1話-4:魔法戦争ゲーム(サバト)【サバト八つの基本原則と願い方について】
朝日の視界には夜の荒野が広がっていた。空には大きな満月が。月の光が地上の砂と小岩だらけの地上を微かに照らしている。
朝日は平野のど真ん中に突っ立っていた。
『小僧、ワシの声がきこえるな?』
夜空から魔法王の声がした。
おそらく、頭の中に直接声が聞こえているのだろう。これは所謂テレパシーのようなものだろうか。
『フィールド内におけるサバト基本原則を直接脳内に叩きこんでやる。嫌でも覚えられるだろう』
次の瞬間、8つの過剰書きの文字列が脳内に浮かび上がった。
――フィールド内におけるサバト基本原則その一『範囲』
:フィールドは半径20〜30kmの円形で範囲外にはバリアが張られている。
――フィールド内におけるサバト基本原則その二『時差』
:ソーサリーの時間は下界(人間世界)の60分の1で流れるため、下界に戻っても1分の出来事で終わる。
――フィールド内におけるサバト基本原則その三『試合時間とノルマ』
:1試合1時間で行われる。ノルマは10試合で最低1人の首にかけている変身石を破壊すること。これを達成できなかった場合、魔童子の資格を剝奪し、ソーサリーや魔法に関する記憶を消去する。
――フィールド内におけるサバト基本原則その四『救済措置』
:死の危険がある場合、変身石の自動機能で所有者は強制離脱させられる。この機能のため必ず死人が出ない。しかし傷により強制離脱した場合も資格を剝奪する。
――フィールド内におけるサバト基本原則その五『傷』
:サバト最中で重大な怪我を負っても下界に戻る時には完全に癒えている。
――フィールド内におけるサバト基本原則その六『違反行為』
:同性の味方を故意に攻撃した場合、ペナルティが課される。
――フィールド内におけるサバト基本原則その七『杖の支給』
:全ての魔童子はユグドラシルの世界樹の幹を加工した12cmの杖を1本ずつ与えられている。長さ、色共に例外はない。
――フィールド内におけるサバト基本原則その八『勝利報酬』
:魔法少女、もしくは魔法少年の変身石が全て砕かれた時点でゲーム終了。勝ち残った性別チーム全員の願い事を1つ、変身石に叶えて貰える。ただし、願い事は実現不可能性が高ければ高いほど、チームに大きな貢献をしなければ叶えられない。より多く、より強い敵を倒すことが、叶えにくい願い事を叶えることに繋がる。
朝日の脳内に垂れ流されている文字列をアナウンサーと思われる女性が機械的な口調で読み上げた。録音ボイスだろう、魔法の。
女性のボイスが終わるとすぐに魔法王がルールを再説明し始めた。
『脳内に直接送られているだろうが改めて重要なことを口頭で伝えておく。制限時間は1時間。ノルマは10試合で最低魔法少女1人の変身石を破壊すること。このノルマが達成できない者からは変身石を没収し、魔法少年としての資格を剝奪する。無論、魔法少女サイドも同じルールだ。「人を傷つけられない」等とぬかされては変身石の無駄遣いだからな。没収した変身石で代わりの魔法少年をスカウトする』
ここで「ハァーッ」と王が嘆息した。
『1人も倒さないまま10試合目で脱落する腑抜け新人魔童子の多い為に石の総数が減らず、ゲームが進行しないという時期もあった。ゲーム初期の180年前……人間界単位での3年前から何度入れ替わってきたことか……』
魔法王の呆れ声が脳内に響く。
「そのゲーム、僕に何かメリットあるんですか?」
夜空に浮かぶ月に向かって問いかける。
朝日は選択権を与えられずに強制的に参加させられていることに腹を立てていたので、イラつきが王に伝わる口調で質問した。
この質問で初めて魔法王の笑い声を聞いた。
『ふふっ、基本原則その八をよく聞いていなかったのか?このサバト終了後、勝ち残った魔法少年、もしくは魔法少女には褒美としてどんな願い事でも一つ叶えてやることになっている』
(え、なんだその王道少年マンガみたいな設定は)
自分の見ている夢の設定に驚きを隠せない朝日。
「でも3年前からスタートしている人達がいて、貢献度で叶えてくれる願い事の大きさが変わるという事は、今から参加しても大した願い事叶えてくれないんじゃないんですか?」
夢に対して真剣な質問をするのも馬鹿らしいが、夢を楽しむ意味でも聞いておこう。
「貴様が敵500人の中で上位の強さの魔法少女を討ち取れば大きな貢献となる。または大勢倒すかだ。このどちらかを目指せば既存の魔法少年共より高い願いを叶えられる」
「その強い魔法少女を素人の僕じゃ倒せないのでは?」と言いたかったが辞めた。いわばプロスポーツ界みたいな物なのだろう。ぽっと出のルーキーが10年以上のベテランより優秀な事もある。
「願い事……。例えば不老不死でも金銀財宝でも願い事を100個にしろでも叶えられるんですか?」
次はあえて図々しい願い事を聞いてみた。こういうので実は死んだ人は1人しか生き返らないだの、人を殺すなら願い事を叶えてくれる者より能力が劣る人のみだの、実は制約がありました等と後から言われても困る。
『願い事100個以外ならどんな願いでも叶えてやる。貢献度に応じてな』
王は真面目に答えた。空から声が聞こえるだけなので声色で王の感情を判断せざるを得ない。今の声色はただ淡々としていた。
「例えば、『不老不死と金銀財宝、両方くれ』と言って2つの願いを1つにまとめるのはありですか?」
『……ああ、貢献度次第では叶うだろう』
(2つの願いを1つにできるのか。それなら……)
朝日の脳裏に二人の人物の背中がよぎる。
(例えこの状況自体が夢でも、まあまあやる気が出てきた)
荒野のど真ん中で一人でほくそ笑む朝日。
そこに突如、大きな爆発音が響き、朝日の視線を向けさせた。
銀色の煙がモクモクと上がる。
視線を煙下に向けると二つの三角帽子……片方は銀、もう片方はオレンジ……が見えた。