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待雪草は誰がために咲く  作者: Ncoboz
第一章 転生~幼年期
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第23話 魔族と宝石商

何とか第一部終了まで持ってきました

 次の日、朝食の準備が出来ましたと起こしに来てくれたメイドさんに妙な勘違いをされたりして愉快な朝を迎えたが、なんとか問題なく収まった。

 愉快な勘違いの連続だったのだけど、なんかコワイので割愛する。


 ともあれ。


 エルリック閣下のご厚意で、明日の出発までは邸を好きに使ってかまわないとのことなので、荷物はそのままに九江卿人おれと雪華は買い出しに街へと繰り出した。


 準備のための買い出しなのだけど、来る時も一緒だったネルソーの商隊キャラバンと一緒なので、俺たちがそろえなければならないのは個人の物とお土産くらいだ。


 ユニリア王都は山脈に面した天然の要害で、山脈の向こう側からが他国となる。

 北はルルニティリ王国、西はムルディオ公国に隣接している。

 主にこの2カ国との交通の要であり、人と物とが集中する交易都市でもある。

 山を越える訳では無く、いくつか長いトンネルが掘られていて、国の出入りに苦労はしないものの有事には封鎖され、敵の侵入を阻む。トンネルを開通させるのって凄い大変だって聞くけど。やっぱりそういう技術があるのかもとか考えてしまった。


 天然の洞窟も多数あり、王都から離れた山岳地帯は凶悪な魔物の宝庫だ。

 迂回路も無く、トンネルを通るか山を越える以外にないのだが、いかんせん領土が広く、最近まで内戦が酷かった国でもある。


 幸いネルソーは地方にあるため戦火にさらされることは無かったが、戦時中は貿易が滞ったりで大変だったらしい。その時に腕を振るったのが門倉さんというわけだ。

 そう考えれば新しいギルドマスターに任命されるのも頷ける。


 ユニリア王都の町並みは、もちろんネルソーとは趣が異なる。

 和洋折衷なネルソーとは違って純中世ヨーロッパ風の町並みだ。

 中心部から離れれば背の高い建物は無くなり、2階建てが中心。

 山からの水源が豊富で、水不足に悩まされることも無く、治水もしっかりなされている。


 住人は人間種が中心だが、オーク種もわりと多い。傭兵や冒険者だろう。

 ネルソーでは滅多に見かけない魔族もいる。

 魔族と言っても魔物とか悪魔ではなく、「動物的特徴を1つ以上持った」人間という感じだ。角だったり、爪だったり、翼だったり。

 種族特性としてはとても大柄で男女共に背が高い。男性は筋肉質で、女性はグラマラス。

 マナの扱いが巧く、魔法使いに向いている。雄牛の角を生やしたムキムキのローブ姿のおっさん魔族とかいたりする。

 つまるところ魔法を扱うのに長けた種族。ゆえに「魔族」というわけだ。

 

 果国人は多くないが、珍しいと言うほどでも無い。だけどユニリアまで来ると果国人には住みづらいかもしれない。主に食文化的な意味で。交易都市の側面も持つユニリアは異国人には寛容だし、移住するのも比較的容易だ。ネルソーのあり方がその事実を裏付けている。


 商業ギルドが解体されたので混乱しているかと思ったが、門倉さんが手を回していたらしく大きな混乱はないそうだ。ちゃんと経済が滞らないようにしてからつぶしにかかるのは流石だ。

 もともとヒラのギルド職員の方々が優秀だったというのもあるらしい。なんにせよ、国の重要施設がひとつ潰れたというのにほぼ平常通りというのは凄いとしか言いようが無い。


 ユニリア王都の話はさておき。俺たちの話だ。

 

