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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第二章 クラフターズ
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第38話 料理人卿人

卿人君の修行スケジュールです

 クラフターズの本格的な修行が始まってから、九江卿人おれはほとんど寝ることが出来なくなった。


 別にナーバスな理由じゃない。

 とにかく1日1日がめまぐるしく、きつくて、動くのもおっくうになる。


 だけどそのたびにクラフターズのリーダーでエルフで大賢者のノートル師匠が調合した黄金色のあやしい液体を飲まされ、強制的に全回復するうえ、眠気も飛んでしまって寝るに寝れなくなってしまうのだ。


 だから夜中は魔法の研究をしたりとかバンジョーの練習をしたりする。

 夜中にバンジョーを弾いて怒られないのかと思うだろう。


 何と俺専用の工房があてがわれたのだ。

 工房と言っても何もないんだけど。

 防音効果のばっちり効いた部屋で、そこではどんなに大きな音を出そうと外には漏れないような魔法式が壁に彫式してあるらしい。


 だから俺が3両目の寝室を使うのは週に1回だけだ。

 

 何故週に1回か。


 6日間寝ずに活動した反動なのか、丸1日寝込んでしまうのだ。

 そしてきっかり次の日の朝食の準備に間に合う時間に目が覚めるのだからたちが悪い。

 ばっちり全快していて気持ち悪いくらいに絶好調。


 凄く身体に悪い生活をしてるんじゃないだろうかと不安になって、ノートル師匠に相談してみたら。


「気にしたらいけないよ?」


 だそうだ。


 だから気にしないようにした。


 まず最初したのは武器と防具の調達。

 殆ど裸一貫で連れてこられたので、装備品は自分で作る。


 ドワーフ種の鍛冶屋ガンガ師匠にぼっこぼっこ殴られながら覚える。

 殴られると言っても小突かれるくらいで痛くはない。

 小突くことに何の意味が? とも思ったけど、小突かれた瞬間が間違えた瞬間とか、とても大事なタイミングなのだと解ってからものすごく捗った。

 声に出してからじゃ遅いらしい。

 

 何とかようやくまともな剣を1本打った。

 

 ・・・・・・考えたら俺剣つかえないじゃん。


「ああ!? メイスだあ!? それを早く言え! オメーの頭はその耳飾りの土台じゃねえんだぞ!?」


 ガンガ師匠にそう怒鳴られた。

 ハラスメントとか思ったけど、納得してしまって反論出来なかった。


 そうしていろんな武器の作り方を教えてもらった。

 鍛冶は朝食後から行われる。

 剣、メイスはもちろん、槍、カタナ、斧にハンマー、果ては手裏剣まで。


 型に流し込む方法と、鋼と鉄を用いた折り返し鍛錬と。

 とにかくいろんな鍛冶方法を詰め込まれた。


 金属製防具はガンガ師匠の弟子3人が教えてくれた。

 ドワーフ種2人と魔族がひとり。

 弟子と言っても立派なクラフターズで、独り立ちできるくらいの腕は充分に持っているのだとか。


 ではとにかく盾の作り方を!

 盾よりも板金鎧?

 知らん! いいから盾だ!

 

 とか言ってたら怒られた。

 でも盾だぜ? ロマンだぜ? 個人的には最強防具だぜ?

 俺は盾を作るためにクラフターズに入ったと言っても過言では・・・・・・あるけど。いいのだ。

 盾が良いのだ。

 

 俺が盾に対する情熱をくどくどとまくし立てると、どうやら熱意が伝わったらしく盾の作り方を教えてくれた。

 呆れられたとも言うが気にしてはいけない。

 とにかく教えてくれるというのだから問題は無いのだ。


 愛用しているラウンドをはじめとしてカイト、タワー、スクトゥム、カエトラ、バックラー、ヒーターetc・・・・・・。

 幼少期に眺めていた盾達を片っ端から作っていく。素材も様々なので革製品、木材、鉄、銅、石材などの加工法なども合わせて習うことが出来た。


 やっべえ楽しい。


「俺にゃ出来ん」


 親父がそうぼやく幻聴が聞こえた。


 板金以外の鎧は人間種の老人、バラロック師匠にチェインメイルと革鎧の作り方を教えて貰った。

 バラロック師匠は丁寧に教えてくれる人だ。

 丁寧すぎてちょっとのほつれや歪みも許してくれないけど。

 目に見えないバリを指摘された時は泣きそうになった。


 他には革や布の加工法なんかを教わる。手袋とか長靴とか基本となる装備の作り方や、丈夫に編める裁縫技術とか習った。


 後バンジョーの作り方。

 

