第25話 いきはよいよい
服装に関してですが、現代語が混じるのは仕様です。
筆者がイメージしやすいもので・・・・・・。
Tシャツとか出てきてもそうゆう世界線なんだとぬるく見てやってくださいな。
「それにしても、おもしろいように釣れるねー?」
無力化した賊を檻付き馬車に放り込みながら、雪華は卿人に話しかける。
「そうだね、子供だけで見張りしてたら油断してくれるからねえ」
卿人は最初に無力化したふたりを回収、手足を拘束した後、荷台に詰め込む。
荷台には意識のある者もいるが、うなだれたまま顔も上げない。
念入りに拘束されて身動きがとれないのはもちろんだが、このふたりには勝てないと悟ってしまったからだ。
特に雪華に片腕で投げられた者は酷い顔をしていた。
子供に軽々と持ち上げられたのだ。精神的に再起不能だろう。
ユニリア王都商業ギルドの騒ぎから3年がたち、ふたりは13歳になった。だが肉体的にはほとんど成長した様子が見られない。
卿人はほんの少し背が伸びた。よく見れば筋肉が良い感じについてはいるが、全体的に細く、ぱっと見た感じ年齢より幼く見える。
ソフトレザーアーマーにパリングメイス。盾は新調して、通常サイズの板金製の丸みを帯びたラウンドシールドを装備。
雪華に至ってはほぼ変わっていないと言って良い。
美少女なのは相変わらずで頬が少し細くなったか。
全体的なフォルムが丸くはなっているのだが、筋肉どころか贅肉も無いので女性らしさが出てこない。
卿人同様年齢より幼く見えてしまう。
深緑色の半袖ハーフジャケットに白い花の刺繍があしらわれた黒いシャツ。ショートパンツも深緑でたくさんポケットがついている。
手甲に膝丈ブーツは以前と変わらない。
ただ、ふたりの左耳に付けられたホワイトベリルの耳飾りは静かに、だが確かに煌めいている。
そんなふたりだが、その中身は大きく成長して格段に強くなっていた。
順調に鍛えられて今では街の治安維持から盗賊退治までこなす冒険者顔負けの活躍をしている。
成人していないので冒険者ではないが、すでに冒険者ギルドから要請をうけて協力するまでになっていた。
そうしてついたあだ名が「山賊潰し(バンデットマッシャーズ)」。
なにせほとんど死者を出さずに盗賊団を捕縛して帰ってくるのだ。殺してしまってもギルドとしては問題ないのだが、捕縛され有罪と判断された場合、犯罪奴隷として扱われ強制労役が課される。鉱山の堀手やガレー船のこぎ手など、人手を多く必要とするネルソーではありがたいことだった。
実は盗賊達にとっても悪い話ではなく、真面目に労役を勤め上げれば社会復帰の目が残されては居る。
犯罪奴隷から復帰・・・・・・先の例を挙げるなら土方や船乗りになることが可能だ。
尤も、殆どが脱走なり問題を起こすなりでもどれないのだが。
卿人も雪華もばっちり手加減を覚えたので、大けがはさせても死人はほぼ出していない。
すっかり対盗賊のエキスパートになってしまったのである。
今回ふたりに要請があったのはやはり盗賊退治。集結してくる盗賊団の壊滅、及び捕縛である。
大規模盗賊団「魔の風」と繋がりのあった貴族を、新たにネルソーの商業ギルドマスターとなった門倉の娘ベリアが摘発。「魔の風」も壊滅に追いやり、偽の情報を流して目立った盗賊団を一網打尽にする作戦だ。
卿人と雪華は囮役だ。
あまり大規模に人を動かすと盗賊に感づかれる。
だからといって時間を掛ければ逃げられてしまう。
そこで捕まえた盗賊達を一所に集め、子供がふたりだけで見張りをしていると思わせればまず間違いなく襲いかかってくると踏んだのだ。
卿人のメイスは高級品だし、雪華は可憐な美少女である。
盗賊なら売り飛ばすことに頭が行くだろうという思惑が見事にハマった。
こういう仕事は雪華の父親である暁華が得意とするところなのだが、彼は現在、息子の炎華と共に果国に呼び出されていて不在。
なにやら一部貴族に不穏な動きがあるとかで沈静化に協力している。