 綺麗な石畳の町並みを、雪華と買い物をしながら歩く。

 土地勘がないので若いメイドさんがひとり、ついてきてくれた。


「トゥアレル、と申します。ご主人様からお買い物のサポートをするように仰せつかっております。何なりとお申し付けくださいませ」


 優雅に一礼してみせるトゥアレルさん。

 平民の子供に対しても丁寧なのは好感が持てる。

 ちゃんと仕事してるって事だからね。


「こちらこそ、王都は初めてなので、宜しくお願いします」

「トゥアレルおねえさんよろしくおねがいします!」


 雪華の笑顔にやられたのか、ほっこりとした表情を浮かべるメイドさん。


「はいっ。では早速、どちらに向かわれますか?」

「ええっと、じゃあ旅の小物とかから」


 トゥアレルさんに案内されながら、買い物を済ませていく。

 王都だけあって同じ物でもいろんな国の物が置いてあり、お土産選びは半分ウィンドウショッピングの様相を呈していた。


「お、帝国製のコップだ!」

「鉄製なんだ? 鉄臭くないかな?」

「どうだろう? 処理はしてあると思うけど・・・・・・うん、気にならないかな。あ、このコップは飲み物がぬるくなりにくいんだって」

「果汁がいつまでも冷たく飲めるの!?」

「そうだねぇ」


 どっちかって言うと麦酒を気持ちよく呑むためだろうけど。


「おおお! ルルニティリの木製食器がある!」

「わ! 軽い! 丈夫! かわいい! でも高いぃ!?」

「高いね・・・・・・輸送費がかかるんだろうなぁ。あそこの魔獣は物すごく危険だって聞くし」

「でも欲しいな・・・・・・卿人、買って?(はぁと)」

「大人になったらルルニティリに旅行に行くということで手を打ちませんか?」

「新婚旅行だね!」

「新婚旅行でいけるほど気軽でも無いと思うけどね」

「卿人とならどこだって行けるよ」

「そうだね。じゃあそれまで我慢だ」

「はーい・・・・・・」


 そんな会話をトゥアレルさんはくすくすと笑いながら眺めている。

 俺の視線に気付いたのかすぐに笑いを引っ込めてしまったけど。


「申し訳ありません、おふたりの仲の良さが伝わってきて・・・・・・」

「大丈夫です、僕らはいっつもこんな感じですよ」

「そうだよ! そして卿人とわたしは結婚するんだよ!」

「おっぱいがおっきくなったらな」

「サイテー!」

「ごっふぁ!?」

「ああ! 雪華さん! 喉元への逆水平チョップはいけません!」


 なんてことがありつつ、一通りの買い物を終える。

 あとは、雪華次第かな。


「じゃあ最後お願いします」

「かしこまりました」

「あれ? まだなにかあったっけ?」

「アクセサリー買おうっていったじゃないか」

「いいの!?」

「雪華が欲しいなら、もちろん」

「欲しい! 卿人が選んでくれるんでしょ?」

「え? 僕が? 確かに了解したけど・・・・・・」

「卿人様、女性は好意を寄せた男性から貰った物は、何でも嬉しいものですよ」

「そうだよ!」

「う、うん、がんばるよ」


 女性のアクセサリーとか選んだこと無いぞ・・・・・・。


 不安になりつつもアクセサリーショップに案内してもら・・・・・・おお?


 大理石作りの豪奢な建物があらわれた。

 窓には硝子がふんだんに使われており、色ガラスも使われてはいるがとても上品な印象を受ける。

 入り口は大聖堂もかくやというほどの装飾が施された扉だ。

 扉の両脇には物々しい雰囲気の警備員が直立不動。

 ええっと・・・・・・。


「ここは・・・・・・?」

「王都で一番の宝石商でございます」

「ふわあ・・・・・・!」


 雪華が期待に目をきらっきらと輝かせている。

 なんのかんの言っても女の子だ。


 物欲が無いのと好む好まないはイコールではない・・・・・・と言いたいところだが、雪華の場合は普段あまりなじみの無い場所への好奇心だろう。


 普通のアクセサリーショップで良かったんですが。

 などとは、この雪華の顔を見てしまっては言い出せない。


 戦々恐々としつつ店内に入ろうとしたが、警備員・・・・・・最早門番だな。

 門番に止められる。

 子供と若い女性とみて態度が少し横柄だ。


「待て、ここはファルシオン宝石商会だ。紹介状はあるか?」

「こちらに」


 トゥアレルさんが羊皮紙を取り出して示す。

 それを見た門番はびっくりした顔で羊皮紙とこちらを見比べる。

 そりゃ騎士団長の紹介状とあれば疑いたくもなるか。


 だけどこんな物を偽造すれば貴族であろうとただ死刑では済まない。

 門番もそれがわかっているのだろう、何とか職務スマイルを浮かべる。


「失礼いたしました。どうぞお入りください・・・・・・」


 門番のひとりに案内されて建物内に入ると・・・・・・うわ。


 うん、場違いだな。


 限られた上流階級だけを相手にしているからなのか、詳しくはわからないけど、ショーケースの様なものは無い。

 カウンターの上に直接、商品が陳列されている。

 値札は無い。

 これらはいわば店の装飾に等しいのだろう。本命は奥から直接持ってくる形になる。


 いや確かにさ、エルリックさんに気の利いたアクセサリー屋を紹介して欲しいとは言ったけど、これは高級すぎるんじゃ無いだろうか・・・・・・?