 弾き方じゃない。作り方だ。

 

 ええ、ええ。作りました。


 何本作ったか解らない。とにかく作りまくって、やっとこさまともな物が出来た時にはバラロック師匠泣いてた。


「やっと弟子とセッションできる・・・・・・!」


 泣いて感動してくれるのは嬉しいけどまだ本格的に弾き方教わってませんからね?


 戦闘訓練はオーク種のふたり。

 カタスマサクス師匠とマッカス師匠。

 俺には見分けがつかない。

 喋れば声色で解るんだけども・・・・・・。


 本人達曰く、さわやかなイケメンがカタスマサスク師匠で、濃い顔のイケメンがマッカス師匠らしい。


 わかんねえよ。


 他のクラフターズには見分けがついているようで、間違えたところは見たことがない。

 慣れだそうだ。


 カタスマサスク師匠はばりばりのアタッカー。武器は大斧。パワーで敵を粉砕していくタイプ・・・・・・かと思いきや精密なマナの操作で武器に2属性以上の多彩なエンチャントを賦与し、的確に弱点を突いて効率よく戦う技巧派の面も併せ持つ。魔法が使えるオーク種は大変珍しく、すくなくとも俺は他に会ったことがない。


 対してマッカス師匠はタンク。盾は持たず、鎧と自身の耐久力でで耐えるタイプ。武器は冗談みたいに大きなヘッドがついたスレッジハンマー。遠心力と自身の膂力で振り回し、群がる敵をぶっ飛ばしていく。ちなみに魔法は扱えず、気の運用を身体強化に回すタイプだ。


 有事の際は他のクラフターズも戦闘が可能らしいけど、だいたいこのふたりでカタがつくらしい。


 そのオーク種ふたりによる戦闘訓練は主に実践形式、というか自分で作った装備だけ持たされて、馬車の「クローク」の範囲外に放り出される。


 ルルニティリの森林や平原は夏期を除き雪で覆われるため、真っ白になっている。そのため保護色の魔物が多く、開発もされていないために整備された街道以外は魔物の宝庫。


 ぐおおおおおおおおっ!

 

 そして目の前に現れたのはランドドラゴン(寒冷地仕様)。


 死ぬかと思った。

 

 たまたま吹雪いていたのだけど、吹雪に紛れるように白い石つぶてのようなものを飛ばしてきた。

 「金剛」のおかげで刺さることはなかったけど、飛んできた物の正体は歯だった。

 鮫のように生え替わる歯を持っているらしく、それをブレス代わりに射出してきてかなり痛かった。

 とにかく倒すまでに時間が掛かり、歯射撃でたびたび攻撃を中断させられるわ視界が悪くてきちんと攻撃を受け流せずぶっ飛ばされるわでてんてこ舞い。

 しまいには作りが甘くてメイスが壊れた。

 最後は無理矢理盾に炎のエンチャントを掛けて殴りつけるという暴挙に出て、何とか討伐。

 ただし俺は全身打撲及び骨折、盾に炎を纏わせたことによる火傷、長時間吹雪の中にいたために凍傷。

 そんな状態でヨロヨロと待機していたカタスマサスク師匠の元に戻ると。ひとこと。


「全然駄目だな」


 ええ、ええ。気絶しました。

 もうね、心が折れました。


 そして目を覚ますと、反省会という名のしごき。

 これに不満はない。

 死なないためにしごかれるというのはとても理にかなっていると思うので。

 ランドドラゴンと戦うより死ぬような目に遭ったけど、死なないという1点においてこちらは安心感がある。

 

 まぁほぼ俺が死んだように気絶して終了なんですけどね。

 初回は寝かせてくれたけど2回目からは無理矢理気付けをされて起こされた。


 泣ける。


 ひたすらだめ出しをされながらひたすら鍛える。そしてほっぽり出される。

 満身創痍で帰ってくる。だめ出しをされる。戦闘訓練はこの繰り返しだ。


 そして多分親父が俺に1番覚えさせたいのであろう、彫式の修行。

 これは魔法の修行と一緒に夜に行われる。

 ノートル師匠の彫式師としての腕前は親父と変わらないみたいなことを言ったと思うが、前言撤回。全く別物だった。

 普通彫式する魔鉱石はだいたいこぶし大かそれより大きい。これを目的に合った形や構造、機構を持ったガワに取り付けたものが魔法道具だ。

 だがノートル師匠が用意した魔鉱石は小指の先ほどの物。

 

 どうしろと?


