第43話 能力
引き続きドラゴン戦のBGMでお願いします。
九江卿人達とは馬車までの道中でいろいろと話をした。
どうやらルーニィというこの純龍種は、ここノースルルニの冒険者として住人に混ざって生活しているらしい。
住居もノースルルニの中に構えているらしく、冒険者をやっているのは生活費を稼ぐためなんだとか。冒険者のランクはC。
純龍種がそのくらいの稼ぎと生活で満足するのだろうかと思ったけれど、住人に混ざって生活すること自体が目的なのだそう。
「人間種は愚かだ、他種族に比べて欲が深すぎる。だがそれ故、面白い。巣にこもって宝石を眺めているよりよっぽど」
そんな褒めてるんだかけなされてるんだか解らない事を言われた。
本来、純龍種とはその地域を守護するという役割があるらしい。ルーニィ・ジルヴァドラッヘの守護範囲はルルニティリ一帯。もちろん1体で全てを見回ることは出来ないので配下のドラゴンたちに見張らせているのだとか。
彼女自身がノースルルニに住む理由は、先ほどの理由の通り面白いからというものと、単純に街で出される「料理」が好きなんだそう。
「アレを食べたら生肉など2度と食えない」
なんとまあ随分と野生を失った発言をなさる。
ドラゴンの生態なんて知らないけれども。
とにかく人に混ざって生活するのが好きで、正体がばれないよう注意を払って細々と生活しているのだとか。パーティーを組まず、難しい依頼を受けず、ランクCより上がらないように調整してやってきているらしい。
何故ランクCなのかと言えば、それ以上になるとギルドからの要請を断れなくなるかららしい。
冒険者ギルドの手伝いをしていても意外と知らない事って有るんだなあ。
などと話をしているウチに馬車まで帰り着く。
御者台で待機していたイケ(メン)オーク種のカタスマサスク師匠がぎょっとした顔で出迎えてくれた。
慌てて御者台を下りると大きな身体を縮こまらせて、その場に跪く。
「ルーニィ様! お久しぶりです!」
「おお、おお! カスサク! 久しぶりだな!」
笑顔を浮かべて鷹揚に頷く純龍種。名前の短縮の仕方が独特だ。
そうか、本来はこうゆう反応になるんだよな。なにせ全ての生物の頂点に立つような存在なのだから。
初対面時のアレとノートル師匠の軽いノリのせいでイマイチ実感がわかない。
荷物運びに連れてきていた葦毛の馬、バリオスから荷下ろしをしながらその様子を眺める。
「ルーニィ様、今度お手合わせを」
「いいぞいいぞ! あ・・・・・・太刀を見て貰ってからだな。調子が良くない」
「なんと! それはいけない、早速ガンガに見て貰いましょう!」
「ああ、そのために来たのだ」
純龍種と手合わせとか耳を疑う発言はともかく、やっぱり武器の修理はドワーフ種のガンガ師匠に頼むんだなあと。
そんなことを思う。
クラフターズは基本的に全員が鍛冶、彫金、彫式、鉄や革の加工技術を有していて、その技術にほとんど差が無い。だからガンガ師匠でなくても太刀の調子くらいなら見れそうなものなんだけど、こと金属製の武器となるとガンガ師匠に投げる傾向がある。
「その『僅かな差』っていうのが重要なんだ」
「ノートル師匠、心を読まないでください」
「ふふん」
大賢者たるエルフは何故か得意げな顔をして俺の抗議を黙殺する。
「確かに我々はほぼ同じ技能を有している。だけど得意分野というのはやはりあってね、ガンガの作った武器はぎりぎりのところで壊れない。使用者の腕が立つほどその差は如実に表れる。クラフターズでも分担があるのはそのためさ、彼の技術は真似できない」
「師匠。荷下ろしの手が止まってます」
「あ、ゴメン。だから卿人君も何かひとつそういったものを見つけるといい・・・・・・聞いてた?」
「聞いてましたよ? あ、それ潰れやすいんで気を付けてください」
「君は料理にそれを見いだしそうだね・・・・・・」
「怖いこと言わないでください」
本当にコックになってしまいそうだ。
もっとも、コックだってそんな簡単にはいかない。俺の料理は家庭料理に毛が生えた程度のもの。ノートル師匠が言ったように、技術というのは努力と研鑽の積み重ねだ。
・・・・・・俺みたいな人間には、極めるなんておこがましいのかもしれない。
「料理人だって!?」
「うわぁ!?」
急に純龍種が思考に割り込んできた。
びっくりしたー! 本当に心臓に悪いからやめて欲しい。
そんな俺にお構いなしに詰め寄ってくる。
「料理人か!? クラフターズに料理人が来たのか?」
「違います。弟子です」
