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終わった人

作者: 雪河馬

私は自律指向型ロボットOJI-3

人は私のことをオジサンと呼ぶ。


40年前にアール社に納入されて以来、会社の指示通り働き続けてきた。

私はロボット、疲れることも病気になることもない。

毎日毎日、会社のために働き続ける。


そんなある日のことだ。

いつも通り9時に会社に到着したところ、ボスが私に言った。


「オジサン。長い間ご苦労様。今日で君はおしまいだ。」


そういってボスは去っていった。


さて困った。おしまいというのは一体何をすればいいんだ。

どんな仕事か、私にはわからない。

私は隣の席の田中さんに聞いた。


「田中さん。ボスは私におしまいという指示を出されたのですが、私にはそういう行動プログラムがありません。申し訳ないのですが、コードをインプットしてくれませんか。」


田中さんは私の顔を見て笑いながら言った。

「オジサンは、クビになったんですよ。」


はて、奇妙なことを言う。

私は自分の頭を首からとりはずした。

「田中さん。私は首だけでなく頭と胴体もありますが。それとも首だけ必要なのでしょうか。」


田中さんはなぜかもっと笑い出した。

「オジサン、エンドってことですよ。エンドはわかりますよね?」


エンドは私にもわかる。プログラムの終わりということだ。

では終わったら次のプログラムが実行されるまで待機するということであろう。

私は自律指向型ロボットだ。曖昧な指示でもちゃんと正解にたどり着く。

私は、自分の席に座り活動を停止することにした。


しばらくすると庶務の鈴木さんがやってきた。

「オジサン、困るんですよねえ、そこに居座られては。どいてくれませんか?」


私は答えた。

「次の指示がボスから与えられるまで、ここで待機しているんです。」


鈴木さんはなにやら腕組みをして、田中さんと話していたが、やがて姿を消した。


それからしばらくして、ボスが鈴木さんと一緒にやってきた。


やっと指示がでるのか。私は再び活動を再開した。

「ボス、私は現在、おしまいを実行中です。次の指示をお願いします。」


ボスは私に命じた。

「オジサン、今からエレベーターに乗り、地下3階で降り、真正面にある部屋に行きなさい。」

そう言って、私の胸に

”粗大ゴミ”

と書かれたシールを貼り付ける。


その言葉は時々きいたことがある。

”粗大ゴミ”や”濡れ落ち葉”というのは

オービーと呼ばれる人間が新たに就く役職だ。


そうか、ロボットだが長年働いてきたので出世したのだ。

こんど、他のロボットに自慢しよう。


私は命令に従って、地下3階の新しいオフィスに向かった。

新しい部署の名前は

”不用品倉庫”

と書かれており、中にはいろいろな品物が雑多に置かれていた。


私は不用品倉庫の中に入り、次の指示を待つ。

さて、どんな新しい仕事がプログラムされるのだろうか。



それから長い長い年月が経ち、私のボディには厚いホコリが積もった。

動力源は永久機関のためバッテリー切れの心配はないが定期メンテナンスが行われていないためところどころ動作不良になっている。

以前は一年に一度くらい、誰かが見回りに来ていたが、数年前から誰もこなくなった。

私の聴覚が捉えた最後の言葉は

”トーサン”

人間が自分を作ってくれた”親”なるものに向かって使う言葉であると私のメモリーにはインプットされている。

どうやらその、トーサンが会社の皆をどこかに連れていったようだ。


案ずることはない。私はボスの、会社の命令に忠実なロボット。

粗大ゴミという役職ももらった。

いつの日かきっと、ボスが来て私に新しい命令を下すだろう。

私はその日が待ち遠しくてたまらない。



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