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1話-6 :魔法戦争ゲーム(サバト)【電磁魔砲(マギアエレクト)】

「出でよ魔光砲!」


 ……叫んでから10秒過ぎたが何もでてこない。

 少女と少年も攻撃を停止して杖を向ける朝日を見てポカンとした顔をしている。

「……アンタ、素人だろ?」

 特段の呆れ顔を込めて少女が言い放つ。

「そんな詠唱このゲームに存在しねえし、感じる魔力が低すぎんだよ。まだゲームをこなしてねえ証拠だ。それにトーシローじゃ感じ取れないと思うけど、アタイの魔力100とするならアンタ1だから。そこのホストの魔力を95として二人合わせて96。100のアタイには勝てない。分かったらすっこんでな!!」

 睨みを聞かせて咆哮する不良女子高生の罵声に朝日は圧倒されて数歩退いた。

「君、95って所が絶妙だね。誉め言葉として受け取っておくよ」

 やはりホスト青年もこのゲームのベテランなのだろう。女子高生の咆哮に少しも気圧されていない。

「そして少年。彼女が言うように下がっていた方が良い。初心者が無駄に潰されたらこちらサイドの敗北に近づいてしまうからね」

 微笑みながら朝日に言うホスト青年は優しい人柄を感じさせた。

「ていうかアタイら二人以外で単独行動している魔童子なんてフィールドで見た事ねーんだよ。魔力が1人1人低いもんだから、群れないと簡単に変身石破壊されちまう連中ばっかだからな。単独行動してんのはアタイみたいな余程の実力者か入りたてのトーシローかのどちらかなんだよ」

(そういえば魔法王が見せた映像の中で魔法女王とかいう人が500人ずつと言っていた。このサバトというゲームでは500人ずつの魔法少女、魔法少年が戦い合っているということ。確かにそれだけの人数なら集団での協力プレイは必須だ)

「いや、僕は一人でいるの気楽だからって理由だけだからね?君みたいな自己中と一緒にしないでよ」

「何が自己中だ! テメェが他の魔法少女口説きまくってんのは知ってんだよ! アタイが孤立したのもアタイのダチ、テメェが口説きまくって内部分裂させたからじゃねえか! アタイにもあんな臭いセリフ吐いておいてこの女の敵が」

 どうやらこの対決は浮気相手への復讐現場ってことらしい。魔法使いというファンタジー要素の欠片もない。

「せっかくの男女分けバトルなんだから敵とも楽しく戦いたいでしょ?」

「テメェの手口は知ってんだよ。落とした女に『このゲームに勝ったら、願い事で君を幸せにする』とかほざいて女に自ら変身石を破壊させてリタイアさせる。汚ねえ男だ」

「僕は願い事で魔法少女皆を幸せにしてあげるつもりだよ」

 ギャルの剥き出しの怒りに笑顔で返すホスト。

 この二人のせいで朝日の魔法使いに抱いていたメルヘンなイメージがどんどん崩れていく。

「さあ、ビギナーなんて無視して続けるよ!」

「ええ、いつでもどこからでも」

 二人は再び戦闘を開始した。

 互いの杖からの光線を避けては発射する攻防戦が再開する。

 その二人の戦闘を朝日は棒立ちで見ているしかなかった。

(……何これ? せっかく魔法使いになれたのに魔法も使えない。魔法を使いこなす二人の戦いを指を加えてみているしかない?

 しかも、たかが夢の中で?)

 朝日の内側から劣等感と失意が込み上げてきた。

 小学生の頃、将来の夢に「魔法少年」と書いたこともあった。

 勿論、物心ついた時からそんなことを口にはおろか、思いすらしなくなっていた。

 特に小6の冬の「あの日」からは。

 もしこの夢が悪夢のような出来事が起こってしまった「あの日」という現実を忘れたいために見ている夢だとしても。自分の弱さ、無力さを全身で味わった「あの日」の痛みを紛らわすための夢だとしても……。

「夢の中くらい、強くいさせろ!」

 朝日は咆哮し、激高した。決してホストとギャルに向けてではなく、この弱さを思い知らされるだけの「自分が見ている夢」に対してだったが……。

 この咆哮はオレンジギャルに敵対行動ととられてしまった。

「ビギナーが……。初期勢なめんじゃねーよ」

 オレンジギャルは咆哮した朝日の方に杖を向け、拳銃から弾丸を飛ばすかのような所作で光線を発射させた。

 光線は朝日の左頬すれすれを通り抜け、頬を焦がした。

「あっつ!」

 朝日の左頬に痛みが広がり、両手で押さえる。

 しかし、光線を食らった感触からあの光線が電気を帯びていることに気づいた。

 彼女はどうやら電撃を使う魔法少女らしい。

「彼女の二つ名は”電磁魔砲(マギア・エレクト)”。さっき名乗っていた通り、このゲームが始まった3年前からの初期プレイヤーだ。君とはキャリアが違う。さっき下がっていろと言ったばかりなのに……」

 ホスト青年は「呆れた」と言いたげな台詞を、なおも微笑しながら言う。

 彼は侮蔑の台詞を他人に向ける時も常に爽やかさを崩さないで言うタイプなのだろう。

「人の通り名勝手に教えてんじゃねーよ。……まあ、どうせ記憶消されて覚えてらんないからいいか」

 先程の光線を味わった恐怖で地に膝をつけて足を動かせない朝日にオレンジギャルがゆっくり近づく。

 止めを刺しに来るつもりだ。

 朝日の頬の痛みは「これが夢ではなく現実」であることを自覚させるのに充分だった。

「あばよ」

 2メートルもない電撃の射程圏内まで来て、杖先を朝日の首にかけるペンダント、変身石に照準を合わせる。

 そして――電気の塊が杖から発射された。

 塊が朝日の視界を光で覆う。


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