どこかの桜
朝早く、偏頭痛が始まった。
仕方なく、脳神経科の先生に
診てもらった。
薬の点滴を受けながら、
病室の天井を見ていると、
いつの間にか眠っていたようで……
……どこか、山奥にある温泉街を、
一人歩いている自分がいた。
連なる店先には、
人形や饅頭の土産物が並び、
すれ違う、意味深な男女が
目についた。
そんな欲求があるのか。
遠くへ行きたがっているのか。
温泉街のはずれまで歩くと、
そこから先は、
ありふれた都会の雑踏だった。
とても、先に進む気には
ならなかった。
引き返そうと、後ろを向いたとき、
看護師に呼ばれた。
頭の痛みと吐き気は消えていた。
どうも、ありがとう、楽になりました。
大丈夫ですか。無理しないで下さい。
彼女は、今日も愛想いい。
ベッドから降りて、
仕事場に行こうと、歩いた。
温泉街を歩いていたのは、
自分だったのか。
薬のせいか、頭がふらついた。
生きている間、それは短い。
出かけてみるか。
眺めてもいいだろ。
二人して、どこかの桜ぐらい。