 アイルーペ・・・・・・あの目にはさんで使うやつだ。

 あれを使って彫るのだけど、針みたいな小刀、というかほぼ針を使って彫る作業は精神力ががりがりと削られていく。


 こんなもの何に使うんだと思ったけど、前世でも日本じゃ何でも小型化してたっけか。

 でも魔法道具でそんな小型化する物あったかな?


「小型の時計とか便利そうだと思わないかい?」


 成る程。

 革バンドを付けて腕に巻き付けられるようにすると尚良いかもしれませんね、と言うと感動していた。


 この授業は明け方近くまで行われ、終了と同時に例の液体を飲まされる。


 ここまでが1日のスケジュール。


 鍛冶、制作、戦闘。武器がなければ戦闘は出来ないので作り上げるまでは野外の戦闘訓練は中止となる。

 基本的に昼間は鍛冶の時間がほとんどを締め、武具が用意できていれば戦闘。他は夜から明け方までという感じ。

 あの謎の液体を飲んでなければ死ぬような内容だ。

 

 プライベート? 


 ・・・・・・料理してる時かな。


 そう、料理と言えばルルニティリ王都に近づいた辺りで事件が起きた。


「今日の飯はイマイチだな」


 ガンガ師匠がそう言って、おでんの大根をほおばる。

 もぐもぐと咀嚼してごくんと嚥下すると、やはり微妙な顔をする。


「出汁が薄いのか・・・・・・? お前らどう思う?」


 と、他のクラフターズに意見を求める。

 オーク種ふたりはがつがつと食べていて聞いていない。


 バラロック師匠はちくわぶをちまちま食べていたが、不意に手を止めると。


「粉の練りがあまいのかのう、少し粉っぽいかもしれん」

「そうだねえ、この煮卵もあまり染みてない気もする」


 バラロック師匠の苦言にノートル師匠がのっかる。

 でも俺の方を向くと、慌てて付け加えた。


「不味いわけじゃないよ! ただちょっといつもより味が落ちてる気がするだけさ!」


 俺がよっぽど酷い顔をしていたのか、フォローになっているのかよくわからない発言を俺に向ける。

 だが、ガンガ師匠は容赦がない。


「確かにちくわぶは少し粉っぽいな。魚のつみれも甘すぎる。どうした卿人?」


 この日は盾の作成に夢中になってしまい、料理に十分な時間がとれなかったので、あらかじめ作っておいたおでん(だね)を煮たのだけど・・・・・おでん種自体の作りかたが悪かったらしい。


 つうか俺が料理人やり始めてからというもの、急に師匠達の舌が肥え始めた。


「・・・・・・すみません」

「いやいや! 料理して貰ってるだけでもありがたいんだ!」

「いや、それじゃいけねえ。クラフターズの調理担当である以上、半端は許されねえ」

「そうじゃな、何か対外的に料理を提供することもあるやもしれん。そんなときにこのレベルの料理ではクラフターズとして恥ずかしいのう」


 老人ふたりがやかましい。

 

 おのれ・・・・・・。


 何も言わない俺を見て、さらに追撃を入れてくる。


「そもそも調理担当が調理に時間を割かないのが問題だな」

「そうじゃな、いくら修行中の身とはいえクラフターズの中で役職を貰っておるのじゃ、忙しいなどと言い訳にはならんな」

「やはりバラロックもそう思うか」

「うむ、毎度の飯以上に大事なものはないからな!」


 お前ら忙しいとか言って飯の時間に出てこない時とかあるじゃないか!

 冷めないように取っておくのとか大変なんだぞ!

 ああそうかい、そっちがその気なら俺にだって考えがある!


