泣きつかれた。
「げいどぐぅぅぅん! みんなが俺の料理を酷評するんだよおおおおお!」
「えええ? ちゃんと作れますよね!?」
高身長で褐色肌の禍々しい入れ墨が彫られた筋骨隆々の強面あんちゃんに抱きつかれるのは正直嫌なのだが、その言葉は聞き捨てならなかった。
料理下手の揃うクラフターズの中でレイさんだけは、教えたらきちんとした料理を作ってくれた。
だから俺が居ない間の料理担当はレイさんに任せていたのだけど・・・・・・。
僕にすがりついてわんわん泣いている大男を侮蔑のこもった表情で見つめるのは、純龍種たる純白のドラゴン。今は少女のなりをしているルーニィ師匠だ。
「たわけが、たわけが! あんなもので我が満足すると思ったか!? おい卿人食い物を今作れすぐ作れ、でないと暴れるぞ! 暴れるぞ! 馬車の中で龍に戻るぞ!」
「子供ですか!? わかりましたよ! ちょっと待っててください!」
すぐにでも出発するのかと思ったらクラフターズが勢揃いして食堂のテーブルについている。ルーニィ師匠だけでなく、他の皆も同じ意見のようだ。
僕はレイさんを厨房に引きずっていき、普段何を作っていたかを聞き出す。
「その・・・・・・皆が食べたいって言ったからカレーを・・・・・・」
「ああ・・・・・・あれは駄目ですよ・・・・・・」
カレーのレシピは自分用に作っていたけど、分量まで細かく書いたわけじゃ無い。多分香辛料を入れすぎたか、少なすぎたかしたんだろう。
とりあえず、何をどのくらい入れたか聞いてみる。
「このくらい・・・・・・」
「その分量だと粉っぽいし火を噴きますね」
辛すぎる。余程の味覚音痴で無い限りまともに食べるのは不可能だ。
今度はちゃんと分量を提示して作ろう。
「ええと、スパイスは8種類で行きましょう。レッドとブラックペッパー。クミン、コリアンダー、シナモン、カルダモン、ターメリック、クローブで。分量は・・・・・・」
あとは塩、タマネギ、にんにく、しょうが、トマト、バター・・・・・・肉は鶏肉にしよう。
背が伸びたので、相対的に低くなった調理台に違和感を覚えながらもさくっと作り、ご飯を炊いていないことに気付く。
作り置きのパンでいいや、とろみも付けてないし。
大量消費が約束されているので、寸胴ごとテーブルに持っていき、皆によそう。
皆待ちきれないのか食器で演奏していた。
すげえ上手いし。
あんまり行儀が悪い人には食べさせませんよ!
「さあ! ぼなぺてぃ!」
言うより速く、皆既にがっついている。
ただひとり、スプーンを握ったまま動かないのが居た。
ルーニィ師匠である。
「早くしないと無くなりますよ?」
「そうは言うがな・・・・・・」
どうやらルーニィ師匠は見た目と、前回のレイさんが作った失敗作とがトラウマで一歩が踏み出せないらしい。
パンに浸したまではいいが、そこから食べられないようだ。
そんなやりとりをしていると、ドワーフの鍛冶師、ガンガ師匠が真っ先に食べ終わる。
「卿人! お代わりだ!」
「ご自分で。ビュッフェスタイルと同じようなものでしょう?」
「ワシは師匠だぞ! 注がんかい!」
「食堂は僕のテリトリーです。師匠も弟子もありません!」
「ぐぬぬ・・・・・・!」
ガンガ師匠はわなわなと震えていたが、渋々立ち上がるとお皿になみなみとカレーを注ぎ、席に戻るとまたすさまじい速度で食べ始めた。
「ガンガが折れただと・・・・・・?」
ルーニィ師匠が固まっている。頑固で我が儘なガンガ師匠が俺に言い負かされて自ら行動したのが信じられないのだろう。
それはつまり、このカレーがそれだけの説得力を持っているということだ。
「カタスマサスク師匠! パンを寸胴に直接突っ込まない! 怒りますよ!」
「もう怒ってるじゃねえか!」
「ほう、反抗的な態度をとるなら今度師匠のお皿に嫌いなものだけ大盛りにしときますね?」
「止めろ!」
「卿人君レモン!」
「僕はレモンじゃありませんよ?」
「ご免なさいレモン果汁ください」
「よろしい」
みるみるうちに減っていく寸胴のカレー。
ルーニィ師匠はまだためらっているようだったけど、ついに意を決してパクリとかぶりつく。
目をつむったままゆっくりと咀嚼し、舌の上でしっかりと味わい、ごくりと嚥下する。
寸秒、固まっていたが・・・・・・。
くわっと目を見開くと、寸胴に取り憑いた。
「この鍋は今から我のものだ!」
「横暴だ!」
「早い者勝ちだぞ! のろまはすっこんでろ!」
「うるさいうるさい! 貴様らはしこたま喰ったであろうが!」
純龍種など何のその、その場で寸胴争奪戦が始まった。
10分後。
皆腹を抱えて満足そうに椅子に寄りかかっていた。
「ああ・・・・・・やはり卿人の飯はいい・・・・・・」
食堂はめちゃくちゃになったが、そう言われて悪い気はしない。
・・・・・・普通に作っただけなんだけどなぁ?
