表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者の恋  作者: 泉野ジュール
第三章 あなたがいるから
PR
16/26

淡き想い 3



 食卓を片付けて自室に戻ったローサシアは、落ち着かない気持ちで窓の外を眺めて過ごした。

 もう高齢の域に入っている両親は、久しぶりのご馳走作りやお祝いの席に疲れたのだろう、すでに眠入ってしまっている。


 外の寒さのせいで窓ガラスには霜がかかっていて、見えるのは漆黒の闇だけだ。

 墨で塗ったような冬の闇。


 でも、家の中は温かい。

 どうして温かいのか、ローサシアは知っている。デラールフが居間の暖炉の火を保ってくれているからだ。彼の《能力》は日に日に増していく。もう火を操るせいで頭痛がするとか、間違って焼くつもりのないものを焼くとか、そういった間違いをすることもなくなっていた。


 デラールフは強い。

 強すぎるくらいに、彼の《能力》は異能だ。

 多分……彼はもうこんな田舎の集落にいるべきではないのだろう。王都へ行けばいくらでも仕事が見つかるはずだ。大工としても……「火」を操る戦士としても。


(いつかそんな日が来るのかな……。デラールフがいなくなってしまう日……)


 そんな未来を想像するだけで、ローサシアの目頭は熱くなる。

 彼はもう二十四歳。

 結婚していてもおかしくない歳だし、独立できるだけの技術も能力もある。デラールフとローサシアの間に秘密はなかったが、彼がなぜこの小さな集落を離れないでいるのかについては、答えを知るのが怖くて聞けなかった。


 ローサシアはデラールフが好きだ。

 そして今日、ローサシアは十六歳になった。もう大人だ。少なくとも、子供ではない。彼に女として意識して欲しい……そんなに贅沢なことだろうか?


「?」


 窓の外の漆黒に、突然小さな白いものが揺らめいて、ローサシアは立ち上がった。

 すーっと揺れ動いたと思うと窓に近づき、ぼんやりとした白い光が大きくなっていく。ローサシアは窓を開けた。


「デラ」

 獣の毛を使った外套をまとったデラールフが、右手に白っぽい炎を宿して立っていた。

「ローサ」

 彼は炎のない左手をローサシアに差し出した。

 多くを語る必要はなかった。ローサシアは自然に手を伸ばし、デラールフも自然にそれを握る。革手袋に覆われた大きな手にぐっと掴まれると、ローサシアの体は急にふわりと浮いた。

「わっ」

 デラールフの炎がローサシアの足元で渦を巻き、熱風を吹き上げてローサシアを持ち上げたのだ。

 もちろん、ローサシアがその熱に焼かれるようなことはない。

 ローサシアはすとんと窓の外に着地した。


「デラ……! いつのまに、こんなことができるようになったの?」

「お前が女学校に行っている間、暇だったんだ」

「すごいのね」

「さあ……。そんなに使い道もないしな」


 デラールフが《能力》を自慢したことは一度もなかったから、その無頓着さは不思議ではなかったけれど、これは驚くべき技能だ。しかも彼はまったく難なくそれをやってのけた。

 驚きに目を見開くローサシアに、デラールフは静かなため息を吐いた。彼の口から白い靄が立ち上る。ローサシアは思わずその様子に見惚れた。


「風邪を引くといけないから」

 と、ぼそっとつぶやくと同時に、デラールフの炎が薄い膜として広がり、ローサシアの全身を覆った。

 部屋の中が温かかったので、ローサシアは冬の夜に外に出るには薄着すぎる格好だった。それでも、デラールフの炎に守られたローサシアの体は心地よい温もりに包まれている。


 火を残忍だと言ったのは誰だろう。

 こんなに優しいのに。

 こんなに温かいのに。


「デラは寒くないの?」

 デラールフの手を握りながら、ローサシアは彼を見上げた。

「まさか」

 デラールフは少女の手を握り返して、彼女を森へいざなう。

 ふたりは手を繋いで、森の中へ入っていった。


 デラールフの右手には、まるでランタンのように足元を照らす炎がある。ローサシアの体は炎の膜に淡く発光しながら、森の奥へ吸い込まれるように小さくなっていく。


 雪がないのが不思議なくらいに冷たい夜だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