「そうですか! じゃあルルニティリ王都についたら、めたくそ旨い物喰わせるから覚悟しといてくださいねちくしょう!」


 失敗したおでんを口の中に詰め込んで、咳き込みながら涙目でキッチンに駆け込む。


 くっそ! 絶対旨い物作ってぎゃふんと言わせてやる!


 俺はなんであんなことを言ったのか、しばらく悩んだ。

 文句があるなら喰わせなければ良かったのでは?


 しかもよくよく思い出せば、あのふたり俺が出て行く時小さくガッツポーズとってたような気がする。

 

 ・・・・・・乗せられた!


 料理人のプライド(そもそも俺は料理人じゃないけど)を刺激されて変な約束をしてしまったのだ。


 その日から食事に気合いを入れるようになり、料理の腕まで上がっていくという結果に。

 

 納得がいかない。


 ちなみにルルニティリ王都の食材は面白い物が多かった。

 肉は寒さに強く、食用に肥育されているという毛足の長い四足獣の肉・・・・・・ホワイトゴートという山羊の種類らしい。

 この肉が絶品だった。

 山羊と言うから調理も難しかろうと覚悟していたのだけど、食べてみたら意外と臭みがなかったので牛みたいな調理をしてみたら正解だった。

 だが脂身が少ないので気を付けないとぱさつく。

 そういう肉は低温でじっくり火を通すといいと聞いたので、やってみたらとてもジューシーになった。

 寒冷地なのに脂身が少ないのかとかいう疑問は無視。そんなこと気にしてたらこの世界ではやっていけない。おそらく毛皮にマナを溜めて保温してるとかそんなとこだろう。


 というわけでシンプルにステーキにして提供。


「うむ」


 ガンガ師匠はそう一言だけつぶやいてぺろりと平らげてしまった。

 最近知ったのだけどガンガ師匠ろバラロック師匠は旨い料理を食べる時無口になる。

 

 よしよし、とほくそ笑んでいると他の面々からおいしいと口々に言ってくれた。

 いやあ、料理人冥利に尽きるなぁ!


 ・・・・・・納得がいかない。


 この頃は何故か料理の腕ばかり上がっている気がしていた。

 決してそんなことはなく、ちゃんと成長していたのだけど。

 

 半年くらいでルルニティリの最北端、つまり大陸の北端までたどり着いた。


 この頃には修行していた内容のほとんどがきちんと出来るようになっていた。

 武器は壊れないのが作れるし、盾も大型でなければ作れる。服飾、小物関係も合格点をもらい、魔法はオリジナル魔法をいくつか作り上げ、ランドドラゴンは苦も無く倒せるようになった。

 ・・・・・・カタスマサスク師匠は3匹いっぺんに相手して無傷で帰ってくるけど。

 この人とマッカス師匠は雪華の父親、大陸最強の称号を持つ暁華ぎょうかさんくらいの強さがあるんじゃなかろうか?


 そう思って知り合いなのか聞いてみたら、どうやらライバルらしい。


 さもありなん。


 冒険者もやっていたらしくて、ランクSだったそうな。

 冒険者ランクっていくつまであるんだろう?

 

 そんなこんなで修行も折り返しに入り、多分ここから引き返すと思われる。


 最北端の街はネルソーと同じく港湾都市だ。

 ただし作りはネルソーとよく似ているが、貿易のための港ではなく、どちらかと言えば漁をするための港であり、設備もそれに特化した物となっている。

 それでも港町特有の賑やかさが感じられて、なんとなくほっとする。

 

 海を見るのも半年ぶりだ。

 ひたすら雪原だったからね。


「いやっほおおおおおおおおおおおおおおおう!」


 あ、いや。海見たらテンション上がっちゃって。


 今まで半端なクラフターズを外に出すわけにはいかん! とか言われてルルニティリ王都でも馬車から離れられなかったからね!

 今回は外出許可が貰えたのでとても気持ちが良いのです!


「ではちょっと行って参ります!」


 びしっ! っと敬礼をマッカスさんに送って、小走りに街へと向かう。

 濃い顔のイケオークは笑って手を振り返してくれた。


 さぁて、何をしようかな?

 あ、八百屋だ。

 街の入り口で見かけた八百屋さんの前で足を止める。

 さて、今日の夕飯は何にしようか?


 ・・・・・・やっぱり納得がいかない。

おでん食べたい

夏なのに(投稿時期現在

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