表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

17.昔日

 昔、泣き虫な馬鹿がひとりいた。


 馬鹿にはいっちょ前に、好きな女の子がいた。取り立てて噂にはならない女の子だったが、馬鹿にとってはドストライクだった。


 とはいえその馬鹿は引っ込み思案で、内気で、人見知りで。彼女を遠くから眺めているばかりで、なにかアプローチを仕掛けようということはしなかった。


 それで満足だったのだ。


 けれどある日、偶然にも馬鹿は見かけてしまう――放課後の教室。


 女の子は、ひとりで泣いていた。


 なにがあったのかはわからない。いじめられていたのか、それともなにか他のことがあったのか。とにかく彼女は、確かに泣いていた。


 そしてその日から、一度も笑わなくなった。


 馬鹿は――どうにかしたいと願った。


 馬鹿は彼女が好きだった。彼女の笑っている顔が好きだった。闊達かったつに笑う彼女が好きだった。だから、また笑ってもらいたいと思った。


 けれど馬鹿は、どうしようもなく馬鹿だった。


 ようやくアプローチを仕掛けるも、どうしたって慣れないことだ、あれもこれも功を奏することはない。全ては徒労に終わり、周囲からは意図を解されず遠巻きにされ、結局彼女の笑顔を見ることは叶わなかった。


 馬鹿は自分の無力さに、泣いた。あまりにも弱い自分に、失望した。

 そして、馬鹿は悟った。


 ああ、そうか。ダメなんだ。自分じゃあ、足りないんだ。

 自分が主人公じゃないから。道化にすらなりきれないから、彼女を笑わせられない。


 主人公ならきっと、颯爽さっそうとかっこうよく立ち回って彼女の笑顔を取り戻すんだろう。愉快に剽軽ひょうきんな道化なら、多彩に笑いを咲かせられるのだろう。


 でも、自分はそのどちらでもないから。

 どちらにもなれないから。

 だから、俺は、彼女を助けられない。


 そうやって、俯いて。二度と舞台に立とうとするまいと、諦めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