第22話 卿人と雪華の小さな小夜曲:3
ライスコロッケ食べたい。
ありがたい2つ名を頂戴したところで、夕飯の準備が出来たらしく、執事さんに別室へ案内される。
案内されたダイニングで、九江卿人達は困惑していた。
馬鹿みたいに広いダイニングに馬鹿みたいに長いテーブルがあり、馬鹿みたいに豪勢な食事が用意されていた。いくら大貴族の夕餉でも豪華すぎだと思うけど・・・・・・。
「え? 何かのパーティ?」
「僕ら間違えたんじゃないかな?」
「だって執事さんについてきたんだよ?」
「だよねえ」
その執事さんに促されて席に着く。
どうやら間違いではないらしい。
豪勢だが食器と皿は4人分だ。
門倉さんは何となく察しているらしく、ちょっと困ったような表情をしていた。
「エルリック閣下のご身内のお祝いか何かですか?」
「いや、彼は奥方とは死に別れているし、妾がいるとも聞かないな。ご子息はすでに領土を持っている男爵だ」
「だとすると・・・・・・」
その先を言う前に、エルリック閣下が入室。俺たちを視界に収めると、仰々しく声を張り上げる。
「うむ。ではこれより、門倉卿の商業ギルドギルドマスター就任を祝う!」
「「えっ!?」」
すっげえ! 果国人でユニリア王都のギルドマスターとか前代未聞なんじゃ!?
門倉さんを見ると参ったと天を仰いでいた。
「エルリック卿、気が早いのではないですかな? 正式に辞令が下りたわけではないというのに」
「すぐにネルソーに帰るのだろう? 私からの前祝いだ。取っておいてくれ」
「そういうことであれば、感謝いたします」
と、お定まりのやりとりが終わったところを見計らって。
「門倉さま、おめでとうございます!」
「おめでとうございますっ!」
俺と雪華で喝采を上げる。
門倉さんはしきりに後頭部をなでつけていた。
照れているのかもしれない。
「あれ? そうなるとネルソーの評議会とギルドはどうなるんです?」
「雑事はまだ帰ってからだが、ベリアに任せようと思う。若いが能力は十分だとワシは見ておるよ」
秘書のベリアさんが思い出される。
銀髪の気の強そうなお姉さんだ。
門倉さんの娘で、まだ20代だったはず。
門倉さんは貴族らしくお妾がたくさんいる。
そのなかでもユニリア国人とのハーフはベリアさんだけだ。
たしか、ネルソーで身の回りの世話をさせていた人が母親だっけ。
今その人は門倉邸の管理を任される立場にある。
おさかんなことで。
貴族なので当然と言えば当然なのだけど。
子孫残さないといけないからね。
その意味じゃエルリック閣下のほうが特殊かもしれない。
エルリック閣下の乾杯の音頭で食事が始まる。
俺と雪華はもちろん果汁だ。
・・・・・・そういえば俺酒って呑んだことないな。
前世でも未成年で死んだし・・・・・・。
「みてみて卿人! これ凄いよ! コロッケかと思ったら中からお米が出てきた!」
「ライスコロッケだね。僕が知ってるのとちょっと違うけど」
「米に衣を付けて揚げるとは・・・・・・」
「ふふふ、果国人は良くも悪くも米にはこだわるからな、思いつかないだろう」
などという会話を挟みながらお祝いは進む。
門倉さんは途中で出てきた果国産の蒸留酒にご満悦で、とても楽しそうだった。
お腹もいっぱいになり、貴族ふたりができあがってきたところで執事さんが部屋に案内してくれると声を掛けてきた。
大人はまだまだ呑むらしい。折角なので飲み明かすのだとか。
何が折角なのか解らないが、こういう機会でもないとこのふたりが飲み明かすことなどもうないだろうし、門倉さん的にも騎士団長とは繋がっておきたいのだろう。もちろん、エルリック閣下も。
そんなわけで子供は早々に部屋に連れて行かれる。
もちろん雪華とは別の部屋だ。ここはネルソーの実家じゃないからね。
とはいえ。
「落ち着かないなぁ・・・・・・」
思わず独りごちる。
流石貴族というべきか、デカイ湯船で湯浴みをさせて貰い、ラフな格好に着替えて部屋にいるのだが。
まあこれがまた広い。
俺の部屋の3倍くらいある。動ける範囲で3倍なのでもっと広いかもしれない。
キングサイズのベッドに、テーブルソファ、事務机に簡易クローゼット。
トイレまである。
個室に、トイレだ。
もう大きいホテルの一室といって差し支えない。
んん。
暇だ。
魔道書の類いはかさばるから持ってきてない。
広いとはいえここで身体を動かすわけにも行かないし。
まさか子供が夜の街に繰り出すわけにも・・・・・・。
止められるだろうし。
瞑想でもするか。
キングサイズのベッドにあぐらをかく。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
駄目だ。
なんか気が立ってる。
そういえば、雪華が離れた人間の気の流れが見えるようになったとか言ってたっけ。
目視できる範囲ってのが条件で、その間に障害物があっても問題ないのだとか。
凄いよなぁ。
ってことは今の俺の気の流れも見えてるのかな?
