枯れ木に枯れた栄養を
もう無駄よ、と、手を振り払ってあたしは嗤った――。
「別れよう」
なにを言われるのかと思って来てみれば。
「てっきり指輪でも渡されるかと思ったわ。――理由は、聞かない」
どんな理由でも、納得はできないだろうから。
「……ごめんな」
「いいわ。それじゃあね。楽しかったわ」
もしも理由を語られて納得できるなら、その女は相手を愛していないのだ。
楽しかったわ、とあたしはもう一度呟いた。疲れていて、シャワーも浴びずにベッドに倒れ込む。
「本当、楽しかったのよ……」
淡々としていると言われるあたしに、君は温かいと言ってくれた人。誰がなんと言おうと、君は優しいと言ってくれた人。あの言葉は嘘じゃなかったわよね?
もし今同じことを言えば、それは嘘になるかもしれないけれど――。
それでもね、あたしあなたが大好きだわ。でももう、いいの。もう、いいのよ……。だってあたし、去る者は追えないの。自分が、惨めになるだけだから。
窓の外で枯れ木が震えた。
「――今さら、なにかしら」
そして今、目の前には彼がいる。あのときと同じ、少し高めのレストラン。あたしの見た目も変わらなければ(変わらないように努力をしているとも言うのだけれど)、彼の見た目もさして変わらない。やや疲れたような顔をしてはいるが。
「事情が、あったんだ。両親が――」
そこから彼は、憑かれたように話し始めた。あたしは淡々と料理を食べ進めていた。長い長い話は、好きじゃない。特に、家庭事情のお話。聞いていてどう反応すればいいのか分からないから。
「本当は君と結婚したかった! 事実、ああなる前は結婚するつもりで準備をしていたんだ。でも、君に迷惑はかけられないと思って――」
「食事がまずくなるわ。せめて、そういった弁解は食後のコーヒーまで待てないのかしら?」
「どうしてだい!? 僕は今、君に聞いてほしくて――」
「ええそうね、あたしがまだあなたのことを好きでいたなら、聞いてあげたわ。でも残念ね、あなたはミスを犯したのよ」
店内の視線が集まり始める。だけどあたしは気にせず、話し続けた。知るものか。恥をかくのは男の方だ。あたしはただ、毅然と言いたいことを言ってしまえばいいのよ。
「事情があった? 知らないわよ。あたしを信頼していなかったんでしょう? だから別れを切り出した。違う? そういうのはね、エゴって言うのよ。どうしてあたしの迷惑をあなたに決められなくちゃならないの?」
あの日枯れた木の側に、あたしの愛は置いてきた。とっくに枯れていた愛だから、枯れ木の栄養にはならなかったでしょうけれど。
「さようなら。あなたはもう、あたしに釣り合わないわ」
読んで下さってありがとうございました!
クラスメイトが枯れた木を見て短歌を作っていたもので、つい……。休み時間に川柳とか俳句とか短歌とか、なんでもいいから作ろうってことになって作ったようですね。綺麗で私は好きだったのですが、忘れてしまいました。