現在道場は暁華の妻、佳月が代理を務めている。
そこで卿人と雪華が要請を受け、現在囮の真っ最中である。
結果は見ての通り。
哀れな山賊達は冒険者達に追い立てられ、逃げた先で見つけたエサには毒があると知らずに喰いついてしまったのです。
倒した盗賊達をひととおりかたづけた雪華は、うんとのびをして、するりと卿人に寄り添う。
卿人の側にいないと気が済まないのは相変わらずで、にぱっと笑って。
「飛んで火に入る夏の虫?」
物騒なことを口にする。
「ちょっと違う気もするけどだいたいそんな感じかなぁ」
「火ぃ付けたらよく燃えそう」
「こらこら、この人達は引き渡さないといけないんだから」
「えー、だって悪い人達だよ? 燃してもおこられないよ?」
「何でそんなに燃そうとするのさ?」
「人の物を奪った挙げ句、強姦とか人身売買とか平気でする人達でしょ? 世の中のためにならないよ」
もちろん脅しであって本気でやるつもりはない。
変なこと考えるとこうなるよ? という盗賊達に対するけん制だ。
だが次の会話で雲行きが怪しくなる。
「んん、そうなんだけど・・・・・・」
「卿人が強姦されたらと思うと夜も眠れない」
「僕が!?」
ばっ! と卿人が盗賊達を見ると、何人か卿人の方をちらちらと見ている。その目に好色の色を見て取った卿人は、背筋に氷を差し込まれたような感覚に陥った。
盗賊でも男色家は珍しくない。
むしろそのせいで集落を追い出されることもままあるのだ。
卿人の顔がみるみるうちに青ざめ、瞳からハイライトが消えていく。
そうして、無感情に言葉が吐き出された。
「よし、燃そう」
「うん! 燃そう!」
いそいそと枯れ枝を集め始めるふたり。
卿人は何かに追われるように、雪華は完全に悪ノリ。
「いやあ、冬場は枯れ木が多くて助かるなぁ!」
鬼気迫る卿人の様子に盗賊達が色めき立つ。
そのケの無い連中は完全に巻き添えだからだ。
「おいガキふざけんな! 俺たちゃ関係ねえだろ! こいつらだけにしろよ!」
「口の利き方も知らない大人の言うことは聞けませんねぇ!」
「やや、やややめてくだせえぼっちゃん! 俺たちノンケと堅気には手を出しませんぜ!?」
その言葉に卿人はぴたりと動きを止め、ぐりんと首を巡らせて檻付きの荷台を見やる。
その目は血走り、目元には涙がたまっている。
「ほんとうですか」
「マジマジ! なあ!?」
言われてがくがくと頷く者が何人か。
その様子を見て雪華が一言。
「右奥の人嘘ついてる」
「やっぱり燃そう」
「ふざけんなあああああ!」
にわかに騒がしくなる荷台。
全員、両手両足を縛られているので只の罵り合いにしかならないが。
そのとき、森の中から雑木林をかき分け、冒険者らしき一団がやってきた。
先ほど盗賊達の合流地点を強襲した冒険者達で、先頭にいたのは以前と同じくプレートメイルに身を包んだメイリだ。ただし兜は開閉式のフェイスガードがついた物に変わっており、今は顔が露出している。以前に比べてだいぶ大人っぽくなり、軽く化粧までしていた。
メイリは呆れた顔で盗賊達とバンデットマッシャーズを見比べた。
「ただいま、ふたりとも。あんまり遊ばないであげてね」
「ああメイリさん、お帰りなさい!」
「おかえりー。遊んでないよ! おびき寄せるための作戦だよ!」
「作戦ね・・・・・・」
疑わしげな視線をふたりに投げ、まあいいかと冒険者達に指示を出し始める。
どうやら帰還するようだ。
荷馬車の檻もいっぱいで、日も傾き始めている。
メイリは人見知りを克服出来たわけでは無いが、仕事の話なら問題なく出来るようになっていた。鎧を脱いでしまうと駄目だが、以前に比べれば進化レベルの進歩といえよう。
十三郎に鍛えられ、今ではランクC冒険者として登録されている。
コミュ力が向上したとはいえ、やはり仕事の話以外は苦手なようでパーティーを組むことが出来ないでいた。そこでネルソーの冒険者ギルドの職員として契約。今はギルド付きの冒険者として働いている。