「解ってる。だがクラフターズに料理番はいなかったはずだ。君がそうなのか?」
「ええ、まぁ・・・・・・料理番です」
「だろう? であろう? クラフターズが未熟なものを役に就けるとは思えない」
「あの」
「そうと決まれば早速太刀を見て貰わなければ!」
「何が決まったんですか!?」
「君が料理をするのだろ? うまいもの期待してるぞ。カスサク! ガンガに会わせてくれ!」
「御意に」
カタスマサスク師匠は胸に手を当てて恭しく頭を垂れて、純龍種を馬車内に誘った。
俺はその背中を呆然と見送るしかない。
「ハードル高すぎる・・・・・・」
「諦めて作ろう、ちなみに彼女めっちゃ喰うし呑むから。頑張って」
「そんなヒトゴトみたいに!」
「そのかわり私らはめっちゃ呑まされる」
「迷惑な客だなあ!」
「そう言わないで、彼女のおかげでルルニティリの上質な宝石が手に入るんだから」
「・・・・・・がんばってつくります」
「頼むよ」
ぽん、と俺の肩を叩いて、ノートル師匠も馬車内に入っていく。
ぶるる。
バリオスが俺を励ますように、小さくい鳴いた。
◇
そして現在、ひたすら料理を続け、ようやっと催促が止まったので自分の分のご飯を作っている。
アルマジロの肉に塩こしょうで下味を付けたものを、パン粉、にんにく、パセリ、タイムなど各種香草を混ぜた粉にまぶしてフライパンに投入。両面に焼き色を付けたら蒸し焼きにするだけ。
ご飯は炊いて無いのでパンで。
立ち食いとか行儀が悪いけど仕方が無い。
「いただきます」
早速肉にかぶりつく。さくっとした食感と共にじゅわっと肉汁が口内を満たす。香草類の香りが鼻を抜けて良いアクセントだ。
うん、おいしく出来た。
もそもそと食べていると、厨房の入り口辺りに人の気配がした。
誰かが水でも飲みにやってきたのかなと思ってそちらを見ると、そこにはヒトの形をとった白く美しい存在がいた。ジョッキを手にして、入り口付近に寄りかかっている様子はどう見てもただの人間種なのだけど。
中身は純龍種、ルーニィ・ジルバドラッヘである。
「ご苦労ご苦労、大変旨かったぞ! 果国風の味付けというのもなかなか乙だな」
「お褒めにあずかり光栄です」
褒められたのは素直に嬉しいけれど、自然と口調が硬いものになる。俺はまだこの純龍種を信用していない。
なぜならこの龍。しこたま呑んだというのに全く酔っていないし、しこたま食べたというのに既に消化してしまったかのよう。
そして直接ここに来たということは、他の皆はもう酔いつぶれるかダウンしてしまったのだろう。
おあつらえ向きだ。
俺は生き残る術を考える。
本当ならなりふり構わず逃げ出すべきだったのかもしれないけど、俺はそれを選択しなかった。
ここで逃げ出すのは駄目だ。
それは俺自身が許さないし、逃がしてくれるとも思えない。
ならば口八丁で切り抜けるしかないのだけど、さて、どうなることやら。
腹の探り合いは苦手だ。
「何かご用でしょうか? お代わりですか?」
「そうつんけんするな。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」
そう言ってそばに寄ってくると、ジョッキを近くのテーブルに置く。
「聞きたいこと」
「ああ、昼間も言ったが、君はとても面白いな。いったいどんな育ちをしたらそんな風になるんだ?」
気楽に聞いてくるが、目には力がこもっている。
逃がさないよ、と。
汗ばんできた掌を、意味も無くぐっぱとさせる。
「皆に聞いたぞ? 君はたいそう規格外だそうじゃないか。僅か半年でクラフターズの技術のほぼ全てを習得して、あとはじっくり磨いていくだけ。1年もあれば立派なクラフターズのできあがりだ。おかしいなぁ・・・・・・。その成長スピードは人間種どころか生物としてあり得ない。いや、ひとつならまだわかるんだが、他もとなるとあり得ないんだよ。我々純龍種を除いて」
昼間の圧力と同質のものを感じる。今は誰も助けてくれる者はいないのだ。どうにかしなければならないと思っても、やはり圧力からは逃れられず、必死に口を開く。
「僕は・・・・・・」
「いや、いい。君の意思で話す必要は無い」
気圧されているのを見て取ったのか、それとも面倒になったのかは解らないけれど、俺の言葉を遮るように圧力を強くしてきた。
純龍種の瞳が怪しく光る。
その赤い眼を見たとたん、後頭部に軽い痛み。
多分、何らかの精神干渉をしてきたんだろう。だけどあいにく、その手の魔法や薬には耐性がある。
・・・・・・あ、マズいかな?