隣の部屋だけど、気で呼んだら来たりして。
やり方わかんないけど。
久々にひとりの夜なんだから、雪華の好きにして欲しい。
正直雪華とお話出来ないのは寂しいけど。変な実験をするのはやめておこう。
後ろ向きでベッドに身を投げ出す。
うおおお! ふっかふかだなあ!
逆に落ち着かなくて寝れなくなったりしてな!
前世でもこんなふかふかのベッドは寝たことないぞー。
ベッドのスプリングも高性能なんだろうなぁ。
高級品て怖い。
・・・・・・これも異常だよな。
いくら貴族の、それも国の専属騎士団団長の家とはいっても、ベッドの柔らかさまで前世に匹敵するんだから。
ちょと一部の文明レベルが高すぎる気もする。
主に生活的なところで。
この世界の人達はこういうの当たり前のように作ってるから、異常と言うよりこういう技術に特化した何者かがいたのかもしれない。
それこそ俺みたいな。
ない話でもない。
すでに俺という存在がいるのだから、あってもおかしくはない。
もうちょっと意思に話聞いておけば良かったかな?
今更か。
こんな事を考えるのも久しぶりだ。
みんな元気かな。
っていっても時空も時間軸も違うだろうから、たぶん意味のない事なんだけど。
じゃなきゃ雪華の魂がここにあるのはおかしい。
朧さんが俺が死んだ後にすぐに死んだって言うなら話は別だろうけど。
それは考えにくい。
つうか考えたくない。
つくづく、異世界なんだと実感する。
いや、とうの昔に実感していたけれども。
あらためて。
・・・・・・。
なあ、健一郎。
俺は。
雪華が好きだ。
これは。
お前を裏切ったことに。
なるのかな。
もしそうでも。
俺は、朧さんじゃない、かのじょの。せっかのことが、すきなんだよ。
・・・・・・。
「卿人」
「ん?」
「誰のこと、考えてたの?」
「なんで?」
「だって、そんな顔してる」
「僕の知り合いなんて限られてるよ」
「うん・・・・・・でもなんか、なつかしそう」
「そうだね・・・・・・って雪華!?」
がばっ! っと起き上がるも、誰もいない。
「夢・・・・・・?」
いつの間にか寝ていたみたいだ。
照明の魔道具は付けっぱなしだったから、部屋は明るい。
ううん?
