探索1
先生達は、教室で待機するように言い残し、職員室へと向かって行った。
時神空が全身で喜んでみせた窓の外の景色は、学校を恐怖と混乱に陥れたように見えたが、必ずどのクラスにもいる怖いもの知らずの何人かが喜び勇んで校庭に走り出て、360度+自分をスマートフォンに記録しまくっていた。
「あーあ、ホラー物で一番最初に犠牲者になる連中だよ。まあ、役に立ってくれそうだけどね」
「お前………こんな状況で…………シャレにならないぞ」
強がたしなめるが、まるで気にしない。
「ふふん♪」
空はいかにも楽しそうに、外ではしゃぐ連中を見下ろしていた。早くもクラスからは数人が出ていって、情報収集に向かっている模様。クラスに残るのは、動くに動けない大多数の人間たちだ。
混乱が収まっていないとか、これは夢だと居眠りをしようとしてたりとか、仲が良いもの同士で固まってヤバイヤバイと繰り返してたりとか、スマホの電波がどこかで通じないかと部屋の中を動き回っていたりとか。
「あはは、転校初日から異世界とか超ヤバイよね!大丈夫?名前なんてゆーの?日本語しゃべれんの?」
「アー、少しダケ。名前は、マリー=ライトウェル。日本は、metastasis流行っテル聞きましたガ、こういう歓迎もポピュラーですか?」
「あっは!ナイナイ!ウケるーー!!」
その中でも特に所在なげにしていた転校生に、詠が空元気を振り絞って話しかけていた。転校生の容姿と口ぶりから、外国人であることは明白だ。校庭を走り回る連中に何も起こらないと見た空も、そこに合流する。
「綺麗なブロンドだね。どこから来たの?」
「センキュー。わたし、ライから、キマシタ。ライ麦ジャナイヨ」
「へえー、有名な田舎町だ。だからかな、雰囲気が馴染んでるよ」
ちょっとしたユーモアを無視されて、マリーが苦笑いする。
「それって、ここが田舎って意味っしょ?わかるけどー」
「ハイ、ライは、田舎デス」
ふんわりと転校生が笑うと、空気が緩んだような気がした。そんクラスの雰囲気も釣られて柔らかくなり、暫くの間ゆるい時間が過ぎていった。
が、それは束の間の休息だったのかもしれない。
学校が置かれている状況が整理されるにつれて、誰の顔からも余裕が失われていった。
この転移現象に巻き込まれたのは、若干の中等生、初等生を含む200人余りの生徒と30人程の教職員。
電気、ガス、水道は繋がっておらず、食料も全員が消費するならばギリギリ一回分しかない。空が言った通り、これは大規模なサバイバルなのだ。
座して死ぬよりはと、有志の調査隊が組まれる流れとなり、率先して参加を表名した空に、空が行くならと、詠、強も参加し、詠の他に知り合いもいないマリーもあとに続いた。
「これからチーム毎に探索してもらうが、何か収穫があっても無理はするな。周りのチームにすぐ助けを求めるんだ!」
「「はい!」」
中等部の体育教師の号令で、それぞれのチームが散開していく。空を中心とした4人グループもまた学校の南西側、樹海を割るように存在する山の入り口へと向かっていた。