もともとこの世界の素材が良いというのもある。鶏は前世と比べても遜色ないし、スパイス関連も妙にモノが良い。不純物やゴミがほとんど無い。野菜も綺麗さは劣るが、食用としては何の問題も無いくらい品種改良がなされている。
文明レベルが異様に高い割に中世に近い様式なのはおそらく、魔物と悪魔種の存在故だろう。
まぁ、食材についてはクラフターズの保存庫があればこそなんだけどね。
そんなことを考えていたら、マッカス師匠がけだるげに、だが本気の声色で。
「なぁ卿人、やっぱり帰らないでクラフターズで料理番やったらどうだ?」
「お断りします。僕の手料理を恒常的に食えるのは雪華だけです」
僕の言葉にすかさず小太りエルフのピエール師匠が過敏に反応した。
「ケーッ惚気ちゃって! 別れてしまえ!」
「いくら師匠でも次その台詞言ったら許しませんよ? いやわりとマジで」
「ごごごご、ごめんて」
不用意な事をいうので脅しておく。
まったく、縁起でも無い。
「それよりも、いつ出発するんですか? それとも今日はここで野営?」
「何を言ってる。ここがドワーフ王国の入り口だぞ?」
「へ?」
食堂を片付けて、皆揃って馬車の外に出る。
馬車の前にあった巨岩の前だ。でかいだけで、ただの岩にしか見えないけど・・・・・・。
「そりゃそうだ、そういうふうに作ってある」
ガンガ師匠が巨岩の前で魔法式を展開する。そんなに長い魔法式でじゃない。だから圧縮する前に全文を見ることが出来た。
式にガンガ・オルガ・ベルガとの署名がある。認証式の魔法だ。
つまり。
「この入り口はドワーフ種にしか開くことはできん」
ゴゴゴ・・・・・・。
巨岩に魔法式が浮かび上がり、大きな穴が開く。
もちろん物理的な穴では無い、円上に描かれた魔法式の内側にこことはまるで違う景色が見て取れた。
まばらに低木の生えた岩場だ。空間的につながっているからか、硫黄の匂いが漂ってくる。
そして、城壁に囲まれた立派な城。ユニリアのものと比べても遜色ない。どころか、窓には鮮やかなステンドグラスが嵌まっていたり、繊細な装飾が施されたりしていて、より洗練された雰囲気を纏っていた。
「転移魔法・・・・・・」
思わずつぶやく。
失われた魔法のひとつ。
転移魔法。
「ゲート」と呼ばれる魔法式を用意し、対になるようにもうひとつおなじ魔法式を用意する。どちらかが起動すればもう一方も反応し、時間距離関係なく「ゲート」同士を繋げる魔法。巧妙に偽装してあるが、この巨岩は、巨大な魔鉱石だったのだ。
過去に大陸であったとされる大戦の折、多数の犠牲を出したため使用が禁じられ、そのまま失われたと聞いたけど、ドワーフ種がこの魔法を継承していたのか・・・・・・。
そりゃあドワーフ王国がどこにあるかなんて解らないはずだ。王国に至る道は存在しないのだから。
「そうだ。ドワーフ王国はガイン山脈の中心にある。只人では足を踏み入れることなど出来んよ。もっとも、ドワーフ種ですら徒歩での出入りは困難だがな」
そう含み笑いをするガンガ師匠は、こちらに器用なウィンクをしてみせた。
「ドワーフ王国へようこそ、九江卿人。君を歓迎しよう」
いえ、ちゃんと書いてます。遅いですが。
僕の中でドワーフって強くてお茶目で頑固で酒飲みってイメージなんですが、
ちょっと評価が高すぎるきもします。