独特の戦術を用いるため、武器を一新。鉱山で使用される魔道具、魔法動力式パイルバンカーを零距離で打ち込むスタイルになった。
槍を埋めていくスタイルから大幅に時間は短縮されたが、極太の杭を対象に打ち込むためやはり血まみれになる。
そのため「穴開け女」という実に物騒な2つ名がついてしまった。
「おい! こいつ黒剣のベルドだぞ!」
馬車の荷台を確認していた冒険者が叫ぶ。
先ほど卿人達がのした盗賊だが、どうやら大物だったらしく、他の冒険者も集まってきてなにやら騒いでいる。
黒剣のベルド。ユニリア南部を中心に暴れる盗賊。
人数は少ないが非道な連中として知られ、ベルド盗賊団といえば名前だけで行商人は荷物を放り出して逃げるという。
抵抗すれば皆殺し、女は慰みものか売り飛ばされるなどとにかく極悪盗賊団なのだ。
偽情報につられて出てきたのは僥倖だったと言える。
それだけ商業ギルドの新システムが効果的だったと言うことだろう。
小規模なので大人数を移動させる新システムは相性が悪かったとみえる。
今回の捕縛作戦の本命といって良かったが、本人を捕まえられるかは微妙とされていた。
メイリは少し興奮した様子で手配書と見比べている。
「黒剣のベルドまで捕まえたから大戦果かな! メンバーも揃ってるし!」
「あの黒い剣の盗賊、有名人だったんですか?」
「うん。少人数だから逃げ足が速くて、腕が立つから冒険者でもなかなか捕まえられなかったんだって。大手柄だよ!」
「へぇ・・・・・・」
未だに十三郎から一本取れない卿人としては、いまいち自分の強さが計れないでいる。
凶悪な盗賊を苦も無く倒せるというのに、自分が強いとは到底思えないでいた。
強くなっている実感はある。だが、目標としている人間から一本すら取れていない現状を卿人は憂いていた。十三郎、暁華、炎華の3人である。
実は暁華は別としても十三郎と炎華はいっぱいいっぱいだった。
ほとんど年長者の意地みたいなところで不利を悟らせないように戦い、さも当然のように負けたと錯覚させているのだ。大人げの無い連中である。
そうとは知らない卿人は少し凹んでいた。
能力までもらって折角新しく人生始めたと言うのに、器用貧乏の劣等感がどうにも抜けない。
勝てない奴には勝てない。前世ではそうやって、妥協し続けてきた。
「卿人」
「ん?」
「またどっかいってる」
雪華は卿人の手を取って寄り添う。
見透かされた卿人は努めて平静を装ってとぼけた。
「そんなことないよ」
「うそつけー。わたしには解るぞー」
「そうだね、どうやったら雪華のおっぱいが大きくなるかなって考えてたんだ」
「うん、揉んだら良いよ! 好きなだけ揉んで!」
「やぶ蛇だった!? 断る! 断固として! やめろ手を掴むな誘導するな!」
「卿人が揉みたいって言ったんだろー!? ホントは揉みたいくせに!」
「ッ・・・・・・! ああそうさ! 揉みたいさ! 揉ませてよ!」
「お!? ののっ、望むところだー!」
珍しく卿人が乗ってきたのでやや怯む雪華。
だがチャンスとばかりに顔を真っ赤に染めながら無い胸を突き出す。
卿人は手をワキワキとさせて。
「よぉし! で、肝心のおっぱいはどこにあるんだい?」
「・・・・・・ちょっと期待したじゃないかキエー!」
普段通りの流れでアームロックを極められた卿人。
天地流の腕前は互角だがこういうときに卿人は一切防御をしない。
相も変わらず隙あらば遊び始めるふたりだ。
周りの冒険者達も慣れたもので無視している。
最初の頃こそ注意されたりどやされたりしたものだが、今は実績があるので文句も出ない。
きちんと仕事をこなすし、なによりこのふたりのおかげで盗賊の捕縛率がはねあがっているからだ。
むしろこのふたりが遊んでいる時は周りに危険が無いと判断している時だというのがわかり、危険度メーターみたいな役割まで果たしている。
「痛い痛い! 雪華ごめんて!」
「じゃあ今度の誕生日はわたしの言うこと聞いて貰うからね」