 子供には見合わないでしょう、これは。


「わあ・・・・・・」


 雪華がとてとてとカウンターに近づいて、色とりどりに輝く宝石を眺める。

 少し圧倒されているのか遠慮がちではあるが、瞳は装飾品たちに釘付けになっていた。


「宝石ってもっと派手な物だと思ってた・・・・・・」


 雪華の言うとおり、あまりごてごてした物は少ない。宝石ならカットの美しさや、装飾に施した彫金の美しさを重点に置いているように思える。

 だがよく見ると小さな宝石がいくつもついていたり、びっしりと繊細に彫金されていたりして、見る人が見れば高級品だとわかる物だ。


 雪華の言う派手な宝石とはネルソーでもたまにいる、なんちゃって有閑マダムみたいなのがじゃらじゃらとつけている巨大な宝石やら派手な装飾品のことだろう。


「ようこそお越しくださいました、エルリック騎士団長閣下ご紹介の九江様、朧様、それとお付きの方ですね? どうぞこちらに・・・・・・」


 案内してくれたのは、魔族のおじいさんだった。

 魔族の男性は年を取ると筋肉が落ちて細身になる。

 おじいさんは黒い羊の角をもった赤毛で、深い皺が刻まれた顔には柔和な笑みを浮かべている。

 魔族の寿命は人間種とほぼ変わりないらしいから、見た目通りの年齢だろう。


 個室に案内され、椅子を勧められてお茶をごちそうになると、魔族の老人は深く頭を下げた。


「遅ればせながら、私はファルシオン商会会頭のブブル・ファルシオンと申します」


 社長だった。


 こんな凄いとこの会頭が直接出てくるとか、こっちが恐縮してしまう。

 侯爵相当の人物からの紹介状だから、それなりの人物だと思われたんだろう。


「さて、本日はどのような物をご所望でしょうか?」

「えっと、この子に。見ての通り飾りっ気が無いので、何かアクセサリーが欲しいなと」

「よろしくおねがいします!」

「成る程、成る程。見たところ格闘技を嗜んでおられるご様子、邪魔になりにくいチョーカーや耳飾りなどいかがでしょう?」

「あ、はい、見せてください」


 さすが百戦錬磨の商人、的確にこちらの欲しいものを言い当ててみせた。

 一度奥に引っ込むと、両手にジュエリートレーを持った幾人かの女性従業員と共に戻ってきた。


 それらが机の上に次々と並べられていく。


 ブラックワイルドホーンという水牛の革で作られた黒いチョーカー。中心にレッドスピネルがあしらわれていて、黒い革には金の刺繍が施されている。。


 スフェーンのピアス。綺麗な黄緑の輝きは職人の腕の良さをうかがわせる。


 どれも宝石のカットがすばらしく、素人の俺でも魅せられてしまった。

 オーダー通りどれも付けていても気にならない感じの装飾品ばかりで、その分装飾等に手間をかけている。

 とても上品で、やはり子供が付けていては不釣り合いな気もするけど・・・・・・。


 雪華なんかは目を皿のようにして食い入るように見ている。

 