「魅了をレジストした? お前やはり・・・・・・」
案の定、思い切り警戒させてしまう結果となった。多分噂に聞く龍魔法っていうものなんだろう、世界を改変してしまうような魔法を普通の人間種が抵抗なんか出来るはずもなく・・・・・・つまり俺は世界に害をなす化け物という判定をされてしまったようだ。
ぞわっと、純白の髪が風もないのに翻る。
同時に少女の身体からほとばしるマナの奔流!
純龍種は魔法式無しにマナを自在に操ると言うが、本当だった。
叩き付けられる殺気。
うん、だめだ。これは死ぬ。
いままでに向けられてきたものは一体何だったのかという程の、ただ向けられただけで絶命しかねないほど強烈な殺気。
圧倒的な力を見せられて生じる、圧倒的な恐怖。
がくがくと膝が震えだし、脂汗が額から吹き出す。
ランドドラゴンを倒せるようになったからって少し調子に乗っていた自分が恥ずかしい。
コレに比べたらランドドラゴンなんてヤモリもいいとこだ。
これが、純龍種!
だけど幸いにも、俺の口は動くようだ。怖すぎて逆に開き直ってしまったらしい。
「ちょちょちょ! ちょっと待ってください! ちゃんと話します! 話しますから!」
「信用できない。興味はあるが純龍種の役目としてお前を放置することはあり得ない」
「拘束してもらってもかまいません。とにかく興味があるなら話だけでも聞いて貰えませんか!?」
とにかくもう全部話すしかない。誤魔化せば死ぬ。
純龍種は一瞬考えて、マナの塊で俺を押しつぶすように拘束する。
俺はたまらずべちゃりと尻餅をついてしまい、動けなくなる。これもレジスト出来るけど・・・・・・おとなしく押さえつけられよう。
動けるようになったところで出来ることはないし、余計に警戒させてしまう。
「ならば答えろ。お前は何者だ! 何故肉体に比べて魂の年輪が多く刻まれている!?」
すげえ、見ただけでそんなことまで解るのか。
そして俺の無駄に賢しい脳は、ここまで来ても逃げ出す方法を考えてしまう。
まずは時間稼ぎだ。
「ええと、どう話したものか・・・・・・」
「結論から言え、殺すぞ」
「別の世界から転生してきました!」
無理でした!
純龍種は狐につままれたような顔になった。
あ、ちょっとかわいい。
・・・・・・余裕があるんじゃないよ。そうでもしないと精神が潰れそうなんだよ!
「転生? 別の世界から? そんな都合の良い・・・・・・いや、魂の年輪がその証拠か。となると・・・・・・」
目を細め、眉根を寄せて、なにやらぶつぶつと口の中で独り言を言っている。
「次の質問、なぜお前には我の魔法が効かない?」
「転生するときに得た体質、というか特性ですね。僕には精神に干渉する魔法や催眠術の類いは効きません。ついでに肉体的拘束も抜けられます」
そう、あの不思議空間で出会った光る人型、意思と相談して決めた能力のひとつだ。
俺が前世で死んだとき、自分の意思とは全く関係の無い行動を取って死んだ。もうあんな目に遭うのはゴメンだと、一番最初に思いついた能力。
精神に関する外部からの干渉を無効化及び肉体に関する拘束を無効化するのだ。
今はかえって危ない目に遭ってしまっているけど・・・・・・。
純龍種は疑わしそうなまなざしを俺に向ける。
「何故今の拘束を抜け出さない?」
「信用して貰うためですよ、当たり前じゃないですか」
「生意気な。さっきまであんなに警戒していただろう?」
「この状況でどうしろと? 確かに無効化は出来ますけど、僕には純龍種に対抗する手段はないんです」
「我の魔法が効かないのにか」
「殴られれば死にます。魔法でも攻撃魔法で死にます。それ以外はほとんど普通の人間種と変わりませんから」
態度が悪いとか言って怒らせるかもと思ったけど、そうゆう感性はもっていないらしい。
なにせ俺にもぜんぜん余裕がない。命の危機だってのに喧嘩口調とか正気を疑う。自分なのに。
それから少しだけ、自分の前世とあの空間であった話をした。
・・・・・・。
仕方ない、か。
得た能力はもうひとつあるという話。
むしろこっちがメインだ。
様々な技術、技能を習得する場合において、コツさえ掴めば後はめきめき成長していくという能力。あらゆる分野に対する「才能」だ。きちんと自分で学ばなければならないところが気に入った。技術、技能って言うのは自分で理解し、習得して初めてものになる。というのが俺の持論だから。
これなら自分で習得するから、訳のわからない能力に振り回されないし、暴走もしない。
ド安定の素敵能力なうえに成長を実感出来るからモチベーションアップにもなると良いことずくめ! 結局努力しないとものにならないのは普通と一緒。
いいね! 普通!
