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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者の荷物持ちは絶望を知る

作者: 片魔ラン

一人称視点の練習です

「は、ハアアア!?」

「ほんっとうに申し訳ありません!」


 なにやら見覚えのある真っ白な空間で目を覚ました俺の前で見惚れるような土下座を決め込んでいる絶世の美女。彼女の発する言葉に憤慨した俺は、絶賛大暴れ中だ。


「謝ったら俺の千二百年が戻ってくるのかよ!彼女が戻ってくるのかよ!!」

「弁解の余地もありません!!!」

「なんで今更知らせたんだよ!」


 謝る事しかしない女に苛立ち、髪を掴んで顔を上げさせる。

 しかし、彼女の瞳には涙は浮かんでおらず、表情筋すら一切動いていなかった。そうか、形だけの謝罪か。怒りを向けても意味がないと悟った俺は彼女の頭を離し、これからの身の振り方を思案することにした。


 そもそも何故、こんなことになっているのか。話は千年以上前まで遡る。


 あれは俺が幼馴染に一世一代の告白をし、受け入れられた日の夜のことであった。俺は原因不明の脳出血に倒れ、そのまま世を去ったのだ。

 そんな俺をあの世で出迎えたのは今さっき目の前で土下座をしていた女。自称女神のそいつは、俺を異世界『ウルガンティア』に転生させるからいつか現れる勇者をサポートしろ、と言ってきたのだ。拒否権はなく、報酬として幼馴染が元の世界で俺を忘れずに死んだ場合、俺がいる世界に記憶を持ったまま転生させる、と言われた俺は彼女の話を受け入れた。


 そして、始まった異世界生活。成長が遅く、寿命がないに等しい天族の男の子として生まれた俺に、与えられた天職は『荷物持ち』。前例がなく、どう解釈しても下級職であるのに、両親は俺を見放すことなく、天族の独り立ち年齢である四百歳まで育ててくれた。

 そして、来るべき勇者を支えるために世界の情報を必死に集めながら、己を鍛え続けた俺が世に放たれたのと時を同じくして、勇者が現れたのだ。

 

 一人目の勇者は俺と同じ地球から召喚された、元親友の青年だった。ウルガンティアでも俺の一番の友人となった彼は、ハーレムパーティーを築きあげながらも必死に戦い、八年の歳月をかけて魔王の討伐を成し遂げる。そして、その後は百人を超えるハーレムの中で幸せに暮らし、八十九の時に逝った。…と、されている。

 彼の史実上での死後、俺は役目を終え、冒険者として世界を放浪していた。だが、そんな生活も二十年で終わりを迎えた。俺に与えられた役目は“勇者のサポート”、であり、勇者が現れればいつでも馳せ損じなければならなかったのだ。


 二人目の勇者はウルガンティア出身のクズであった。公爵家の兵士であった頃に素質を見出され、隣大陸との戦争の旗頭として“勇者”に祭り上げられた男。彼はその身分を持って人妻を略奪し続け、陵辱の果てに夫と共に殺すと言う性癖の持ち主であったのだ。彼は勇者の職から解放され次第、俺が殺した。

 そして最後の勇者はまた、異世界から喚ばれた少女だった。彼女が召喚された理由は暴虐王の欲を満たすため。最初の勇者召喚から八百年余りが経っていた当時、喚ばれし勇者は見目美麗で与えられし使命に忠実、と信じられていたのだ。そのことを知った大国の王は力と妾を手に入れるため、彼女を召喚。俺がそのことを知り、彼女を救い出したのは王が最初の褥を彼女に命じた夜であった。

 使命無き勇者はそれから俺と帰還方法を探す旅に。結果、帰還方は見つかったものの、俺と同じ天族へと変えられてしまった種族を戻すことは叶わず。元の世界で永き時を移ろう事を嫌った彼女は、俺と、そして旅の途中で仲間となった一人の令嬢と生涯を共にすると決めたのだ。

