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死者の恋  作者: 泉野ジュール
第四章 汝、燃え尽きるまで
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熱風 5


 それからデラールフは、ローサシアがまだ見たことのない首都の様子を話してくれた。


 首都・ラザヌスはこの町よりずっと温かくて、雪はまだ降っていないが雨ばかり続いていたこと。背の高い建物が続く大通りの賑やかさ。貴族、騎士、商人、奴隷……。

 そして集まった《能力》を持った者達のこと。様々な《能力》の持ち主が大陸中から集まり、国王軍で一旗あげるためにひしめいていたという。


「でも、デラほどすごい《能力》を持ったひとなんていなかったでしょう?」

「お前はこれを『すごい』と表現するんだな」

 デラールフはかすれた声で笑った。


「もちろん。他にどう言えばいいの?」

「『不気味な』、『人間業ではない』、『恐ろしい』、『呪われた』……。まあ、いくらでもある」


 デラールフは自嘲ぎみにいくつかの表現を上げたが、その言葉には現実味があった。実際に言われたことだと容易に想像がつくし、そのうちのいくつかはローサシアも耳にしている。


 彼の代わりに悪意ある言葉を受けられたらいいのに、とローサシアは思った。

 デラールフが傷つかずにすむなら、自分が盾になりたい。


「そんなの……言いたいひとには言わせておけばいいわ。誰もデラのすごさをわかってないんだから。可哀想なひとたち」

「いいんだよ、ローサシア。俺は気にしていない」

「わたしが気にするの」

「その気持ちだけ受け取っておこう。ローサ、お前だけは俺の──」


 そこでデラールフは言葉を止めて、じっとローサシアを見つめる。

 まるで彼自身が口にしようとした言葉に驚いて、呆然としているみたいな顔だった。かわいい、と思ってしまう自分がいる。

 男性み溢れる容姿のデラールフを「かわいい」と思う人間は少ないだろうけれど、ローサシアにとっての彼は、やはり時々可愛らしい男性だった。


「……俺の理解者だ」


 デラールフは結局、そういう結論をつぶやいた。

 ローサシアとしては期待外れだったけれど、かといって傷つくような答えでもない。同意にこくりとうなずく。


「それで、最初に話があるって言ったのは、なあに?」


 当初の懸念に反して、デラールフが(彼にしては)明るく振る舞ってくれたので、ローサシアは特になんの心配もせずに聞いた。デラールフはその印象的な黒い瞳でローサシアを見つめたままで、姿勢を正す。


「俺は確かに国王軍には入らなかった……が、必要になれば召集されることになっている」

「え?」

「そのために今後は定期的に首都に出向かわなければならない。いざというときのための訓練のようなものだ。向こうから俺の《能力》を見るために使いが来ることもある。そんなに頻繁ではないだろうが」


 ローサシアは自分の顔から血の気が引くのを感じた。言葉に横っ面を張られたようなショックだった。鼓動が高鳴る……決していい意味ではなく。耳鳴りまでしてくる。


「デラは首都に……行ってしまうの?」

 できるだけ平静を装ったつもりだったが、おそらく成功はしていないだろう。

「時々だけだ。多分、月に一度」

「それでも多いわ。それに訓練なんて危なくないの? いざというときだなんて、まるでデラを便利なモノみたいに扱って……」

「ローサシア」

 自分の名を呼ぶデラールフの声には、戒めと憐れみが混ざっている気がした。


 だって、デラールフほどの力の持ち主がこんな田舎町に居続けていいはずがないと思ったのは自分だ。デラールフ自身が首都に行くのを嫌がっているわけでもない。

 ローサシアに反対する権利なんてない……。わかっている。


 でも。

 でも、想いは理屈なんかじゃない。

 デラールフと離れられないと疼く気持ちは、理性や分別で抑えられるものではなかった。

 ローサシアの瞳に透明な涙が浮かんだ。



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