「いつも聞いてるじゃんって! 痛てて! わかったよぅ!」
「よし」
もうすぐふたりの14歳の誕生日だ。
毎年九江家と朧家で盛大に祝う。
ふたりともあまり物を欲しがらないので、豪勢な料理とささやかなプレゼントが用意される。
雪華はフンスと鼻を鳴らしてアームロックを解いたが、卿人の手は握ったままだ。
雪華は両手で卿人の手を握り、訴えかけるような思い詰めた表情。
その真剣さに思わずたじろぐ卿人。
「約束だからね?」
「雪華との約束は破らないよ」
「絶対だからね?」
「絶対だよ。雪華のお願いは僕が叶える」
そこで雪華はようやっとにっぱーと笑い、きょろきょろと辺りを見渡すと急にふてくされる。
つられて卿人も辺りを見渡すが、帰還準備をしている冒険者達しかいない。
怪訝な顔で雪華に問いかける卿人。
「どうしたの?」
「ちゅーしたいの!」
「声がデカイ!?」
流石にイラッとした冒険者が何人かジト目で見ている。
それを察したメイリは冒険者が苦情を言い出すより早くフォローに入った。
「ほらほら、あんまり遊んでると置いてくからね!」
「ご、ごめんなさい!?」
「メイちゃんごめんなさい」
「はい。じゃあ君たちが先頭にたってね? 索敵宜しく!」
「はい!」
「りょうかいです!」
言われてふたりは馬車列の先頭に立ち、皆帰還のために出発。
がたがたと音をさせながら隊列が進んでいく。
森の方から時折がさがさと音がしたが、先頭のふたりはスルーしている。
卿人が真っ正面。その斜め後ろを雪華が左右にうろうろしている。
雪華の落ち着きが無い、ということでは無くこういう警戒態勢なのだ。
卿人が前方を全体的に警戒。
その卿人の意識の薄くなったところを雪華がカバーしている。
それなら生物の気を感知できる雪華が前方警戒をした方が良さそうに思えるが、ちゃんと理由がある。
雪華は気の大きさや敵意を測る事は出来るが、小さな反応を意識的に無視している。
そうしないと気を拾いすぎて、混乱してしまうのだ。
だがそうすると今度は一定以下の気の大きさを感知できなくなる。
気の反応が小さくても危険な生物は存在する。その小さな反応、及び近距離を卿人が警戒、雪華はその穴埋めと長距離を警戒する。左右にうろうろするのは卿人の警戒範囲外をカバーするためだ。
盗賊を相手しているうちに奇襲が一番面倒だと思ったふたりがいろいろと試行錯誤した結果、こういうスタイルに落ち着いた。
魔獣にも応用が利くので各ギルドから頼りにされている。
ふたりが無害だと判断すれば本当に何も無いのだ。これほど心強い事は無い。
逆に雪華の網にかかれば早期発見できるので、敵を万全の状態で迎え撃つことも可能にしていた。
実際、何度か魔獣や魔物に襲撃されるが、長く発動の遅い高威力魔法式を準備した魔法使い達によって次々と屠られていく。
ここにいる冒険者達はランクCで固められていて、ランクCといえばそれなりの実力者達だ。以前卿人達が倒したゴブリンイーターなら楽勝とまでは行かなくても問題なく倒せるだろう。
こうして順調に進んでいるのだが、卿人と雪華は妙な気持ち悪さを覚えていた。
「ねえ、卿人」
「なんだい雪華? 多分同じ事考えてるけど」
「魔獣が多すぎる気がする」
「だよね、ちょっと襲われすぎだ」
ふたりは頷き合い、卿人が手を上げて馬車列を止め、少し後ろを歩いていたメイリに話しかける。
「メイリさん、ちょっと違和感があります」
「敵が多すぎる?」
メイリも気付いていたようだ。
ネルソー近くにしては襲われる回数が多い。
「少し急ごうか、嫌な感じがする」
「おい」
突然、馬車の中から声がかかった。
黒剣のベルドが目を覚ましていて、話しかけてきたのだ。
「なんだ、おとなしくしていろ」
冒険者のひとりがそう答えるが、ベルドは気にした風も無く続ける。
衝撃の内容を伴って。
「たぶん近くに大型魔獣がいるぜ。命が惜しいなら俺たちを捨てて逃げるんだな」
次回はモンスター○ンター回です!