その分技術が伸び悩んだときにやる気が持つかどうか不安なんだけどね。
でもなにより・・・・・・前世で努力が足りてれば、すくなくともあんな死に方はしなかったと思うから。とにかく自分でどうにかしたかったんだ。
もちろん、この能力は自分が興味を持てない事にはいっさい適用されない。
あと何故か料理は巧くならない。
「不便だな」
「えー」
能力を自分で選んだと言ったらばっさりと両断された。
少し蔑むような視線を向けてくる。
「なぜその最強・・・・・・チート? 能力に手を出さなかった? そうすれば我など一捻りだっただろうに」
「扱いきれずに破滅する未来しか見えないんです」
「そうかそうか、君は人間種だったな。欲望に引きずられやすいのはいつまでたってもかわらない。ま、賢明ではある」
「褒められてもそう言われると凹みますね」
「最初は悪魔種かと思ったんだぞ。あいつら人間に擬態して里をぼろぼろにするからな。クラフターズの弟子とはいえ油断はできなかったんだ」
「確かに外見と中身が違いすぎたらこわいですよね」
純龍種の大きな役割はこの大陸のバランスを保つことらしい。
無闇に破壊や滅びをまき散らす悪魔種の殲滅は重要事項なんだとか。
ルルニティリは国土が広い割に街や村が少ないため、悪魔種の被害が出ると簡単に潰れてしまうのだとか。
だからこの純龍種は、里に紛れ込んで迅速な対応を心がけているのだそう。
そして俺はまた余計なことを言ってしまう。
「ただの物好き食いしん坊じゃなかったんですね」
「・・・・・・まぁ、そう見せている部分もある」
ふいっと目をそらして気恥ずかしそうに答える。
あ、そこは本当なのね。
「とにかく、とにかく! 君は悪魔種ではない。疑って済まなかった」
「良いんですか? 僕の話を信じて。嘘かもしれませんよ?」
「舐めるな、伊達に永く人と交わっていない。嘘を吐けば解る。それに君のような転生者や、転移者とか言う者達がいたという前例はあるにはある。随分昔の話だが」
ずっと俺を拘束していたマナの塊を解いてくれる。
立ち上がって、肩をぐるりと回し、関節をほぐしていく。上から圧迫され続けていたので固まってしまった。肩の辺りからぐきりと変な音がする。いてててて。
そっか、問答無用だったのはそれだけ悪魔種が厄介だって事で、ちゃんと話をすれば見分けはつくのか。極々薄い可能性、つまりは転生者であるという考えにはならないのね。
「それで、君の目的は何だ? 転生してきたということは何か目的があるのだろう? クラフターズに弟子入りまでしている。ここは人型生物の終着点のような連中が集まったような場所だ。そんなところにわざわざ居るのだから何かあるだろう? ああ、ああ。これは純粋な興味だ。尋問ではない」
「僕は・・・・・・」
少し考える。色々あるけど、最終的には。
「僕はちゃんと生きたいだけです」
「ちゃんと、生きたい?」
「はい。さっきも話しましたけど、僕は生まれてから18年で死んでいます。僕の前世の国は平和で、成人も20歳からです。成人するまでは不自由なく、こちらの世界にしてみれば異常なくらい過保護に育てられます。だから、あまり自分で何かを選択するっていう経験が無かったんです」
もちろん、そうでない人間も居る。でも俺は、本当にただ自由で平凡ないち少年でしかなかったのだ。夢がなかったとは言わないけれど、それでも明確な目標はなかった。
「それに望んで転生したんじゃなくて、たまたま。本当にたまたま転生する機会を得ただけです。だから僕は、この世界で力を付けようとしています。自分の選択に自分で責任を持てるように。この幸運をなかったことにしないために。だからこんなところで修行しています。結果、今死にそうになりましたけど」
冗談のつもりで恨みがましい目を向けると、純龍種は冷たい目でこちらを見返してきた。
「中途半端に横着するからだ。そんな努力が出来るなら最初から最強になって後から自分の能力について研鑽を重ねれば良かったであろう。そっちの努力の方が何倍も楽で、同様に有意義だったと思うが?」
「ぐうの音も出ない!」
この純龍種人間に詳しすぎるだろう! あと能力について理解がありすぎる!