「すごいねえ・・・・・・こんなにいっぱいあるんだぁ。おもしろい!」


 全く同意見だ。

 欲しい、というよりは見て楽しんでいる感じ。

 現実感が無いというのが現状だろう。


 俺もそうだし。


「お気に召しませんか?」

「いえいえ! その、なんていうか、尻込みしてるんです・・・・・・」

「それは」


 おそらく失言を口にしかけたのだろう、黙り込むブブルさん。

 いや、全然いいんだけれども。

 その通りだし。


 トゥアレルさんは黙ったまま静かに微笑んでいるだけだ。


 装飾達の圧に呑まれながらも端から見ていく。

 ふと、ひと組の耳飾りが目についた。

 なんというか、他の装飾品に比べてやたらとカジュアルな感じがする。


 それは革製の耳飾りのようだった。

 指先ほどの長さの短いストラップ状で、耳留め具に宝石が嵌まっている。

 白いジュエルストーンで・・・・・・なんだろう、少しマナを感じる。


「あの、これは?」

「そちらは・・・・・・おや? 誰だい? これを持ってきたのは」

「申し訳ございません! すぐに下げて・・・・・・」

「いや、そうじゃない。うちにこれがまだあったのだと思ってね」


 ブブルさんは目を細めてその耳飾りを見ている。


「これは我々魔族に伝わる魔除けでして、留め具の宝石はホワイトベリル。所有者に幸福をもたらすとされています。一対をひとりで付けるのでは無く、ふたりでひとつずつ身につけ、互いの幸福を願うのが習わしとなっています。もちろん、夫婦や恋人などにもぴったりですよ」


 そう言って、耳飾りを雪華に手渡す。

 おそるおそる雪華は手にとって掌の上で矯めつ眇めつすると、ほう、とため息をもらした。


「きれいな石・・・・・・」

「ホワイトベリルは輝きこそダイヤモンドに劣りますが、逆にその抑えた輝きが慎ましいと人気がございます。ホワイトベリルを研磨できる職人が減っていまして・・・・・・在庫はないと思っていましたが、いやはや。いかがでしょう? お勧めでございますよ?」

 

 雪華と顔を見合わせる。

 その顔は少し上気していて、今の話に少し興奮しているのかもしれない。


「卿人、わたし、これがいい」

「うん、僕も良いと思う。でも僕とおそろいになるけど?」

「そこがいいの! 卿人とおそろいがいい!」

「そっか、ひとつは僕が付けて良いんだね?」

「あたりまえじゃん!」

「ありがとう、雪華」


 にっぱーと笑って、僕にひとつを渡してくる。

 その前に。

 買えるのこれ?

 いや、いつか使うだろうと思ってそれなりには貯めてあったけど、桁が違ったらどうにもならない。子供が出来る事なんてかぎられてるからね。


「ええっと、おいくらでしょうか?」

「お代は・・・・・・このくらいで」

「え!? 流石にそれは安すぎる・・・・・・大丈夫なんですか?」


 子供の小遣いで買える、とまでは言わないが破格である。


 小さいとはいえ宝石だ。カットも綺麗にされているし、革部分も銀糸で刺繍がされていて、とても高価そうだ。曰く付きなのか、それともなにかよからぬ事でも企んでいるんじゃないかと疑ってしまう。


「いえ、その耳飾りは私の手作りでして・・・・・・ホワイトベリルのカットは職人ですが、それ以外は私が手がけました。もともと贈答用に作った物ですし、先ほども言いましたが在庫は無いものと思っていましたので」


 恥ずかしそうに頭をかきながらブブルさんは言う。


「もちろん商売人としての下心もございますよ? 小さいながらも騎士団長閣下のお知り合い。いずれお客様になっていただければ、安い投資でございます」


 言ってからはっとした顔をするブブルさん。


「いやはや、こんなお話をするつもりは無かったのですがね、おふたりの様子にあてられてしまったようです」

「九江様、ここは受け取っておくのがよろしいかと。主には私からも伝えておきますので」

「・・・・・・わかりました。ではこの値段で、ありがたく」

「ありがとうございますっ」


 トゥアレルさんの後押しもあって、頂戴することにした。


 手にした耳飾りを見る。やや濃いめの茶色の革に、銀糸の縁取り。ホワイトベリルがまあるく複雑にカットされて輝きを放っていた。


 やっぱり少しマナを感じるなぁ。

 留め具部分を外すと、内側に魔法式が刻まれていた。


「それ自体が魔道具で、留め具に耳を挟み込むとその場で固定されます。外す時は留め具部分を回せば外すことが出来ます」


 成る程、宝石じゃなくて留め具部分の魔鉱石を使ってるんだ。


「どちらの耳に付けるとか、決まりはありますか?」

「左耳に。魔族の言い伝えで幸運は左からと申します」


 言われて、雪華の耳に手を伸ばす。

 同時に、雪華も俺の耳に耳飾りを持ってくる。


 耳元でカチリと音がして、耳飾りが固定されたのが確認できた。

 軽く挟んだ状態で固定され、痛みとかも無い。


「おふたりとも自然に付け合いましたね・・・・・・」


 トゥアレルさんが感心したように言う。

 あれ? なんか変だったかな?

