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聖女よ、我に血を捧げよ  作者: 長月京子
第七章:シルファの告白

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1:召喚の理由

 教会を出てからも、セラフィは一緒についてきた。ミアが近くの店で買い物をしている時も、彼女はいつもの明るい調子で手に取った商品について説明をしてくれたりする。


 菜園で感じた様子は跡形もないが、ミアは変わらないセラフィの無邪気さを、なぜかそのまま素直に見られない。


 自分を強く抱きしめて、震えていた細い肩。ほんの一瞬の出来事だったが、彼女は取り乱していたのだ。セラフィから陽気な仮面をはぎ取ってしまうほどの何か。


 追求したい気持ちはあったが、菜園で彼女が背中を向けた時に、詮索を拒む雰囲気を感じた。いつもの陽気な笑顔のままで、とつぜん築かれた壁。


 セラフィの様子に戸惑ったが、ミアが怖気づいたのは別の理由だった。

 自分がシルファに与えている何らかの恩恵。秘められている役割。

 知ることを恐れた真実と、もし繋がっていたら――。


(――知らない方が、良いのかも)


 恐れている自分が、セラフィへの詮索を許さない。これ以上は踏み込むなと警鐘を鳴らす。

 ミアは何とも言えない気持ちを抱えたまま、買い物を終えて帰途についた。


 事務所兼住処である小さな家につくと、セラフィは報告することでもあるのか、すぐに事務所に通じる玄関へと足を向けた。ミアは仕事の邪魔をするのは避けたいので、彼女と別れて裏口へと回る。





 ミアは気持ちを切り替えて昼食の用意をはじめた。借りている本を開いて、料理の分量を確認する。不思議と何かに取り組んでいると、無駄なことを考えずにいられる。


 本の記載の通りに材料をそろえ、調味料も加えた。あとは少し煮込むだけだった。野菜を切り分けて器に盛りつけながら、そろそろシルファを呼びに行こうかと思った頃、背後で物音がした。


 ミアが振り返ると、シルファがやって来て食卓の近くにある長椅子にかける。


「ちょうど良かった。今呼びに行こうかなって思っていたところ」


 野菜を盛り付けた器を食卓に置きながら声をかけると、シルファがこちらを仰ぐ。


「ミア、……少し話がある」


 いつもの様子と異なる、暗い声だった。ミアは嫌な予感がして動きを止めた。食卓の前に立ち尽くしてしまう。


「話って?」


 セラフィの様子が頭をよぎったが、深刻さを蹴散らすように、ミアはいつもの調子で食卓の椅子に掛けた。


「セラフィに、ミアが味覚を失っていると聞いた。……本当なのか?」


「ああ、うん。別に隠していたわけじゃなくて。はじめは一時的なことかもしれないと思っていたし」


 シルファは「そうか」と答えて、視線を伏せる。


「何も気付かずに、ミアの料理に不平を言っていたなんて、悪かったな」


「そんなの! 私がきちんと話さなかったからだし。それに、シルファはいつも残さず食べてくれたから。こっちこそ、ごめんね」


 彼に謝罪されるのは後ろめたい。ミアが戸惑っていると、シルファが顔をあげた。綺麗な紫の瞳に自嘲めいた光が浮かんでいる。


 彼がふっと吐息をつく様子が、蹴散らしたはすの深刻さを呼び戻す。ミアも息苦しさを感じて思わず深く呼吸をした。


「――私が、失敗したのかもしれない」


「失敗?」


「ミアの召喚に力が足りなかったのかもしれない。……最低だな。ミアが甘さだけを感じるのも、きっと召喚が不完全だったせいだろう」


 とてつもなく嫌な予感がしているのに、ミアはぼっと顔色が反応する。セラフィは全てを報告してしまったのだろうか。


「セラフィは、わたしがアウルかもしれないって言っていたけど、違うの?」


 味覚の甘さから話題を逸らそうと、ミアは思いつきで尋ねる。


「アウルって何?」


聖なる光(アウル)、か。……説明すると長くなるが、ミアは違うよ」


「違うの?」


「――ああ」


 何かをためらうように、シルファがすっと視線を逸らした。固く目を閉じてから、再び真っすぐにミアを見つめる。綺麗な眼に、決然とした色が宿っていた。


「おまえに何も話さずにいるのは卑怯だな。私がなぜミアを召喚したのか、どんな役目を押し付けているか、この機会に話しておこうか」


 シルファがいつになく強い眼差しでこちらを見ている。


「べ、べつに、シルファが話したくないなら、教えてくれなくても大丈夫だけど」


 動悸がしていた。彼が打ち明けようとしている事実から、思わず逃げ出そうとしてしまう。


「そういうわけにもいかない。――ミア、私は人ではない」


「……う、ん?」


 思わずシルファの紫の瞳を見つめてしまう。あまりにも予想外の告白だった。また自分のことをからかっているのではないかと、猜疑心が顔を出した。

 どう突っ込むべきかと逡巡していると、シルファはそのまま話を続ける。


「ミアには受け入れがたい話かもしれないが――」


 崇高な一族(サクリード)、最後の純血種。

 現在の王家との関わり。

 影の一族(シャドウ)の使役。

 同族による裏切り。失われた心臓。生きながらえるために必要な糧。


 彼の淡々とした説明を聞くうちに、悪戯を仕掛けられているという感覚は失われていた。シルファの思い詰めた様子が、いつまでたっても変わらないからだ。


「ミアは私がようやく見つけた聖女だ。崇高な一族(サクリード)にとっては、聖女の血肉は力になる。心臓を喰らえば、私は復活できる。――はっきり言えば、おまえは私が生きるための生贄だな」

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