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聖女よ、我に血を捧げよ  作者: 長月京子
第十一章:仕掛け

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1:離れの書庫

 広い部屋に独りだけでとり残されてから、ミアは大人しく寝台で横になった。心が緩んだのか、少し眠ってしまったようだ。物音で目が覚めてがばりと飛び起きた。


 横になっていたせいか、失った血による眩暈も和らいでいる。

 天蓋からさがっている薄い生地を開いて、おそるおそる室内の様子を探る。大きな鏡の置かれた台座の向こう側で、卓の上に何かを並べている人影があった。


 セラフィと同じきっちりとした衣装を纏っている。彼女とお揃いの衣装を見て、ミアは警戒を解いた。彼らの纏う衣装は制服なのだろうか。ベルゼだけが全体的に黒い衣装だが、色目や形の違いはあっても、折り返して裏地が見える襟や袖口には、共通した美しい模様を描く生地が使用されている。


 寝台をおりて鏡の台座まで歩いたところで、食事の用意をしていた人影がミアに気づいた。


「お目覚めですか」


「あ、はい」


「食事をお持ちしました。召し上がれるようなら、どうぞ」


「ありがとうございます」


 何度か住処である支部でも見たことのある顔だった。彼はミアにゲルムと名乗った。シルファは影の一族(シャドウ)を世話をする者として残してくれているのだろう。食事の支度に現れた彼は、小柄で綺麗な顔をした美青年である。


 影の一族(シャドウ)には美形が多いというのがミアの感想だった。そもそもシルファを筆頭に、マスティアの人々には美しい人が多い気がする。


(たしかにこんなに綺麗な人が周りに揃っていたら、わたしなんて目に入らないか)


 卑屈になっているわけではなく、素直にそう感じてしまう。


「またのちほど伺いますが、何かあったらすぐにお呼び下さい」


 ゲルムは美青年らしい柔らかな微笑みと共に、そう言い残して部屋から出て行った。ミアは食事の用意された卓につく。美味しそうな香りが立ち昇っていた。


「血を増やすためにも、食べなきゃ」


 それほど空腹を感じていなかったが、一口含むと止まらなくなった。思っていたよりずっとお腹が空いていたようだ。ミアは卓上に用意されていた食事をもりもりと食べた。


 空腹が満たされると、さっきよりも身体が軽くなった気がする。改めて広い室内を眺めるが、食事が済むとすることもなく退屈だった。


 この部屋を出ない方が良いのかもしれない。一瞬そう考えたが、王宮の離れには影の一族(シャドウ)の気配もする。シルファも部屋を出るなとは言わなかった。


 離れの中を見てまわる位なら何も危険を伴わないだろう。

 シルファに与えられている離れは、お城のように広い建物である。ミアは書庫があったのを思い出す。絵本を探してみようと思い立ち、部屋の厳かな扉を開く。


 顔を出してみると、室外の廊下で二人の影の一族(シャドウ)が守衛のように立っていた。

 自分が思い立ったことを話してみると、彼らは快く許してくれた。どうやらシルファが予め離れの中を散策すること許してくれているようだ。


 案内を申し出られたが、あまり面識のない影の一族(シャドウ)には気を遣う。ミアは丁重に断った。城内には所々、守衛のように影の一族(シャドウ)が立っているので、彼らはミアに付き従う命令までは受けていないようだ。


 広く美しい城内。長い廊下を歩きだす。王宮ほどの豪華絢爛さはないが、元の世界で一庶民だったミアには充分別世界である。昼下がりの穏やかな雰囲気で、窓からの陽光が明るい。


(でも、セラフィと駆け付けた時とは、随分印象が違うような……)


 夜だったからだろうか。いくつも突き当たりを曲がり、通路が入り組んでまるで迷宮のようだった記憶がある。


(気のせいかな)


 ミアは書庫のある塔へと続く通路を進む。やはりセラフィとよく似た衣装を着た影の一族(シャドウ)が配備されていて、ミアは横切るたびに会釈した。


 離れから書庫へ続く通路は、書庫の正面扉ではなく、裏口のような小さな出入口に続いている。塔の造形をそのまま利用した、中央が吹き抜けになっている円形の書庫。離れからの通路は書庫の二階に通じている。


 しんとした静寂を想像していたのに、話し声が響いている。一階の正面扉に人影があった。衣装から影の一族(シャドウ)であることがわかるが、向かいに立つ人影にも見覚えがある。


 豪奢な金髪が光を弾いて輝いている。以前見た時のような派手な衣装ではなかったが、それでも目を惹く美しい容姿は変わらない。


「ドミニオ王子?」

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