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聖女よ、我に血を捧げよ  作者: 長月京子
第十一章:仕掛け

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2:ドミニオとの再会

 呟きが思ったより響く。正面扉で影の一族(シャドウ)ともめていたドミニオがミアに気づいた。


「ミア!?」


 ドミニオは驚いたように目を見開いてから、人懐こいほほ笑みを浮かべる。ミアはすぐに階段をおりて、正面扉の前に駆け付けた。


「どうしたんですか?」


「ちょっと立ち寄りたかったんだけど、今日は駄目らしいね」


 ミアが召喚されて間もないころ、離れの書庫は王家に開放されていると聞いた記憶があった。ドミニオは正真正銘の王子である。立ち入りは可能なはずだが、今はシルファが厳戒態勢を布いているのかもしれない。


「離れの書庫に足を運ばなくても、王子なら王宮の書庫を利用できるんじゃないですか?」


「王宮の書庫は立派すぎるよ。僕はこの離れの書庫が気に入っているんだ。人の目を気にせず独りで寛げる」


 ドミニオは悪戯っぽく笑って片目をつぶって見せる。美形だから許される茶目っ気のある仕草だなと、ミアは場違いな感想を抱いた。


 たしかに離れの書庫は王家にしか解放されていないせいか人気がない。ミアは以前と変わらず人懐こいドミニオが凶行な振る舞いをするとは思えないが、シルファが何かを警戒しているのなら自分には判断できない。

 ミアが力になれずに戸惑っていると、ドミニオが笑った。


「ミアを困らせる気はないから、今日は失礼するよ」


「王子。ごめんなさい」


「どうしてミアが謝るの? あ、そうだ、これをあげる」


「え?」


 ドミニオが掌に乗る程度の小さな包みをミアの手に握らせた。白い紙に包まれた中身はミアにも想像がつく。


「聖糖ですか?」


「そう。離れの書庫でお菓子をつまみながら時間を潰すのが好きなんだ。今日は教会に立ち寄って来たから、聖糖をもらってきたんだけど」


「せっかくもらってきたのに、王子はいいんですか?」


「きっとミアの方が美味しそうに食べてくれるんじゃないかなって」


 晩餐会の夜に、空腹に任せて傍若無人な食欲を披露したことを思い出す。ミアは顔が赤くなった。


「ありがとうございます。いただきます」


「うん。書庫で寛げないのは残念だけど、ミアに会えたから今日は良い日だね」


 ドミニオは屈託のない天使のような笑顔で笑う。王子の大袈裟な物言いへの嫌悪は、既に人懐こいという好意的な感想で上書きされている。ミアも同じように笑った。


「今日は教会に顔を出せそうにないし、嬉しいです。大切にいただきますね」


「いいよ、この前みたいに豪快に食べてくれたら。でも、そういえば教会では男の子がいなくなったって騒いでいたね」


「え?」


「ミアが見つけた子だって、噂では聞いていたけど?」


「まさか、もしかしてルミエですか?」


「ルミエ……。そんな名前だったような気がする」


 ミアが一瞬にして顔色を曇らせると、ドミニオが慌てたように付け加えた。


「ああ、でも、記憶を取り戻して本来の住処に戻ったんじゃないか?って、みんな噂していたよ」


「あーー」


 たしかにその可能性もある。ルミエは物心もつかないほどの幼児ではない。ミアは少し冷静に考えた。お別れがきちんとできないのは残念だが、彼には彼の事情があるのかもしれない。


「もし教会へ行くなら僕がお供するよ? 今日はここで潰すはずだった時間が余っているし」


 ルミエを思って、よほど不安そうな顔をしていたのだろうか。ドミニオが気遣うように提案してくれる。


「いえ。わたし、今日は少し貧血気味で調子が悪くて……。また明日にでも顔を出してみます」


 今はこの離れを出ることは避けた方が良いだろう。ルミエのことも気になるが、シルファに心配をかけるような振る舞いはできない。


「たしかにミアの顔色、よくないね。じゃあ、それはお見舞いだね。聖糖でも食べてゆっくり休んで」


「はい。ありがとございます」


「じゃあ、僕はこれで」


 ドミニオは正面扉から離れる間際、もう一度ミアを振り返って笑顔を見せた。


「元気になったら、またシルファと王宮にでも遊びに来てよ」


「はい」


 ミアが笑顔を返すと、ドミニオはひらひらと手を振ってゆっくりと歩き出した。

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