 そして、ウルガンティアの慣習に倣い、結婚の報告を神に捧げに教会に足を運んだ俺を待っていたのは絶望の報せであった。突然神の空間に呼ばれた俺に告げられたのは、幼馴染の転生とその末路。

 なんと彼女は、とっくの昔に神の不手際で記憶をリセットされて転生していたと言うのだ。時期は二人目の勇者が現れるちょっと前。順調に育ち、やがて幸せに結婚をしたらしい彼女は、あの忌々しい勇者擬きの毒牙にかかったのだと言う。彼女が言葉にするのもおぞましいような陵辱の果てに死んだ時、神は己のミスに気がついたのだと言う。

 当然、一度消された記憶を戻せるはずもなく、また、彼女の魂が修復不能な程壊れていたため、神は彼女と言う存在を輪廻の輪から外し、消したのだとか。


 そして、今に至る。

 今更俺に報せてなにになると言うのか。出来るならば知らされず、長年縋ってきた彼女との再会と言う夢を壊されることなく生きたかった。俺が死んだせいで、彼女と再び出会うことを望んだせいで、彼女は壊れたと言うのだ。神はそこまでして俺の心を折りたかったのか。

 しかし、覆水盆に返らず。目の前のゴミは俺に情報を与えてしまったのだ。


「…ては……ションをよう………ンジ、ケンジよ!聞いていますか?」

「あ゛?」


 聞いてますかもなにもお前の話なぞに耳を傾けるものか。


「貴方には二つの道を用意しました。」

「は?」


 簡単な約束ひとつ守れねえようなお前が提示するものなんぞに興味があるもんかって言うの。


「一つ目は過去に戻る道。これは私の力を持って貴方を過去に飛ばします。そうすれば彼女は記憶を失うことなく転生し、貴方も彼女を積極的に探せるでしょう。隔離した世界を作りますので世界に与える変化はありません。心配は無用です。」

「…」


 一見メリットしかないようにも感じるが、デメリットもある。隔離した世界と言うことは多分輪廻転生の輪からも外れているのだろう。多分彼女の転生を最後にその世界には誰も生まれず、荒廃していく。

 しかも、世界が変わらないってことは俺が二つに分かれ、片方は元の流れに戻されるってことだ。


「…たしかにそうです。しかし、この方法でなければ貴方は想い人と再会できません。」


 たしかにあいつには会いたいが今の俺には守る家族がいるんだ。それを捨てるわけにはいかない。


「そうですか。では二つ目の道です。ここでの出来事をなかったこととし、貴方を元の場所に戻します。ついでに勇者のサポート、と言う使命も剥奪させていただきます。本来貴方に課されたのは最初の彼のサポートだけでしたので。」

「……それでいい」


 そう、それでいいのだ。あいつは夢。かつての俺を忘れないための道標。きっと、俺らは結ばれる運命になかったのだろう。今まで通り、全てを知らず、いつか来るであろう永遠に来ない日を夢想するだけだ。

 ただ、今、この時だけは泣かせてくれ。千二百年生きた俺の生涯の百分の一にも満たない時間を共に過ごしたかつての想い人のために。俺のせいで二度も絶望を味わった彼女に一度も、ただの一度も愛を囁けなかったことを悔ませてくれ。


「憐れなる者よ。これから其方を使命の呪縛から解き放つ。ここでの全てを忘れようとも、其方は二度と勇者に傅く事はないと誓う。…あーちゃん。ばいばい。」


 ちょっと待て。今目の前の女はなんと言った。その名は、その声は、そのリズムは。紛れもなく彼女…ああ、そうか。彼女の魂は抹消されたのではなく女神に統合されたのか。そうか…なら、いい。彼女はいるのだから。いなくなってなどなかったのだから。祐美、今までありがとうな、ごめんな、そして、


「愛してたよ」



評価宜しくですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと目に付いたので誤字報告をしておきます。 あらすじ ①愛した女性といつか再開できる、と女神に約束され、勇者の荷物持ちとして幾星霜の時を過ごした主人公。→…再会できる、…
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