「我は生まれた時から純龍種としての力と知恵と義務があったからな。ある意味そのチートといかいう能力と一緒だ。君は自己満足のために無闇に努力する時間を延ばしている。その様子だと生まれ変わってからも、ろくでもない目にあったのだろう? 我には後悔や苦労を自ら生み出しているようにしか見えない」
ぼっこぼこに言われる。こういうことを思いつかないから俺は凡人なのか・・・・・・。
純龍種はふっと優しげな笑みを浮かべる。
「と、効率だけを考えるならそう言う所だが、人間種がそうやって努力する姿勢は嫌いではない。むしろ気に入った! 我も稽古を付けてやろう」
「へ?」
「なんだなんだ、その気の抜けたような顔は。嫌なのか?」
「い、いえ、とても嬉しいんですけど。僕、死んだりしません?」
もちろんこの機会を逃す手はない。純龍種の戦闘技術が学べるなら願ってもないことだ。
だけどその教育方針が気になるところで・・・・・・。
純龍種はなんとも底意地の悪そうな笑みを浮かべ、綺麗な声色で。
「それは君次第だな」
死刑宣告に等しい言葉をいただいた。
「出来れば五体満足で帰りたいのですけど!」
「はははっ! 冗談だ! 聞いたぞ! 故郷に残してきた番が居るんだって?」
「!」
「番」という言葉を聞いたとたん。栗色の髪と、琥珀色の瞳をもった少女の面影が網膜に現れた。そしてありもしない彼女の香りが、鼻腔を刺激する。
感情があふれ出して、目の前の景色がぐにゃりと曲がる。
息が詰まる。
ぎゅっと目をつぶり、胸に手を当ててひたすら耐え、停止しそうになる思考をつなぎ止める。
だめだ! 今ソレを意識してはいけない!
ぐらりと倒れそうになるのをキッチンに手をついて支える。
ぜいぜいと荒い息を吐く。
なんとか、保った。
気がつけば、気遣うような目でこちらをのぞき込む純龍種が居た。
「・・・・・・なるほど、君の意思の強さはそれか。同時にそれは深く打ち込まれた楔。安易に抜けば君は瓦解してしまう」
「・・・・・・すみません」
「いやいや、君の覚悟の程が伝わった。些か不器用に過ぎるとは思うが」
自分でもそう思う。想い人の事をなるべく思い出さない様にして、精神の安定を図るなんて我ながら意味がわからない。
でもそうでもしなければ、俺は半年間でこんなに成長できなかったろう。
もちろん思い出さない訳がない。だって、この九江卿人の記憶は常に彼女と共にあったのだから。
いきなり引き離されたから、こうでもしないとやってられないというのが実際だ。単に未熟だと言って良い。だから、想いだけはそのままに、なるべく思い出さないようにしている。
もっとも、最近はそれも難しくなっているけど。
純龍種はぽんぽんと俺の肩を叩き、その手を乗せたまま。
「よしわかった。君への稽古はいちばんきついものにしよう。そうすれば余計なことなど考えずに済むぞ!」
「もう既にこの短時間で2回くらい死にそうになってるんで勘弁してください!」
「死ぬ気でやれば出来る! そうだな、ドラゴンと戦えるほどにしてやろう。そうすれば君の番も、その周りのものも守れるぞ。すくなくとも、戦闘においてはな」
守れる。
その言葉が決め手になった。
まさに、俺が求めるのはそれだった。
勢いよく握手を求め手を差し出す。
「宜しくお願いします、ルーニィ師匠」
純龍種、ルーニィ師匠はにかっと笑って、俺の手を取った。
「ようやく名前で呼んだな! こちらこそ宜しくだ!」
俺は新たな師匠を迎え、これから折り返しに入る旅を思い気合いを入れる。
だが、不運というのは思いも掛けないときにやってくるものだ。
いつだって。
ハードラック卿人。