 雪華も不思議そうな顔で問いかけた。


「だって、幸運を祈るんでしょ? 付けてあげるのが普通じゃない?」

「僕もそう思って・・・・・・」

「それが正しい作法ですよ。やはりあなたたちに譲って正解だったようです」


 ブブルさんは皺を寄せて嬉しそうに笑っている。

 期せずして正しい手順を踏んだらしい。


 突然雪華が抱きついてきた。


「ちょっと、お店だよ?」

「卿人ありがとう! 卿人に、しあわせがおとずれますように」


 ぽそっと、耳飾りを付けた方の耳元でささやかれる。

 まいったなぁ。

 ホント可愛い。

 俺も雪華の耳元に口を寄せて。


「どういたしまして。雪華にも、幸福がありますように」

「んふふ~」


 きゃー。とちゃちゃを入れてくるトゥアレルさんを横目に、俺たちは笑いあった。


 ブブルさんに感謝をしつつ代金を払い、ファルシオン宝石商会を後にする。

 後で門倉さまから聞いた話だけど、ここは魔族の国マディシリアの直轄店だったらしく、ギルドの影響を受けずに営業できていたらしい。

 本来ならそんなことは出来ないのだが、マディシリアとの友好を考えて王自ら特例を出してギルドから切り離していたとか。

 これ、王様の度量が凄いと思う。いや、王の命令っていうていなのかもしれないけども。それを許す方も凄いと思うんだ。


 帰る準備も終わり、さて出発となった翌日。

 結局あれからお世話になり続けてしまったエルリック邸の前で、その当主自らが見送りに出てきていた。


「暇なんですか?」

「これ卿人!」


 思わず聞いてしまった俺を叱る門倉さん。

 いやだって、泊まってる間ずっと俺たちの相手をしてくれてたんだよ?

 登城している様子も無かったので思わず聞いてしまった。


「なに、団長と副団長が不在なくらいで揺らぐような鍛え方はしていない。3日くらいならばいつもの事よ」


 自信満々に答えるエルリックさん。

 いつものことなのか・・・・・・。


「九江卿人」

「はい」


 真剣な声で呼ばれたので居住まいを正す。


「ユニリア王都騎士団は君に力を貸すことを約束する。いつでも頼ってくれ」

「ありがとう、ございます。騎士団の誇りは僕にはまぶしすぎて。正直ちょっと怖い位ですけど、イランド卿に誓って、僕は大切なものを守り抜きます」

「うむ、それがラフも喜ぶだろう」


 ばん! と俺の肩を叩いて、豪快に笑った。


「では門倉卿、またすぐ会うことになろうが、さらばだ」

「そうですな、手前も気合いを入れ直してもどってきましょう」


 ふたりは握手を交わして再会を約束する。


 エルリック閣下に見送られ、街の外で待機していた護衛冒険者とキャラバンと合流。

 これからまた2月程かけてネルソーまで帰るのだけど、帰りは積み荷が少なめなので少し早くなりそうだ。


 子供と言うことで馬車に押し込められた僕らはのんびりと帰路を楽しむことにする。

 門倉さんとは別の馬車だ。冒険者たちの休憩用馬車だけど貴族を護衛するとあってみんな張り切っている。なにせ活躍次第でボーナスが出るとなれば元気も出よう。


「わたしたち多分あの人達より強いと思うんだ」


 護衛の冒険者たちを眺めながら不満そうに雪華がつぶやく。


「聞こえるよ。僕達だって2ヶ月ずっとは護衛できないでしょ?」

「そうだけどー。少し身体うごかしたいじゃん?」

「元気だねぇ」

「年寄りくさいねぇ」

「果報は寝て待て、だよ」

「なにそれ」

「寝てると良いことあるってことさ」

「うそだぁ」

「ほんとほんと、試しに寝てみたら?」

「えー・・・・・・。でも卿人がそういうなら、そうする」


 いつものように俺に寄りかかって、額をこすり付けるとすぐに寝息を立て始めた。

 雪華の寝顔は左耳の耳飾りが煌めいていて、いつもより魅力的に見える。


 その額に軽く口づけをして、俺も一眠りすることにした。

 どうせ何かあればたたき起こされるのだ、今のうちに寝ておこう。



 

「ホントに良いことあった・・・・・・」

 

第一部終了です!

ひとつ閑話を挟んで、第二部は三年後。卿人と雪華は一四歳間近から始まります。

引き続き宜しくお願いします!

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