なんだ、今の。
夢にしてははっきりしすぎていたけど。
備え付けの時計を見ると、深夜だった。
中途半端な寝かたしたな。
もう1回寝るのも無理そうだ。
でもこのまま起きてると明日の昼に辛くなるんだよなぁ。
かちゃり。
かすかにドアノブの回る音。
「夜這いならお断りしておりますが?」
少しずつ開かれていくドアがピタっととまる。
開き直ったのか、普通に開けてきた。
もちろん雪華だ。いつもの寝間着スタイル。ではなく、ちゃんとしたパジャマだ。
流石に余所であの格好はいただけない。
「なんでい、おきていやがったか」
「何その口調。まあいいや、どうしたの? こんな夜更けに」
「ふんだ、卿人が夜這いに来ないからこっちからきたんだもん」
口を尖らせてとてとてとこちらに近寄ってくる。
俺はため息をひとつ。
「せっかく別部屋なんだから、たまにはひとりで寝たら良いのに」
「嫌。寂しいから卿人と寝る。それにそんな嬉しそうな顔してたら説得力無いゾ?」
ぺたりと自分の顔に触れる。
口の端が上がっていた。
雪華はぴょんとベッドに飛び乗ると、そのまま俺に向かってダイブしてきた。
「おわっぷ」
「んっふふ~」
俺を押し倒してそのまましがみつかれてしまった。
俺はされるがまま、やれやれと思いつつ、ご満悦そうな雪華の顔を見て話しかける。
「こんな夜更けまで起きてるとお化けが出るよ?」
「きゃぁ! 怖い! 助けて卿人~」
「雪華の気の方が悪霊系に特攻なのでは?」
「そんなつまらない答えはもとめてません」
「僕はつまらない男だよ」
「やめて」
少し、真剣な声。
「卿人はつまんなくなんかない。何言っても良いけど、そんな自虐をするのはやめて。わたしが好きな男の子を貶めるのはゆるさない」
「・・・・・・ごめん」
ぎゅうっと、俺にしがみつく腕に力がこもる。
「今の卿人は、どこか違う所にいるよね。どこにいるの?」
「ここにいる僕は、僕だよ?」
「でもどこかに行ってたよね?」
「今夜はいやに絡むね」
そう言ったら胴に脚を絡ませてきた。
「そのからむじゃねえ」
「あれえ?」
ちゅぅうっとほっぺたにちゅーをされる。
「ごめんね、変なこと言って」
「ううん、ちょっと考え事してたのは本当だし」
「かんがえごと」
「そう」
「どんな?」
「僕は、いつから僕なんだろうって」
「ふうん・・・・・・卿人はわたしと会った時から卿人だよ」
「そうだね、生まれた日もいっしょだから、そうかもね」
「ちがうの?」
違う。
「違わないよ。その通りだよ」
「ねえ、卿人」
「うん? なんだい雪華」
「誰のこと、考えてたの?」
どくん。
「なんで?」
「だって、そんな顔してる」
「僕の知り合いなんて限られてるよ」
「うん・・・・・・でもなんか、なつかしそう」
ちがう。いや、ちがわない。
「僕じゃない僕の、友達のこと」
「女の子?」
「男の子」
「ほんとにぃ?」
「ホントホント」
雪華の頭に手を置く。
そのままさらさらと髪の毛をもてあそぶ。
「その男の子は、雪華みたいな女の子が好きで。その子も、その男の子が好きで」
「うん」
「でも僕は、ここにいる雪華が好きで、それは裏切りになるのかなっておもぶふう!?」
突然頭を胸元に抱えられた。
強い力で押しつけられる。
薄い胸は、それでもわずかな膨らみと柔らかさで、女の子だと主張していた。
「卿人」
「もが」
「わたしも好き!」
あ。
今なんのひねりも無く自然に好きって言ってたな、俺。
雪華は拘束を緩めると、横向きでにっぱーと笑った。
「じゃあしあわせな気分だから寝るね!」
「まさかの無回答」
「じゃあ言う。どーでもいい」
「ひっでえ!」
「卿人の想像の友達を裏切るのがどうとか、わたしに似てる女の子がどうとかどーでもいい。わたしは卿人が好き。卿人はわたしが好き。それがぜんぶ」
「そっかー」
「感動薄くない!?」
「いや、拍子抜けしただけ。僕はそれこそつまらんことを考えてたな、と」
「卿人はつまらない人間だよ」
「絡むなぁ」
「絡んでくれる女の子がいるだけありがたいと思え」
「どこ目線だ」
「はなしをもどすけど」
「うん」
「卿人はわたしのどこが好きなの?」
「・・・・・・?」
「それ一番傷つくやつ!」
「じゃあ雪華は? 僕のどこが好きなの?」
「ぜんぶ!」
「じゃあ僕もそれで」
「全然嬉しくないよ!?」
「さ、寝ようか。明日は帰る準備とお土産買わないとだからね」
「納得いかない・・・・・・」
そう言いつつも、俺の胸に鼻先をこすり付けて寝る体勢に入る。
本当に俺も、君の全部が好きなんだよ。
「おやすみ、雪華」
「おやすみ、卿人」
眠気は、すぐに訪れた。
このあと滅茶苦茶安眠した。
目の調子がわるくて気の利いた後書きが書けません。
そこ、目のせいじゃないとか言わないでくださいw
よろしければ評価していってくださいな。




