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聖女よ、我に血を捧げよ  作者: 長月京子
第十四章 アラディアと聖なる光(アウル)
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4:崇高な一族(サクリード)の終焉

 再びアラディアがシルファを見つめた。


「聖女への崇拝は認めましょう。ですが、聖女もあなたと永遠に歩むことは出来ません。彼女を失った時、あなたには哀しみを癒す者が必要でしょう」


「それが自分だと言いたいのか」


「真実を申し上げているだけです」


「――おまえは、最後まで愚かだな」


 労わるようにシルファが呟いた。


「もう、終わりにしよう」


 彼がすうっと両手を掲げる。新たな光が描かれはじめた。複雑な模様を編み上げるように、光が伸びていく。ミアは眩しさに思わず手をかざした。翠光子(アルカフェルム)の光を呑みこむように、シルファの手から描かれた複雑な模様が発光する。


「何をなさるのです!?――まさか!」


 アラディアの悲鳴が聞こえた。

 光に吞まれて彼女の姿が見えないが、心臓の放つ赤い光だけは明瞭だった。シルファの放った魔法陣が、その赤い光を捕らえる。シルファがミアを振り返る。


「ミア、ここは危険だ。もっと落ち着いた状態で見送りたかったが、仕方がないな。道を開くから、行くといい」


「でも! シルファは大丈夫なの?」


「――もちろん」


 ミアの目の前で、虹色に輝く光が新たな道を開く。彼方へと通じる道。


「シルファ、でも――」


 心残りがありすぎる。心配でたまらなかった。無事にアラディアを捕らえることが出来るのかどうか、それだけでも見届けたい。いつの間にか長く伸びた彼の銀髪が、魔力にあおられるように閃く。


「この機会を逃すとおまえを帰せなくなる。だから、早く――」


「ミア!」


 駆け寄ってきたセラフィがミアの背中を押した。


「ミア、早く行ってください」


 セラフィが泣いていた。彼女は涙を拭うこともせず、さらに強くミアの背中を押す。咄嗟にベルゼを振り返ると、彼はひっそりと佇んだまま、目頭を押さえて俯いている。


「でも……」


「帰れなくなりますよ!」


 魔力が吹き荒れて、辺りに赤い光が弾けている。とても綺麗なのに、どこか破滅的な危機感があった。自分がいると迷惑をかけるのかもしれない。ミアは見届けることを諦めた。虹色の光へ向かい、ゆっくりと輝く道へと踏み出す。


「振り返らずに、行ってくださいね!」


 セラフィの声が響く。


「さようなら、ミア」


「うん……、う、く」


 こらえきれずに涙が溢れた。ミアは嗚咽を漏らしながら、振り返らずに虹色の道を歩きはじめた。






 元世界へ続く道に姿を消したミアを見届けて、シルファは安堵する。

 約束は果たせた。彼女は無事に家へと帰れるだろう。


 ミアと過ごしたひとときを、シルファは噛み締める。永い時の中で、心が動いた眩しい記憶。

 こんな想いを抱えて逝けるのなら、悪くない。


「シルファ様」


 セラフィが傍らでしゃくりあげるようにして泣いている。ベルゼを見ると手で顔を覆ったまま立ち尽くしていた。


 自分の最期に立ち会わせることを申し訳なく思うが、仕方がない。

 シルファは決意を(たが)えることなく、アラディアの手の中の心臓から、そのまま魔力を放出する。


 命が尽きるまで。


 翠光子(アルカフェルム)の園を焼き付くし、マスティアには一連の事件について、喪失の雨を降らせる。全ての辻褄を合わせることは難しいが、あとは影の一族(シャドウ)がうまく処理してくれるだろう。

 それで終わりだった。


 アラディアはシルファの心臓を抱きしめたまま、顔色を失っていた。がくがくと体を震わせているのが伝わってくる。


「なぜ? なぜ破滅を選ぶのです?」


「一族の招いた事に、責任を取るのが私の務めだ」


 彼女には永遠にわからないだろう。自分の抱えるこの世界への――、人への思い入れは。

 だから、伝えられることなど何もない。


「終わりだよ、アラディア」


 シルファの長く伸びた銀髪が舞い上がる。消耗と引き換えに、圧倒的な力が放たれた。

 びしりと、彼女の手にあった心臓に亀裂が走る。鼓動の輝きが失われた。


 美しい破砕音と共に、赤い光が砕け散る。同時に、胸の空洞から生まれた衝撃がシルファの身体を貫いた。裂けた胸から血がほとばしる。


 綺羅綺羅と、赤く美しい光が舞った。

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